13 ゼロとの出会い、師匠との別れ
ゼロと出会ったのはキースがまだ十四〜五歳頃だったと思う。
二つ年下の男の子、キースがゼロを助けたことがきっかけだった。
師匠はゼロを孤児院に連れて行ってやらなければならないと言い出したために、近くの街へと足を向けた。
ゼロはむっつりとしていたが「助けてくれてありがとう」と師匠に言った。
助けたのは俺だったと思いながらも、キースはまぁ普通に生きていられたならば、反抗期が始まると言われる年頃だとゼロをまともに相手にすることを止めた。
師匠とは普通に言葉を交わしているので、不満はキースに向かっているらしかった。
それほど年が変わらない相手に助けられたのが気に入らないのだろうと師匠に言われて納得した。
ゼロはキースと同じで安全だと思っている自分の家で、両親を殺された。
そこに飛び込んだのがキースで、来るなら両親が殺される前に来い!!とでも思っているのだろうとキースはゼロの気持ちがよく解った。
他力に頼むしか出来ない弱い自分が許せないのだ。
キースもそうだった。
自分一人が逃げ出したあの瞬間を忘れられない。
家族の目が、お前だけでも助かってくれと思っていたのか、お前だけ逃げるのかと思っていたのか、今はもう知りようがない。
ゼロは歩き続けて足が痛くなってきたのだろうか、それとも両親のことを思い出したのか?しゃくりあげて泣き始めた。
泣けたなら大丈夫だ。
俺と師匠は気付かないふりをした。
ゼロが泣き止んだ時、ゼロは師匠に弟子入したいと言い始めた。
師匠は既にキースを抱えていたので、ゼロの面倒まで見られないと言ったが「バウンティハンターになって俺と同じ思いをする奴を一人でも減らしたい」と何処かで聞いたことがあるようなことを言い出した。
師匠にニヤニヤとした顔で見られてキースは小っ恥ずかしい思いをしながら、ゼロの面倒を見てやれと師匠に言われて了承した。
ゼロは元々の勘の良さは持ち合わせていなかったが、一緒に行動する時間が長くなると、胸騒ぎがすると言い出すようになった。
師匠もキースも当然解っていてゼロが言い出す前から既にそちらに向かっていた。俺達はゼロに「胸騒ぎのする方へ急げ」と急き立てた。
ゼロの仕事は逃げる奴がいないか見張るだけだ。
まだまだ人を切る覚悟も出来ていないし、捕縛する能力も持ち合わせていない。
ゼロが胸騒ぎしたところはゼロと同じように両親が殺されそうになっているところだった。
今回は間に合って、両親とその子供達を助けることも出来た。
ただゼロが無謀にも突っ込んでさえいなければ怪我人は出さずに済んだのに、ゼロは自分の体験とその現場が似通っていたために混乱して犯人へと突っ込んでいった。
一瞬あっけにとられた俺は一瞬出遅れて、慌てて首根っこを掴んで引っ張ったがゼロが犯人の剣の先で撫でられた。
腕を浅く表皮が斬られゼロは痛みと驚きで転がり、その現場は混乱した。
冷静だった師匠にゼロがつまみ出され、キースが犯人の足の腱を斬って逃げられないようにして、犯人の武器を取り上げた。それからゼロの様子を見に行った。
ゼロの傷は本当に浅くてまぁ、暫くは痛むだろうが純度の高い酒で傷口を拭い、包帯を巻いてやった。
犯人は師匠の生き物も入れられるマジックバックに収納されて、ゼロのドタバタで他の犯人達も村人に混ざって様子を見に来ていた。
キースは何食わぬ顔で「仲間が斬られたんだ。助けてくれ」と犯人の一味の二人の手を引っ張って村人達から離してこちらも足の腱を斬った。
村人達が驚いて二〜三歩下がる。
「あっ、すみません。この人達も犯人なので、集落の皆が無事か確認してもらえますか?」
村人は慌てて一軒一軒の家を回って無事の確認をして、一人腹が斬られていたが、浅く命に別状はなかった。
ゼロは師匠にしこたま怒られた。
自分に実力がないのに、突っ込む馬鹿がいるかと拳骨を食らっていた。
それからのゼロの成長は目を見張る物があった。
何事にも真面目に取り組み、自分を律する事もできるようになった。
自分の実力を過信せず、出来ないことは出来ないと言うようになった。師匠には。
キースには対抗心があるのか、負けるものかと張り合うようになった。
俺は頭を掻きつつゼロの好きにさせた。
いちいち構うのが面倒だったと言えばゼロが機嫌を悪くするのも解っていたので、キースは要らぬことは口にしないほうがいいとこの時、学んだ。
一年半ほど一緒にいたゼロは、師匠の知り合いに預けられることになった。
ゼロは不満顔だったが師匠に「儂に教えられるより、その男に教えられる方がゼロは伸びることは間違いない。バウンティハンターでも色々なやり方がある。その男に付いていけ」と説得されて涙ながら「ありがとうございました」と言ってゼロと別れることになった。
「師匠、さっきの方の戦い方ってどんな方法なんですか?」
「あいつはな、気配消して背後から忍び寄る・・・かな?」
「師匠も同じことするじゃないか」
「まぁな・・・。ちょっとだけお前との仲の悪さに面倒になったというのは内緒じゃ」
「師匠、さすがにそれは可哀想じゃないか?」
「だがな、本当に相性はあいつのほうがいいんじゃよ」
「それに、儂のものはキースに全て譲ると決めている。ゼロにやれるものはこれ以上なにもないんじゃよ」
キースは師匠の言葉に嬉しいのと恥ずかしいのとで顔を赤くした。
キースが十九歳になって直ぐの頃、師匠が「もう儂は年だからの引退しようと思っとる」と言い出した。
「俺よりよく動く体なのに何言ってるんだ?」
キースから見て師匠の体の動きは全く鈍っていなかった。
「いや、勘がな鈍ってきている。なにかが起こっていると感じるのがキースより大分後になってきているんじゃ」
それには思い当たる節があった。
キースは返事ができずに口ごもっていた。
「この先に儂の出身の村があるんじゃ。そこには儂の家がある。次の街で必要なものを買ってその村で暮らしていこうかと思っとる」
「俺は一人でやっていけるのか?」
「儂はそう思っとるよ。不安ならゼロ達を探せば良い」
「それは嫌だ・・・」
師匠は「ワッハハハハハッ!!」と大きな声で笑った。
「暫くは無理をするな。一人になれることから始めろ。もしくは弟子を取れ。教えながら相手を守って、相手にも守ってもらえ。バウンティハンターなんぞ、一人でやるもんでもない。ただ儂や、お前のように人と一緒では落ち着かないもんもいるがな・・・。教えられることは教えたつもりじゃ。己を研ぎ澄ませろ。油断はするな。白と思ってもグレーだと疑い続けろ」
「解った」
「儂の村まで送ってくれるか?」
「ああ」
その日「お前がバウンティハンターを辞める時、渡してもいいと思った相手に渡してやれ。そうやって受け継いでいくものだ」と言って空間収納を中身入りで譲渡された。
空間収納の中に金が入っていたからそれは渡そうと思ったら「儂の師匠から渡された時に入っていたものだ。儂が稼いだ金は出してある。お前も誰かに渡す時、同じだけの金は入れといてやれ」
「解った・・・」
涙が出そうになったが、俺は日が暮れて互いの顔が見えなくなるまでは我慢した。
キースが八歳の頃に師匠に拾ってもらった。
約十一年。ずっと面倒見てもらった。何の役にも立たないガキだった。
それを一からここまで育て上げてくれた。
これからは一人で眠ることになる。
背中を預けることができなくなることがどれほど恐ろしいか、キースは師匠の気配を感じながら眠りについた。
街で布団やら必要なものを買って、空間収納に入れた。
師匠の家はその街からは馬で半日ほどだった。
師匠は「もう帰れ」と言ったが俺は一緒に掃除をして、師匠が飯の支度ができるまで師匠と一緒にいた。
キースは師匠に抱きついて「今までありがとうございました」と伝えて「近くに来たら泊めてくださいね」と笑って師匠と別れた。
きっと師匠は今頃泣いている。
だって俺も泣いているから。
それから一年か二年に一度、師匠の家に泊まりに行っている。
師匠は「何だまた来たのか?」と文句を言いながらうまい飯を作ってくれる。
久しぶりに師匠の顔を見に行こうかとキースは思い立ち、師匠がいる村の方へ馬の方向を変えた。




