リクセン軍が将校 上位三傑
ネヴィアが大鎌を構え、クロウが背中から十字槍を抜き放ち、一触即発の空気が辺りを支配する。
二人の身体から漏れ出る剣気は、並みの兵士じゃそれだけで意識を失うほどに濃い。
だが、あくまでもそれは人間の域。
その程度で俺に勝てると思うなよ。
黒く禍々しい感情が頭の中に溢れ出し、身体中を染め上げてゆく。
「雅流一仭が彩霞律。推して——」
「ちょーっと待った。待つのさ、待つのさなのね」
たった今、思考が染め上げられそうになったその時、慌てた様子のネヴィアが身体の前で両手を交差させる。それと同時に、先ほどまでの剣気を一瞬で消し去り、「これだから戦馬鹿は嫌いなのさ」と悪態までついてきた。
「——何のつもりだ」
俺は俺で、一度戦闘態勢に入った状態をそうそう解けるわけでもなく、柄から手を離すことが出来ない。
「——ふむ。興がのったため、ネヴィアの冗談に付き合ってはみたものの、貴様も冗談が通じない質か」
クロウはクロウでネヴィアと同じく一瞬で剣気を霧散させると、何やら深く瞑目しだす。
「戦士とはいえ、もう少し余裕を持った方が良いな。貴様がいくら剣の道を極めようと、それだけで人の生は過ごせん」
「キヒヒっ、それ前に自分が言われた言葉なのさね。自分のことを棚にあげるのはどうなのかって思うわけなのさ」
「……黙れ、ネヴィア。その首はね飛ばすぞ」
「ご自由にするのさ。何なら、それこそ冗談抜きで前の戦いの決着をつけてもいいのさね」
俺のことを置き去りにして、二人は一種、息のあったやり取りを繰り広げだす。
「……あ?」
意図せず口から間抜けな声が出てしまったのも許容してほしい。
俺はコイツらの弔い合戦に乗せられて刀に手を掛けたはずだが、肝心のコイツらからそもそもその気が感じ取れなくなってしまった。
「融通の利かない男は嫌われるのさね」
「貴様に好かれようなどど思ったことは今生で一度もない」
「キヒヒっ、それは残念なのさ。でも良いのかい? アタシに嫌われたらネネちゃんが黙っていないのさね。前にも「お父さん、友達は大事にしないと」って怒られてたのさね」
「……貴様を俺の友人だと思い込んでいるネネにも問題はあるが、確かにそれは看過出来ない事態だ。喜べ、今日のところは見逃そう」
「寛大な処置に感謝なのさね。キヒヒっ……と、何を惚けた顔してるのさ、侍坊や」
と、そこまでは話終えて、ようやくネヴィアは俺の方へと向きなおる。
しかも、その視線はあたかも可哀想なものを見るかのような目で、さらに俺の神経を逆撫でする。
「説明しろよ。……この茶番はなんだ?」
俺だって生粋の馬鹿じゃない。
先の剣気や戦闘姿勢が余興だったということくらいは理解が出来た。
ただ、わざわざ俺を呼び出してまでコレがしたかった訳じゃあるまいし、ましてや、クロウが此処に来たのもおそらく偶然の出来事だ。
無駄にコイツらの息が合っているのにも驚いたが、付き合わされたこっちの身にも少しはなってもらわないと、到底納得など出来るはずがない。
「頭の固い坊やなのさね。ちょっとからかったぐらいでムキになり過ぎなのさ。そもそも勝手に勘違いしたのは侍坊やの方なのさね。人の話も聞かずに勝手に早とちりして。アタシも刀に手を掛けられた時は、流石にビックリしたのさね。でも、まあ乗ってみるのも面白いかなって感じで——」
「ネヴィアから良からぬ視線を感じた俺は、即興でその悪巧みに合わせたというだけだ。安心しろ、彩霞律よ。貴様が考えているようなことは、現状、頭の中にはない。むしろ——」
「むしろ礼を言いたかったのさね。キヒヒっ、前の戦争で坊やとエンヴィルがどういうやり取りをしたのかは、兵士たちから聞いているのさね。だから——一言礼を言いたかったのさね」
「俺の場合はそれだけではなく、ネネのこともある。国の命令とはいえ、二度と会えぬと思っていた愛娘にあの段階で会えるとは露ほどにも思っていなかった」
ネヴィアはおもむろに地面に刺された剣に手を掛け、「アンタも本望なのさね」と、旧来の友人に話すかのように問いかける。
そもそも先の二人のやり取りを見る限り、エンヴィルも同じような関係だったんじゃないだろうか。
ネヴィアを見るクロウも同じように憐憫の表情を浮かべている。
「身の上話を好んでする方ではないが、貴様は奇しくも俺たち三人に関わり過ぎた。一国家の将校ともなれば、一線を引く輩も少なくはない中、まさか敵国の一兵士が俺たちの間に入ってくるとは……」
「想像もしてなかったのさね。これも奇縁っていうのかなのさね。っていうか、侍坊やが異常なのさね。キヒヒっ」
先へ先へと話を進めていく二人を俺は止めることが出来なかった。言葉の節々に俺への中傷があったことは苛つくが、何故かコイツらの表情を見ていると、黙って聞き入ってしまう。
「キヒヒっ、長くなるが聞くかい? 侍坊や。アンタには聞く権利があるし、聞いてほしいと思ったから此処に連れてきたのさね」
それこそが要件だとネヴィアは告げる。
俺は無意味に時間を消費するのは御免な質だ。
ただ、この話を無意味だというのならば、俺もその程度の人間だったと言わざるを得なくなる。
「話せよ。お前たちが望むなら、俺にそれを拒む理由はない」




