一振りの無骨な剣
ネヴィアに連れられた俺は、城門から少し歩いたところにある高台へと歩みを進める。
道中、街中で数多の視線を浴びせられたが、それは俺の同行者がこの国でも有名なイカレ具合をしているからだろうと自分に思い込ませた。視線を集めていたのは決して俺じゃない。
「やっぱりその格好は目立つのさね。上から布でも被せるべきだったのかもなのさ」
グリグリと俺の痛いところを突いてくるのは先のやり取りで重々分かったつもりでいるが、今だけは声を大にして否定してやりたい。
——この異常なまでの視線はおまえのせいだ
確かに俺の服装は怪我のせいもあって、着慣れたいつもの着流しとなっている。
その上、腰に刀を差している以上、この国にとっては異物でしかないのは間違いない。
だが、先程から聞こえてくる彼らの話を聞く限り、
「あの狂犬が知らない男と二人で……」
「おいっ、目を合わすな。すぐに難癖つけて殴られるぞ……」などといった、一種非難めいたものが含まれて以上、どう考えても注目を浴びているのはネヴィアだ。
——コイツ、どんな日常生活を送ってやがった
「キヒヒッ、注目されるのは僻み妬みの一種だと思えばいいのさ。アイツらとアタシたちは根本的に違う生き物なんだからね」
そう口にするのは良いし、それこそコイツの言う通り勝手にしてくれても問題ないんだが、それでもこれだけは口にしないといけない。
「——注目を浴びているのも非難されているのもオマエだよ、阿呆」
ネヴィアはその言を聞いたとたん、これまた派手に笑い声を上げて、さらに街中の注目を集めてしまう。
コイツと付き合うのは本気で面倒だ。
さっさと用事とやらを終わらせて、コイツと離れよう。
そう心の底から願っていたその矢先に「……あれが目的地なのさ、侍坊や」とネヴィアが高台の上を指差す。
まだ少し距離はあるが、それでもそこが何なのかは一目で理解出来た。
あれは——墓地だ。
その地に着いたとたん、急に死の匂いが濃くなる。
別に此処が戦場で彼らの死に場というわけでも無いだろうが、それでもこの地に漂う空気は街中と一変している。
感覚が研ぎ澄まされ、得てして戦さ時にしか感じ取れない「死線」が身体中にまとわりついていく。
ネヴィアも一角の戦士である以上、同じ匂いは感じ取っているはずなのに、まるでその「死線」を無視するかのように躊躇なく奥の方へと歩みを進めていく。
——まあ、でも俺も他人のことはとやかく言えないな
これまで何度も「死線」を潜り抜けてきたせいか、感覚が鋭敏ゆえに無頓着になってしまう。
ようは——「死線」っていうのはいつも近くにあるものだってことだ
俺は勿論、コイツもそれなりの命は奪ってきたはず。
いまさら「死線」がどうこうと考える必要性はない。
訪れる時は自分が負けた時で、及ぼす時は自分が奪った時に相違ない。
しかし、いよいよ何のために俺を此処まで連れてきたのか。まさか、俺が斃したリクセン軍の兵士たちに弔いの言葉でも差し上げろって魂胆か?
いや——それこそ有り得ない。
一角の戦士である以上、戦場での在り方なんて百も承知。
だったらいったい——
「着いたのさね」
俺の疑問を尻目にネヴィアは立ち止まり——そこには地面に突き立てられた一振りの無骨な剣があった。
そして俺には、奇しくもその剣に見覚えがあった。
リクセン軍が上位三傑——エンヴィル・カナート
合間見えたのは二回だが、その剣筋に曇りはなく、敵将でありながらも一目置ける程度に奴は強さを追い求める男と記憶している。
そして、その男は死闘の末、先の戦争で斃れた。
勿論、俺の手で……
なるほど、これが今日の目的ってわけか。
俺がネヴィアへ確信を問おうとした途端「——珍しい組み合わせを見せてくれる」と、新たな人間がこの場所に姿を現した。
そいつは真っ赤な髪に真紅の鎧を着込み、さらには背に収まらないほどの十字槍を抱え、ゆっくりと俺たちの元へと歩み寄ってくる。
リクセン軍が上位三傑——クロウ・クリエスト
その神速の槍捌きは、俺がこの国に来て初めて脅威だと感じたほどに鋭く、一度はコイツの戦士としての在り方に生命拾いしたことさえ思い出されてしまう。
何の奇縁か、先の戦ではララーナ軍に加勢していたようだが……その男まで現れたとなると、ますます俺の予想は間違っていなさそうだ。
「キヒヒッ、良い時間に来るじゃないのさ、クロウ」
「ああ、これほどの好機はまたと無い。彩霞律よ、久方ぶりだな。壮健のようで何よりだ。その様子を見た限り、どうやら冥土には嫌われたらしい」
そう口にしたクロウの顔が、珍しく柔和に歪む。
冗談を口にする奴じゃないが、どうやらそれなりにご機嫌の模様。
さて、この先のことはあまり想像もしたくないんだが、此処までくればもう確定か。
「……下手な芝居はよせよ。おまえ達二人の魂胆は十分理解した。——とっとと抜け」
俺は自分の刀に手を掛け、半身を後ろにずらす。
正直、病み上がりの身体でこの二人を相手取るのは無謀にもほどがある。
ただ、あれを試してみるには丁度良い相手と言えなくもない。
「掛かってこいよ、上位三傑。先の弔い合戦がしたいなら、俺は逃げも隠れもしない」
身体の芯を書き換える。奥の奥、その奥から噴き出す一心に心を染め上げ——俺は人の域を超越する。




