政の世界
「君も良い家族を持っていますね」
ようやく祈梨たちを退出させ、部屋に残ったのは俺、ライアス、アルゴのみ。
ネヴィアは何故か最後まで後ろ髪引かれる様相でいたが、その理由も今から説明してくれるんだろう。
「まあ、まずは現状整理ってところかな。リクセン城でのあらましはヴィンから聞いてるだろ? そこから先——この戦争自体がどうなったのかをまずは教えてくれないか?」
この戦争に勝ったのは間違いがない。
問題はその後の話だ。俺が最後に戦ったのは奇しくも倭国から来た侍連中。じゃあ、ララーナ王国とリクセン国そのものが今どうなっているのか。それと、あの場で姿を消した倭国の侍たちの行方はどうなっているのか。聞きたいことは山のようにある。
「ではまず、君の置かれている立場から説明しましょう。あくまでも私の知っている範囲での説明になりますので、容赦ください。君はヴィンセントに担がれ、リクセン城から担ぎ出されてきました。正直、あの姿を見た時は肝が冷えたものです。——どう見ても瀕死の状態でしたからね」
「おまえさんはその後、すぐに医療班に連れられて集中治療室行き。あの時のフェアリやカエラの様子をつぶさに話してやりてえぐらいだ」
「そうしてすぐ、後発隊としてリクセン城に突入したオブリル卿率いる正騎士部隊がリクセン王の遺体、さらに王女の身柄を確保して参られました」
なるほど、俺の記憶ではリクセン王と見られる人物は狂夜たちに吊し上げられていた。まずそれが王の死因に違いない。
「……二国間の問題だっていうのに、第三国の奴に首級を持っていかれるってのもあれだな」
「ええ、そのあたりは惜しいとしか言いようがありません。ですが結果として我々はこの戦争に勝利し、対外的には我が国の精鋭がリクセン王を討ち取ったと触れ回っているのが現状です」
「何ともまあ締まらねえ話だ」
アルゴが苦い顔をするのも無理はない。
だが、これがある種いちばん収まりの良い終わらせ方なのも事実。無駄に真実を公表することが世のためになるってわけでもない典型的な例だ。
「……しかし、最後の最後でやっぱりあの貴族様が出張ってきたか」
「ええ、もはや彼は時の人——いわゆる救国の英雄扱いです。自分自身は手を下さず功を手に入れる辺り、オブリル卿の立ち回りには一種感銘すら受けますよ」
そうやって苦笑いしている割には、言葉の節々に棘を感じる。
まあ、いくら真面目を絵に描いたようなライアスであっても、命を張って前線で戦う騎士にとって、感じるものがあるのも事実なんだろう。
「じゃあ次の話だ。ヴィンの野郎は多分政に追われてるんだろうが、あいつと一緒にいた着流しの女剣士はどうなった?」
倭国にて最強と呼ばれた侍。あいつがいたから俺は何とか此処まで生き延びてこられたが、感謝以上にあのババアには謎が多すぎる。どうやらババアの目的はリクセン国にある魔鉱石の存在だったようだが、それでもあの女の行動には理解が出来ない点が多い。
「君の言う女性は、確かにヴィンセントと共にリクセン城から出て来られました。その姿自体は私も確認しましたが、今は行方知らずといったところです。情けない話ではありますが、あの時は城内への突貫、君の緊急手当と、それどころではありませんでしたからね。しかし今更ではありますが、ヴィンセントの話を聞く限り、あの時彼女の身柄を確保出来なかったのは痛恨の極みです」
「まさか倭国がこの国に干渉してきてるなんざ、露ほどにも感じてなかったからな。ヴィンセントの野郎の話を聞く限り、相当な手練れだって話じゃねえか。マジで惜しいことをしちまったぜ」
アルゴのおっさんはそう悔しがるが、どう考えてもアンタは情報収集が目的じゃなく、ただ強い奴と手合わせしたいだけだろうが。
「悪いことは言わない、アイツだけは止めとけオッサン。とてもじゃないが、アンタの手に負える相手じゃない」
あれはもう人間の器を超えた化け物だ。
こっちはそれを散々見せつけられたし、体感させれるハメにもなった。余程の要件が無い限りは、触らぬアレに祟り無しだよ。
「——まあ、俺にはその余程の要件が出来ちまったんだけどな」
「あん? 何だって?」
「気にすんな、独り言だ。それより話を続けてくれ。ババアの行方はともかくとして、今の両国の状況は?」
「お陰様で大きな問題は起こっていません。少なくともリクセン国内部も戦時中とはいえ、無理な政治を行っていなかったのでしょう。国民も含め、今の段階では反乱分子たる存在の情報は入ってきていません」
「兵士たちも大人しいもんだ。どいつもこいつも気力を無くしちまったように燃え尽きちまってる」
「ええ、それほどまでにリクセン国の王は忠信を集めていたのでしょう。王の死とは国の死とよく言ったものです」
なるほど、現状で突発的な問題が発生している訳でもなく。後はおそらく政の分野。俺たち兵士が出張るのはここまでってことか。
——それが通常通りの考えならばの話だが
「——で? そこまで順調に進んでるんなら、何でアンタたち二人が雁首そろえて俺のところに来てるんだ? まさかただの見舞いって訳じゃ無いんだろう?」
あらためて状態を正し、しっかりと全身に気を巡らす。
怪我の具合は芳しく無いが、無理をすれば動けないほどじゃ無い。
我流の理——それは人体にも影響を及ぼすことが出来る。
まあ、体良く言えば我慢強くいられるってだけなんだがな。
「話が早くて助かります。君のそういったところをヴィンセントは評価しているのでしょうね」
「……勘弁してくれ。アイツに付き合うと毎回碌な事がない。どうせ今回もアイツの差し金なんだろ?」
「おっ、珍しく冴えわたってやがる。正解だ——これはララーナ王国近衛騎士から勅命と思いやがれ」
「彩霞くん。先にも話しましたが、両国の今後については後は政の世界の話です。本来ならばそこに口出しをすることも、口を挟むことも我々にとっては御法度。しかし、それを踏まえてでも政の世界に介入しなければならない事案が生み出されてしまったのです」
「聞けば聞くほどクサイそうな内容だな」
「ああ、その意見には俺も同意だ。こんなもん、俺たちが出張るような事案じゃねえ」
「彩霞くん。ララーナ国はこの戦争に勝利し、敵対国であるリクセン国を自分たちの支配下に置こうと考えています。そこで問題となるのは反乱分子の存在。その存在がある以上、この地ではまた内戦が繰り返されてしまう」
「でもアンタの先の話を聞く限り反乱分子なんてのは……」
「ええ、だからこそなんですよ。反乱分子がいない——その事象自体に不安を覚えたものが、こう提起したのです。公に存在が確認出来ないのなら、公に反乱分子を仕立てあげればいい。そしてその反乱分子を国民に知る形で討伐できれば——」
「国の平定に繋がり、ある種の見せしめにもなるってことか?」
「その通り。そのため、先日行われた貴族主導の主要会議にて、現在捕らえたままにしてあるリクセン国王女の処罰が決定されました。もちろん処罰の内容は斬首。さて、この事実が国中に広まればどうなるか——」
「……リクセンの王ってのがそれなりに人格者だったんだろ? なら、その子女である王女に手を下せば……」
「間違いなく、不穏な考えを起こす者も出て来るでしょうね」
ああ、なるほど理解した。
でも、それなら俺に下される命令ってのは……
「彩霞くん。これから君にして欲しい命題は、蜂起するだろう不穏分子を事前に特定し、制圧することです。秘密裏に処理する事が出来れば、この事案にそれ以上はありません。この事案、下手をすれば内戦どころか、この地全ての民に影響を及ぼしてしまう。我々正騎士が動くには現状、あまりにも目立ちすぎる——頼みましたよ、これが今回、ヴィンセントから君に課せられた勅命です」




