序章
聖歴347年、迷宮都市エリダニス。
この都市は、巨大な迷宮の入り口の上に築かれていた——地下迷宮『嘆きの穴』は、七層までが探索済みであり、それぞれの階層には異なる魔物たちが巣食い、また異なる富が眠っている。
冒険者ギルドの本部の前には、初代『迷宮王』アステリオンが九頭蛇の妖獣を一太刀のもとに斬り捨てる姿を刻んだ彫像が立っている。しかし今、その台座に寄りかかって、分厚い資料集を広げているのは、ボロボロのローブをまとったハーフエルフの少年だった。
彼の名はアレン・ヴェルド。職業は【迷宮探偵】。
エリダニスには、数多の種族と職業がひしめき合っているが、「探偵」という職業が敬意を払われることは少ない。ましてや、その血筋が半分しか人間ではなく、残りの半分は森エルフだというのなら——人間からは距離を置かれ、エルフからは「都市に汚染された」と嫌われる。
だがアレンには、ひとつだけ他にない才能があった。
エルフの血が彼に与えたもの——それは、ある種の「読心」能力だった。正確な言葉を読み取るのではなく、強い感情の残滓を感知することができるのだ。
「感情の残滓」。それは何か神秘的に聞こえるが、迷宮都市においては、非常に実用的な意味を持つ。すなわち——死体や遺物に触れることで、死者が最期に抱いた感情の揺れを感知することができるのだ。恐怖、憤怒、絶望、あるいは安堵——そうした感情は、数日から数週間にわたって、物の表面に「残響」として留まる。
ギルドはその能力を評価せざるを得ず、彼に「特別顧問」という肩書きを与えた。給料は雀の涙だが、仕事は尽きることがない。
今、彼が読みふけっているのは、この三か月間に『嘆きの穴』第五層で起きた、連続失踪事件の資料だった。
六人の冒険者たちが、同じ区域を探索中に、次々と消息を絶った。生きているところも、死体さえも、見つかっていない。
昨日まで。
七人目の失踪者が現れた——いや、正確には、七人目の「一部」が現れたのだ。




