第73話:カッコイイ父上ってなんか違くない?
「これにてF会場の第一予選が終了となります。次の予選につきましては、三十分後に受付で張り出しますので、確認をお願いします」
F会場の予選は、即落ち二コマみたいな早さで終わった。
E会場に比べれば間違いなく強者揃いであったのだが、その中でも父上は飛びぬけており、一騎当千の如く選手を薙ぎ払い、あっという間に残り十人となった。
いやはや、これぞ正に格が違うって奴だな。
折角買ったフライドポテトが、食べ終わる前に終わるとは思わなかった。
「流石お父さんだね。このまま優勝できるかな?」
「出来そうな気もするけど、俺としては三位くらいになって欲しいかな」
「兄さん……」
一緒に観戦していたジオが微妙な視線を向けてくるが、負けて欲しいのが本音だ。
因みにジオとは一緒だが、祖父様達とは一緒ではない。
野外での会場なだけあり、一部の貴族は安全のため専用の場所で観戦できるように作られているのだ。
一応俺とジオも貴族だが、男爵の子供なのと、貴族用の席は息苦しいので一般席で見ていた。
無論ジオには護衛が付いているので、誘拐なんて事も起こらない。
「いや、ほら、カッコイイ父上ってなんか違くない?」
「言いたい事は分かるけど、お父さんだってやる時はちゃんとしっかりとしているよ」
「そのやる時が少なすぎる気もするんだけどねぇ……」
ジオのいうやる時とは、他の貴族との話し合いとかについてだろう。
内政はともかく、外交に関しては父上でしか出来ない領分が多く、勉強のためにジオも一緒に行く事が多い。
よって父上の良い面を見る事が多いのだろうが、俺と母上は父上の駄目な部分のせいでかなり頑張っている。
俺が父上を探しに酒場に行った回数は、優に三桁を越えて居るし、サインをした書類の枚数は四桁を越えている。
そして母上を見て育ったステラはこの事をよく理解しているので、父上にはかなり冷たかったりする。
予選を勝ち上がった父はしっかりとしている様に見えるが、所詮マダオなのだ。
「もう……ところで、兄さんはこの後どうするの?」
「このポテトを食べ終わったら、王都で知り合った人に会いに行ってくる予定だよ。ジオは俺の分も父上を褒めといてよ」
「仕方ないなぁ」
やれやれとため息をつくジオの頭を軽く撫で、一気にポテトを頬張ってから立ち上がる。
ポテトはお祭り価格なためわりと高かったが、その場で揚げてくれたので、ホクホクで美味かった。
基本は交易で稼ごうと思っているが、付加価値をつけて売るのも視野に入れたくなった。
宝石の原石は嵩張ってあまり高くないが、磨き上げて売ればいい値段になる。
更に指輪やブローチにすれば、もっと高くなるだろう。
まあ装飾品を作るのは面倒なので、スキマ時間にやる程度だが、俺には異世界の知識があるので、付加価値については色々と案がある。
この事についてはどんな馬車を…………あっ。
この時、天啓が降りてきた。
「やあ二人とも」
「おかえり」
「戻りましたか。どうでしたか?」
「余裕勝ちだったよ。E会場に比べると全体のレベルは高かったんだけどね」
運良く二人を見付けることが出来たので、父上の時と同じく気配を消して近付くが、途中でアイテールにバレたので普通に声を掛ける。
分かっていたことなので驚きはないが、時と場合によっては先手を取ることは出来そうだな。
勝てるかどうかは別として。
「流石ですね」
「俺としてはあまりよくはないんだけどね」
予選落ちは流石に困るけど、だからと言って余裕勝ちもあまりよくない。
誰か弱めの毒でも盛ってくれないだろうか……。
まあ盛られても直ぐに治ってしまうだろうけど。
「やっぱり強いの?」
「困った事にね。頼むから勝ってね」
「……うん」
不安は残るが、プレッシャーを掛け過ぎるのも悪いし、ここら辺で止めておこう。
それよりも、そろそろ時間になるし、移動を始めた方が良い。
「そろそろ時間になるし、受付に移動しようか」
「そうだね」
受付に移動すると大きな掲示板に次の予選について張り出されており、ズラっと番号が書かれている。
大体百名残っているが、次は八個の会場に分れ、四人になるまでバトルロイヤルが行われる。
先程と同じく先に四個の会場で試合が行われ、その後に残りの四個の試合が行われる。
運が良い事に、シトリスと父上は別の会場になってくれたので、これで後は勝ってさえくれれば問題無い。
「次はA会場か。知ってる名前はあったりする?」
「一人だけ教会の見習いが居ますが、シトリスちゃんには劣りますね」
神聖騎士の見習いじゃなくて、要は神官見習いって事か…………いや、神官が出て良いのか?
まあ良いか。
ついでに父上の方を探すと、E会場となっており、知っている貴族の名前が幾つかあった。
実力だけではなく、何で分けているのが大体分かったな。
「実際に見ないと何とも言えないけど、予定通りになりそうで良かった。シトリスの事だから、なにかトラブルを引っ張ってくるかと思ったけど、これなら杞憂そうだ」
「トラブルってなによ」
「心当たりがあると思うんだけど?」
「……」
目を逸らすな。このトラブルっ子めが。
こればかりは親である勇者と一緒だな。
「やれやれ。それと、お腹は大丈夫かい? 次は前よりも大変だろうし、空腹だと辛いよ」
「アイさんからサンドイッチを貰ったから大丈夫だよ」
アイ…………ああ、偽名か。
俺の場合は名前自体を呼ばないようにしていたが、俺もその偽名を使うとしよう。
「それなら良かった。俺達は観客席に向かうから、そっちも遅れないように向かえよ」
「子供じゃないんだから、大丈夫だもん」
少しむっとした表情をした後、シトリスはA会場に向かって先に行ってしまった。
残念ながら実年齢は勿論の事、態度もシトリスが一番子供だ。
「可愛らしいですね。あれで魔法が使えれば、私も欲しかったですね」
「妹の方はどう? 少し気が強そうだけど、才能だけは俺も認める位だったよ」
「流石に二人の子供を私達が取ってしまうのは問題でしょう。もう一人子供が生まれてくれるとありがたいのですけどね」
割りとクズな話をしているが、この程度の会話は俺達にとって普通の範囲内だ。
それに、本人の意思を無視するつもりは無いので、誘拐とかするつもりもない。
ただ、俺としてはシトリスなんて爆弾を送り込んできた恨みもあるので、出来る限りの仕返しもしたい。
観客席に座るついでにジュースを買い、俺がジュースを買っている間にアイテールは賭け札を買いに出かけた。
どうやら予選の一試合目でも賭けをしていたらしく、サラッと金貨五枚を三十枚にしていた。
ついでに今回もまたシトリスに、オールインで賭けるそうだ。
「子供が一人とは珍しいな。誰か応援にでも来たのか?」
アイテールが戻ってくるのを会場の外で待っていると、厳つい男が話しかけてきた。
……二十代くらいだが、中々しっかりとした体幹だな。
臭いからして酒を飲んでいるのに、隙らしい隙がない。
「うん。知り合いが出るから、応援に来たんだ」
「そうかそうか。第一予選を勝ち上がってるとは、中々強いみたいだな。しかし、なんでこんな暑いのにフードなんて被ってんだ?」
「あまり顔を見られたくないからだよ。ちゃんと門を出る時に許可は取ってるから、怪しくはないよ」
「そりゃあ悪いことを聞いたな」
男は豪快に笑い、持っている酒瓶を呷る。
「それで、誰を応援してるんだ? これもなんかの縁だし賭けさせてくれよ」
「Cの四十八番のオルガンって人だよ。まだ神官見習いだけど……強いよ」
「そうかそうか、そいつは良いことを聞いた。じゃあな坊主」
急に現れたと思ったら、急にいなくなったな……。
巡回している衛兵とは別に、危険人物を探す暗部的な人間だろうか?
パッと見どこにでも居そうな酔っ払いだったし、会話の中身も何の変哲の無いものだが、言葉に詰まればその時点で不審になる内容でもあった。
子供が顔を隠すようにフードを被って立っているのは、端から見れば不審だから仕方ない事だろうが、アイテールが居ない時で良かった。
あいつの変装が見破られる可能性はゼロではないし、それで俺との関係を怪しまれても困る。
貴族の子供の素性なんて、調べれば直ぐに分かるからな。
「お待たせしました。運が悪かったですね」
「見てたのか……出来れば助けて欲しかったけど、それはそれで拗れるかもしれないからねぇ」
助けてくれなかったのは恨むが、助けないのが正解なのだ。
「その様な格好を、しているのが悪いのですよ。脱いでしまえば良いのに」
「念には念をだよ。それに、試合の時は脱いでるし」
「気持ちは分かります、疑いすぎるのもどうかと」
「喧嘩を売ってるのかな?」
疑わなかった結果が今なのだ。
負けると分かっていても、喧嘩を買うのが男だろう。




