第74話:本戦出場者決定
「そう怒らないで下さい。これをあげますから」
「仕方ないなぁ」
俺の怒りはアイテールの買ってきた揚げ肉を貰うことで落ち着き、負け戦をすることなく終わった。
立ったまま食うのもはしたないということで、さっさと観客席に座る。
既に選手も集まりだしているせいか、色々と面白い話が聞こえてくる。
「おっ、あの子が神官見習いの子かな?」
「良く分かりましたね」
「そっちに巻き込まれて、相当数の神官や神聖騎士と戦ったからね。見れば大体分かるよ」
戦争でドンパチってのが一番多いのだが、戦争は戦争でも宗教戦争というものも幾度となくあの頃は起きていた。
戦争で疲労すると人は救いを求め、神やら精霊。果てには魔物にすら縋り始める。
そして大抵の宗教は他の宗教と反りが合わず、互いを殲滅しようと戦争を起こす。
それに何度も巻き込まれ、なんならアシエテンタ教の内紛にすら巻き込まれた。
賭けをしているだけありアイテールの金払いはとても良く、ほいほい金に釣られたのが俺だ。
ただでさえ何でもありなのが戦争なのだが、宗教関係の人間は気が狂っている奴らが多く、薬やら邪法やら俺からしてもちょっと引く程度にモラルの無いものだった。
今は大きな宗教しか残っていないので、あれ程醜い戦いは起きないと思うが、もしも今世で巻き込まれそうになったら、俺は全力で逃げるだろう。
「心が痛くなる戦いが多かったですが、おかげ様で今は統一され、薬の類も全く流れなくなりました」
「厄介なのが多かったからね。栽培している所をいくつ潰したか覚えていないけど、匂いからして酷かったのを覚えてるよ」
「あの様な悲劇は二度とごめんですが……そろそろ始まりますね」
肉を食いながら暇をつぶしている内に時間となり、会場の選手達が距離を取り始める。
シトリスは既に気配を消そうとしているが、この会場では三人しかいない女性であり、更に唯一の子供なので、既に目を付けられている様に見える。
「それではA会場の第二予選————始め!」
実況の声と共に戦いが始まり、観客たちの声が弾ける。
その観客達の声に負けない位戦いは最初から激しいものであり、シトリスも第一予選の時の受けの姿勢ではなく、攻めの姿勢で立ちまわっている。
ただ剣を振るのではなく、流派を修めているのが多く、見知った動きも結構あるな。
「流石に余裕は無さそうですね」
「それでも無傷で立ち回れているのは訓練の成果だろうね。言った通りに、剣は受けずに全部避けているし」
「足を止めれば巻き返すのは難しいですが、そうなっても大丈夫な方法は教えてあるのでしょう?」
「一応はね。男よりも女の方が身体の柔軟性は上だから、避けるだけなら上手くやるだろうさ」
そもそも足を止める様な事態にならないように教えてあるので、そんなミスはしないだろう。
現に今のところ一撃も当てられていない。
しかし、名前を勝手に使った神官見習いだが、見習いのくせに中々いい動きをしている。
「あの神官見習いの子、中々良い筋していると思わない?」
「はい。記念に出たのかと思っていましたが、かなりの腕を持っていますね。少し心配事もありますが、若い芽が育って来ているのは良い事です」
アイテールの心配事とは、間者かどうかって事だろう。
最初から有能な面を見せ、組織の奥に入り込むというのは良く使われる手であり、下手に放置すると組織にとっての致命傷となりかねない。
おまけに裏を探っても簡単には証拠は見つからず、こういった公の場でも力を誇示するので、本当に質が悪い。
とは言ってもこんな平和な世の中で、態々間者を使う理由はあまりないと思うので、ただの杞憂だとは思う。
「心配ならこっちに回してくれても良いよ。有能なら、なんだって良いからね」
「……宜しいのですか?」
「仮に本物なら強請って金にするし、ちょっとした功績作りとして使えるからね。違ったとしても、読み書き計算が出来る人材はありがたいさ」
毒や物量以外で俺を殺すのは困難であり、数年かすればアイテールとの差も埋められるので、何が起きても対応できる自負がある。
問題なかった場合俺の元から去ることになるだろうが、その間に教育係として使い倒せば良い。
それに、神官という役職は信用問題では大きなプラスになるだろうから、デメリットよりメリットの方が大きいだろう。
「……そうですね。万が一の際はお願いするかもしれません。私はあまり口出しをすることが出来ませんので」
「察しはつくけど、それにしては自由過ぎない?」
「私は象徴以外の役割から外されていますからね。私もそう望んでいますし、その代わりと言うものです」
勇者の例もだが、俺が死んだ事で戦力のバランスは一気に崩れた。
脅されているからと言ってアイテールを放置できるわけもないので、現場から遠ざけるのは仕方のない事だろう。
一応とある国で厄介になっているはずだが、この事を突っ込むのは藪だろう。
「おっと、いつの間にか残り十人だね。実力だとシトリスが頭一つ抜けているけど、それで安心出来ないのがせん……じゃなくてバトルロイヤルだからね」
「そうですね…………そう言えば、あなたが剣を背中から生やして帰って来たなんて事もありましたね」
「あの時はかなり焦ったね。あんな魔剣があるなんて、世の中は広いと感じたよ」
戦争が日常の生活を送っていたある日の事、戦争のどさくさの中で俺に剣をぶっ刺した猛者がいた。
魔力と体力があれば刺し傷の一つや二つ程度は無理矢理塞ぐ事が出来るのだが、俺に刺さった剣は少し特殊な剣であり、刺された者は自力で抜く事が出来ない能力が有ったのだ。
更に厄介なのは剣に刺されているとポーションの類が全く効かず、時間と共に剣から漏れた魔力が身体に根を張り、抜くのが難しくなる。
あの時アイテールが居なければ、かなり危うかった。
…………色々と迷惑を掛けられているものの、結構助けられてもいるんだよな……。
だからと言って腹パンを許す気はないが、色々あったと思い出が甦って来たな。
そんな過去を懐かしんでいると、シトリスがギアを一段階上げるのが見えた。
これまで手を抜いていた訳ではないが、この中で最年少であるシトリスは体力に難があり、ギリギリまで温存するのが勝つには必要であった。
このままギアを上げなくても勝ち残る事は出来るだろうが、戦いを学ぶならばなるべく全力で戦った方が良い。
観客席からはシトリスへと驚きの声が上がるが…………終わったな。
「そこまで! これにてA会場の本戦出場者が決まりました。どうか、選手達に拍手をお願いします!」
シトリスは勿論の事、神官見習いであるオルガンも勝ち残った。
残りの二人は二十代後半から三十代位の大人だが、身体のキレは微妙だったな。
A会場に集められたのは無名やギルドランクの低ランク等の実力に信用のない奴が大半だったが、それなりに見ていて面白い試合であった。
拍手を送られているシトリスは少し気まずそうにしているが、動きや呼吸に乱れはなく、訓練の成果はしっかりと出ていた様に見える。
本番は明日だが、後は父上の様子次第だな。
一回目の予選では見るからに絶好調だったが、自分の子供に良い所を見せたいと思っていたのだろう。
父上側の第二予選はA会場のとは違い、猛者ばかりとなるので、負ける可能性も…………無いだろうな。
元二つ名持ちは伊達ではないし、同程度の力量を持つ選手が早々出てくるとも思えない。
ついでにベテラン系の人間は雇うのに金が掛かったり、余計なしがらみが多かったりするので、雇う気は全く無い。
「予定通り終わったし、また父上の方を見に行ってくるよ」
「分かりました。帰りはどうするのですか?」
「今日は向こうと一緒に帰るよ。打ち上げは明日で良い?」
「仕方ないですが、それで手を打ちましょう。お店の方はこちらで選んでおきますね」
後の事は任せ、再びジオと合流するためにアイテールと別れる。
また父上の無双ゲーを見るのは少し気が滅入るが、ジオと交流出来る折角の機会でもある。
一応屋敷では同じ部屋を使っているが、基本的にジオは疲れ果てた状態で帰ってくるので、あまり話す時間はない。
俺も基本的に精神的疲労で話す気も起こらなく、基本的に寝ている時間が長かった。
兄弟水入らずってやつなので、楽しむとしよう。




