第7話:そうだダンジョンへ行こう
いつものように母上に布団を引っぺがされた時に、ふと思った。
そうだダンジョンへ行こう。
旅に出るのはまだまだ先だが、ギルドへの登録とダンジョンに行く事については許可を貰っている。
武器については…………ぶっちゃけ先日母上から貰った杖だけでも良いんだよな……。
名前を付けるならば、初心者の杖って感じになるのだが、魔法を使う補助は勿論の事、魔力を纏わせて鈍器として扱うことも出来る。
初心者装備ではあるが、下手な剣では折られる事はないし、木製ではあるものの良い感じの重量があるので使い勝手が良い。
身長がまだ低いため父上の使っている様な剣では邪魔になるって理由もあるが、これ見よがしに杖を持っている方が剣よりも良い場合がある。
それは、相手が侮ってくれるのだ。
魔物相手では意味が無いが、人間相手ならば自分はひ弱だとアピールしている様な物であり、特に子供である俺はちょっかいを掛けられる可能性が高くなる。
まあ父上の領地は平和であり、居るのは駆け出し冒険者位なので、絡まれる心配なんて微塵も無いのだけど。
ただ、出来れば活きの良い冒険者が居るとありがたい。
上手く言いくるめて俺の金蔓に出来れば、楽をして生きるための第一歩となる。
駄目ならば奴隷と言う手もあるが、まずは奴隷を買う金をどうにかしなければならない。
それに、奴隷もピンキリだ。
戦争奴隷や犯罪奴隷。ついでに通常奴隷と違法奴隷。
違法奴隷は選択から完全に外すが、一番安全な奴隷は通常奴隷だ。
異世界の知識を参考にするなら、派遣社員というものに近い。
一定の金銭を奴隷が稼ぐまでは、主人が好きに使う事が出来る。
通常奴隷の大半は貧しくなった親が子を売ってなる形らしいが、最低限人権というのは保障されているとか。
下手にスラムで生きるなら、奴隷商に身売りした方が良かったかもしれないと、今は考えている。
ただその場合、自由は無かっただろうから、どっちもどっちだろう。
戦争や犯罪奴隷は強力な奴隷紋で縛れるが、当たり外れが激しい。
ついでに言えば基本的に大人ばかりなので、奴隷紋で縛れるとはいえ俺みたいな子供には反抗してくるのは目に見ている。
力を示せばなんて方法もあるが、面倒だし、そこまで無駄な労力を割きたくない。
なので通常奴隷を良い感じに騙して金を稼がせ、更に奴隷を解除してからも貢がせるのが一旦の目標となる。
CかBまでギルドランクを上げられれば、良い収入になるだろう。
…………まだただの皮算用だが。
考えるよりも行動ということで、朝食を食べてから、魔法使いっぽいローブに着替え、杖と小振りのナイフ。それから金と緊急用のポーションを持って身支度を整える。
ポーションなんて使うことはないと思うが、傭兵をしていた頃の癖で、どうしても備えをしておかないと心配になってしまうのだ。
薬草の一切れ。一発の弾丸。一切れのパン。そんな些細なもので結果が変わるのが戦いなのだ。
備えあれば憂いなしってやつだな。
忘れずに、出掛ける前に一応メイドへ一声掛けておき、えっほえっほと走り出す。
今日は天気がよく、走っていて心地好い。
休憩を挟むこと無く走り続けていると、となり町の簡素な門が見えてきた。
「えっ! 坊っちゃんじゃないですか! もしかして、走って来たんですか!?」
「久し振り。軽く走る分には丁度いい距離だからね。あっ、ちゃんと父上から許可は貰ってるから安心してね。それじゃあ通っていい?」
「それでしたらどうぞ。ですが、問題は起こさないで下さいね」
「大丈夫さ……多分」
門番のおっちゃんが運良く知り合いだったため、子供一人でも簡単に町へ入る事が出来た。
最後に門番のおっちゃんにあったのはかなり前だが、俺の髪はこの辺では珍しい……というか俺しかいないみたいなので、直ぐに分かる。
父上の赤と母上の青が混ざったのか、紫色よりちょい赤い感じになっている。
正確に言うならば小紫色って感じだ。
俺自身転生前でも見た記憶は多分無いので、かなり珍しいと思う。
「……まあ坊ちゃんなら大丈夫でしょう。どうぞ」
「どうもねー」
小規模とは言えダンジョンがあるため、町は結構賑わっている様に見える。
結構久々に来たが、これでは完全に街だな。
数字で見た人口はそこまでではないはずだが、旅人や冒険者なんかが沢山居るのだろう。
大通りには宿屋が結構な数営業をしているし、雑貨店もそれなりにあるが、閑古鳥が鳴いている店は無さそうだ。
値段も適正価格から大きくズレている様子は無さそうなので、安心である。
……思考が傭兵ではなくて領主寄りになってしまっているが、父上の仕事を手伝っているせいだろうな。
帰る前に軽く街を調べて、良い点と悪い点を探しておくとしよう。
お上りさんみたいに街を見ながら歩いていると、見慣れたギルドの建物が見えてきた。
まあ見慣れているのは建物ではなく、建物に描かれているエンブレムの方だけど。
大抵のギルドはガラの悪い連中が屯しているが、こんな田舎にはガラの悪い連中は基本的に居ない。
居ても地元のヤンキー位だろう。
あまり意味は無いだろうが、ローブについているフードを被ってからギルドに入る。
出来てからまだそんなに経っていないので、床に血や酒が染み込んでいないな。
壁も建てられてから修理されたのは数ヶ所だけみたいなので、やはり平和そうだ。
さて、受付は……二ヶ所あるが、片方は取り込み中なので。
「どうも。ギルドの登録をしたいんだけど?」
「登録って、君はまだ子供でしょ? 親御さんは許可したの?」
「そうじゃなかったら来ないよ。ちゃんと規約とかも確認しているしね」
ギルドの登録には年齢制限は無いので、子供でも登録出来るのだが、色々と条件がある。
最低限読み書きが出来ないといけないのと、自衛出来る強さが必要とされている。
この自衛とはゴブリンを倒せれば問題なく、そもそもゴブリン程度倒せなければ冒険者や傭兵なんてなれないので、とても簡単なものだ。
殺す事に忌避感がないなら、ステラでもなる事が出来る。
そもそもギルドとは何なのかだが、平たく言えば世界安全機構的な物だ。
聖女が所属している教会も似たようなものだが、ギルドは世界的な破滅が起きないように作られた物であり、五つの大国が運営の大元を担っている。
ギルドの管轄はダンジョンと戦争。それから物流の三つとなる。
どれも何かしらの管理機構が必要であり、特に戦争は一歩間違えば種族の根絶に発展する可能性がある。
目の前に居るエルフなんかもギルドの介入がなければ、違法奴隷として変態に売られていたかもしれない。
ギルドの成り立ちや功績は色々とあるが…………黒い噂も沢山ある。
ぶっちゃけあって当たり前だし、何なら裏で色々とやっているのは本当の事だろう。
一応五つの国が作った下部組織である、ギルド本部が各ギルドの管理運営をしているのだが、人が運営する以上は利益がなければ運営は破綻する。
そして利益――金が絡む事柄では、人は簡単に命を売ったり買ったりするのだ。
ぶっちゃけ俺も売られて殺されたわけだし。
心当たりはあると言えばあるが、正確には知らないので、もう少し大きくなったら調べようと思っている。
「それなら良いけど……それじゃあこれに名前と年齢。それからテストをするけど……武器はそれで大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。これでもそこそこ戦えるし、なんなら素手でも良いしね」
エルフは総じて……一部を除いて魔力や木材関係に強い種族であり、俺の持っている杖があまり良いものではないと見抜いたのだろう。
母上も中級にギリギリ耐えられるかどうかと言っていたので、初級魔法でも込め過ぎれば駄目になってしまう。
まあ鈍器にする分には大丈夫なのだが。
「書けましたよ」
「はい。それじゃあ確認…………ん?」
書き終わった紙を提出すると、エルフは名前の欄を見て固まる。
流石にこの領主の名前くらいは知っているか。
ギルドに勤めるのは、ギルドが出来た街の住人と、他からの転勤や本部から送られてくる人で構成される。
このエルフは後者だろう……いや、エルフの時点で外から来たのはほぼ確定なのだが
「……本当に許可を貰ったのですか?」
「確認しても大丈夫だよ。それと、たかが男爵の子供に敬語なんていらないよ」
「そらなら……まあ?」
まあ受付であるならば敬語が当たり前なのかも知れないが、公の場でないなら問題ないし、あまり堅苦しいのは嫌いだ。
「えー、とりあえずテストをするけど、人と魔物はどっちが良い? あっ、その前にようこそギルドアトラゼネ支部へ。私は受付のクラリアよ。よろしくねヴィンレット君」
「よろしく、クラリアさん」




