第69話:なんでさ
「うし、それじゃあ行って来る」
「行ってらっしゃい」
剣術大会当日となり、選手として出るので、父上は俺達よりも早く家を出る。
昨日はシトリスの追い込みをしたが、アイテールのおかげで身体のキレも良くなってくれた。
俺が寝そべりながらアイテールとシトリスの戦いを眺め、程よく時間も過ぎたので帰ろうとしたその時。
アイテールの提案で、シトリスへとマッサージをする事になった。
どうやらアイテールは新しい回復魔法の使い方の開拓という事で、魔法で治すだけではなく、元気にする方法を研究しているらしい。
それが何故マッサージに繋がるかだが、回復魔法を発動したままマッサージをすることで筋肉を解し、更に内臓の活動を活性化させるとか云々かんぬん……。
要は傷だけではなく、疲れも消し去るって事らしい。
異世界の知識と照らし合わせれば、アイテールの研究が良い事だと分かるが、俺に出来る事はないので、適当に流してアイテールにやって貰った。
無論シトリスの意思は無視である。
今頃元気一杯であろうシトリスの事は置いといて、剣術大会は魔法大会よりも大規模であり、予選をするにもかなりの場所を必要とされる。
王都にもいくつかコロッセオみたいな物や、ギルドの修練場があるが、遠すぎれば予選の結果の確認が難しくなる。
よって一ヵ所に集めて行う訳だが、場所は南門を出て直ぐの所となっている。
魔法大会よりもお祭り的な感じになっているらしく、二日ほど前から屋台なども並んでいるらしい。
そんな賑わっているから、昨日は閑散としている北門を選んだわけだ。
……ふむ。そう考えれば…………いや、どう考えてもアイテールが待ち伏せしていた理由は分からない。
一応遠回しに聞いてみたが、完全にはぐらかされてしまった。
アイテールに変装が効かないのは分かっているが、俺が聞いていた限りで離れている人間の位置を知る方法は無かったはずだ。
それに、やはり待ち伏せしていたというのが引っ掛かる。
あの様子では敵にはならないだろうと分かっているが、謎が深まるばかりだ……。
「それじゃあ俺も行くとするよ」
「うん。あれだけ騒ぎになっちゃってるから仕方ないけど…………気を付けてね」
ジオが悲しそうな顔をするが、それは俺はジオと祖父様達とは別で行く事になっているからだ。
俺が魔法大会で優勝した反響はかなり大きく、一週間経っても街のあちこちで俺の情報を求める奴らが多く、俺と祖父様達の関係を知られたくはないので、別で行くと俺から提案した。
最初から一人で行く予定だったが、ジオとしては身内である俺と一緒に居たかったのだろう。
だが、どれだけのリスクがあるか話したら、一応の理解を示してくれた。
無論俺とジオの二人で行動する案も有ったが、ジオはそこまで王都に慣れていないし、今は平時よりも人が多い。
それに伴い犯罪率も高く、子供二人というのはかなり危ない。
俺やジオがそこらのチンピラに後れを取る事はないが、勇者やアイテールも居るため、一人の方が何かと融通が利く。
どうせアイテールは、どこからともなく寄って来そうな気もするからな。
昨日は全く気付けなかったが、あいつの魔力と気配は完全に覚え直したので、次は同じミスをするつもりはない。
半径二十メートル位ならば、先に気付く事が出来るだろう。
…………ただ、二十メートル程度では逃げても追いつかれてしまうので、あまり意味は無いだろうけどな。
やはりフィジカル面で負けているのは面倒だ。
魂と言うものがどんなのかは分からないが、自身で感知できない以上隠蔽したりすることも出来ない。
「何かあれば直ぐに連絡してくれて良いからね」
「ありがとうございます。それでは」
祖父様に頭を下げて、それから馬車に乗って屋敷を出る。
面倒な事だが、名を馳せている貴族のほとんどには監視が付いているので、歩いてそのまま出るのはあまり良くない。
流石に馬車を追ってまで確認してくる監視も稀なため、馬車さえ使っておけば基本問題ない。
なので適当な場所までは馬車で進み、道が混み始めてきたら馬車から降りる。
「おっちゃん。果汁ジュース一杯よろしく」
「へい、毎度!」
馬車から降りてから近くにあった屋台で飲み物を買う。
ギルドみたいに氷入りには出来ないが、結構冷えていて美味しい。
ジオには子供だけでは危ないと言ったが、小さな子供からそこそこ大きな子供まで、子供だけで遊んでいるのを見掛ける。
それと、領地では見なかった普通……十代後半位の冒険者も沢山居る。
顔を見る限り、ほとんどがダンジョンや魔物専門なのだろう。
昔と違って小競り合い程度なので募集している人員も少なく、傭兵として食っていくよりはダンジョンを専門にした方が安定するのだろう。
二つ名でも付けば報酬金も結構な額になるだろうが、駆け出し程度の冒険者が戦争に参加しても、基本肉壁か雑用係にしかならない。
ただ、上手くいけばダンジョンに潜るよりも、名声や金が手に入る。
まあそれ以上に恨みも買う事になる可能性も高いので、俺みたいに好き好んで人殺しの道を選ぶ奴は早々いない。
そう思うものの、あの時代は俺みたいな奴は結構いたけど。
「今年もかなりの大人数になりそうだな」
「けど、今年こそ本戦まで残って見せるぜ!」
「バカ。そこは本戦と言わずに優勝って言う所だろ」
「いや、無理だって。今年は元騎士で二つ名持ちの奴が出るらしいぜ? お前勝てると思うか?」
「引退してから十年位経ってんだろ? もしかしたら勝てそうじゃね?」
「…………確かに、予選で上手く立ち回ればいけるか?」
壁に寄りかかりジュースを味わっていると、参加者と思われる冒険者達の無謀な会話が耳に入ってきた。
悪いがその選手はうちの父親であり、十年経っても技のキレはほとんど落ちていない。
それに、年齢的な衰えはあると言っても、まだ全盛期を少し過ぎた位だ。
まだまだ無茶を出来るだろうし、そこらの冒険者では相手にならない。
予選で一緒になるかは分からないが、どうか当たって砕けてくれ。
飲み終わったコップを回収箱に入れ、南門に向かってふらふらと歩く。
ちなみに、冒険の際に持ち歩いてる木製の杖と王都で買った杖は持って来ていない。
単純に邪魔になるからだが、その代わりナイフを数本持って来た。
アイテールのせいで格闘も出来るが、一応元剣士なので刃物が有った方が安心できる。
襲われたとしても基本的に魔法で撃退出来るだろうが、もしもの時を考えておくならば刃物は必要となる。
世の中には魔法の発動を阻害する魔導具とかもあるからな。
「そこの君。少し良いかね?」
南門を出ようとしたところで、鎧を着た騎士に呼び止められる。
何故と思ったが、今の俺はフードで顔を隠していた。
剣術大会という事もあり、出入りの確認をしていないとは言え、流石に顔を隠している不審者は呼び止めるか。
「はい、なんでしょうか?」
「すまないが、顔を見せて貰えるかな?」
「大丈夫だけど、出来れば人目のない所で出来たりします?」
「……」
あれ? 何故か騎士が緊張したぞ?
なんか視線でやり取りしてるし、しかも納得したのか頷いている。
これはもしや逃げた方が良いか?
最悪追いかけられたとしても、帰りは父上の馬車にでも潜り込めばどうとでもなる。
よし逃げるか…………と思った所でかたを騎士に掴まれてしまった。
「そこの詰め所で確認しよう。問題なければ直ぐに解放するから、それで良いかい?」
「あっはい」
今からでも逃げられるだろうが、まあ直ぐに解放されるなら従った方が良い。
予選まではまだ時間に余裕があるし、もしも身元の確認とかされた場合はギルドカードを見せれば良い。
なので騎士に言われた通り門の近くにある詰め所へと入り、案内された部屋へと入る。
そこには……。
「なんでさ」
「予想通りですね」
昨日も会ったアイテールが立派な鎧を着た騎士を従え、優雅に紅茶を飲んでいた。




