第66話:なんで物を送ろうとするんだい?
「……本物?」
「はい。聖女であるアイテールです。ところで、あなたは勇者の娘さんですか?」
「……はい」
「色々と聞きたい事もあるだろうけど、何から話す?」
一言で言えば勇者の娘と聖女ってだけだが、おそらく二人が聞きたいのは、俺との事についてだろう。
「そうですね……私が聞いても良いのですか?」
「俺が気にしていた事の一つが問題無いって分かったからね。それに、シトリスはどうせ俺とそっちの事は大体知っているだろうし」
俺限定の嘘発見器の事だ。
走って居る間に、俺と聖女について話しているに違いない。
「私も彼に子供が居るのは聞いていましたが、何故彼と一緒に?」
「それは……」
俺とした時と同じ話を、シトリスはアイテールに語った。
話を聞いてるアイテールの表情は悲しそうにしていたが、どうして王都に居るのかについての話に差し掛かり始めたところで、俺に批難の視線を向け始めた。
ついでに、ナハナホシことグランシャリオをシトリスが持っていることに相当驚き、俺も認めると言うと目を見開いた。
ついでに俺が剣一筋ではなく、実質的に魔法に傾倒している理由を話すと呆れられた。
「事情は分かりましたが…………流石にどうかと思うのですが?」
「本人もやる気だし、それに伴って剣も教えて上げてるわけだし、悪くない提案だと思わない? それに、親である勇者を倒せる力も身に付けさせている訳だし」
「……シトリスちゃん」
「うん……あ、うん」
急にアイテールに話し掛けられたせいか、シトリスは曖昧な返事をし、そのせいで俺に疑いの目が向く。
確かに過去に色々とやらかしてはいるものの、他人を使い捨てるような事だけはしてこなかったはずなので、ここまで疑われるのか分からない。
直ぐに腹パンされないだけましだが、どちらかと言えば俺の方が同情される側ではないだろうか?
「あの、どうして聖女様はヴィンの事が…………分かったのですか?」
「私はとある種族とハーフなのですが、その種族柄という奴ですが……」
「多分今の間からすると剣から聞いたんだろうね」
「そうですか……いっその事埋めてしまいますか? 代わりならいくらでも用意いたしますよ」
種族の事はかなりデリケートなため、アイテールはシトリスに教える気は無かったのだろう。
それなのに勝手に教えられたため、キレたようだ。
相変わらず沸点が低い。
まあ、個人的に埋める事には賛成だが、グランシャリオの力は本物であり、俺のいざという時の切り札にもなりえる。
過去に様々な剣を使ったが、グランシャリオ程の剣には出会えなかった。
魔法を使えなかったってのもあるが、グランシャリオ程使いやすい剣はないだろう。
「気持ちは分かるけど、これより良い剣はないよ。気持ちは分かるけど」
「え……」
「最近では個人情報についても取り締まる様になって来ているのですが、剣が駄目ならシトリスちゃんを罪に問うしかないかもしれませんね」
「えっ!」
ついシトリスを弄ると、アイテールも乗って来た。
すまんな。子供を揶揄うのは大人にとってとても楽しい物なんだ。
リナリアとは違い、シトリスはすれているとはいえ、とても素直だ。
「お遊びはこの辺にしまして、シトリスちゃんの実力はどれ程のモノなのですか?」
「二回目のパーティーの時に、盗賊団を滅ぼした時の俺くらいかな?」
「……判断に困りますね。あの時は確か二度程瀕死になっていませんでしたか?」
偶然街で出会ったアイテールと、数人で受けた盗賊団の殲滅依頼。
当時はまだまだ弱く、剣も既存品よりちょい良いものを使っていた。
相手となる盗賊団は確か五十人規模の大きなものであり、まだまだ子供だった俺はそれはもう酷い目にあった。
一応ポーションとかも持って来ていたのだが、アイテールが居なかったら、途中で逃げる事になっていただろう。
因みに瀕死になった理由の一つはパーティー内に盗賊団のスパイがいたせいで、後ろから斬られてしまったのと、盗賊団のボスが持っていた魔剣に俺の剣が折られたからだ。
最強の剣士は剣を選ばないらしいが、木と鉄ならば鉄の方が硬い様に、剣の優劣は絶対に起こる。
ならば、より強い剣を持っている方が強い訳で、当時はそれで負けることがよくあった。
「けど、目安としては分かりやすいでしょ? 因みに、全部含めてだけどね」
「成る程。鍛え始めた時期を考えれば素晴らしい事ですが…………勇者も何をやっているのか」
大きくため息を吐いたアイテールは、シトリスへと頭を下げた。
「元仲間として、謝罪します。何かあれば直ぐに頼って下さい」
「え……あの……」
「子育てもまともに出来ないとは……幻滅も良いところですが…………子供に聞かせる話ではありませんね」
「そうだね。なんなら今からでも帰ったら…………なんでもないよ」
すっと右腕が持ち上がったので、直ぐに訂正しておく。
冗談はこの辺にして、そろそろ本題に入らなければな。
「お互い色々とあるけど、明日の事を優先させてもらうよ」
「よろしければ、私がお相手しましょうか?」
「まずはどれ位動けるようになったか確認しよう。体力についてはそれなりに増えてきているみたいだしね」
「怒りますよ?」
俺に会えたせいなのか、それともシトリスと出会ったせいか分からないが、俺の記憶にあるよりもアイテールはおしゃべりだ。
そう言えば、あの時の事については聞いたが、あれから何かあったかまでは聞いていなかったな。
領地に来た時にでも聞いてみるとするか。
「割りと真面目な話だから許してよ。それに、明日の事を考えれば、アイテールじゃ役割が違うでしょ? 後でボコって良いから、今日は見学していてよ」
「……確かに、それなら仕方ないですね」
「えっ!」
さっきから「え」と「うん」と「あの」位しか話せていないが、コミュ障みたいだし、仕方ないか。
どうせこれから先も会う事になるし、早めに慣れろ。
さっさとアイテールから離れ、二振りの剣を鞘から抜き、鞘を適当に放り投げる。
「それじゃあまずは技を抜きにして軽く掛かって来て。使うのはグランシャリオの方で良いよ」
「分かった」
シトリスも構え、特に始めの号令も無く斬りかかって来る。
うんうん。しっかりと教えを守っているようでなによりだ。
両手の剣を操り、シトリスの剣戟を全て受け流していく。
俺の持っている安物の剣では、グランシャリオを数度受けるだけで使い物にならなくなってしまう。
正直受け流すだけでも少しずつ耐久値的な物が減っている気もするが、今日一日くらいは持つだろう。
魔剣や聖剣と打ちあう場合、鉄骨やただの鉄の棒の方が良かったりする。
前はそうしたわけだが、今回はしっかりと雰囲気を味わて欲しいので、剣を持って来ている。
「よし。一旦ストップ」
「うん……ふぅ……」
五分程で切り上げたが、想定よりも上の仕上がりである。
喫茶店で話したが、王都に来る時に起きた数々のトラブルのおかげだろう。
「……懐かしいですね。まだまだ拙いですが、確かにケイエスの剣を思い出しますが…………どうしてケイエスは両手で剣を?」
「そりゃあ昔アイテールに教えた通りだよ」
先程盗賊団についての話をしたわけだが、その時に俺は剣を折られて酷い目にあった。
その結果予備の剣を持つようになったのだが、予備とは言え剣は結構重い。
腰に差しておくだけではただの重しであり、諸々と考えて結果的に、効率を求めて両手で剣を使うようになった。
それから遠距離の問題や様々な剣を使ったりして、グランシャリオと魔銃の組み合わせに落ち着いた。
世の中には魔力を込めれば魔法を発動できるなんて杖もあったが、人を殺すなら当時は銃が一番効率が良かったのだ。
「でしたら、何か送りましょうか?」
「さっきもだけど、なんで物を送ろうとするんだい? それに主体は魔法だから剣はこれが有れば問題無いよ。まあ、出来れば一人で旅立って欲しいけど」
「……離れる気は無いわ」
何故女性とはこうも面倒なのだろうか……。
アイテールにもシトリスにも困ったものだが、確認も出来たので次のステップに移ろう。




