第63話:優勝
「三位はゾニス選手になります。賞品は金貨十枚と、宮廷魔法使いから訓練を受けられる権利となります」
「三位おめでとうございます。これからも頑張って下さいね」
「続きまして、二位はリナリア選手となります。賞品は金貨二十枚と、聖杖ステラソラとなります」
「おめでとうございます。既に学園だけではなく、大人からしても引けを取らない腕前ですが、これからも頑張って下さい」
表彰式はトントン拍子に進み、俺の番となる。
二位の賞品となる聖杖ステラソラだが、戦争では必需品の一本だ。
使用制限はあるが、魔力さえあれば誰でも回復魔法を使う事が出来るので、かなりの高額で取引されていた。
今はどうなっているか知らないが、俺も欲しい杖である…………のだが、一点だけ難点があり、とても長くて大きいので、持ち運ぶ際は邪魔になる。
旅でなら馬車が無いと持ち運べない程だ。
「そして、栄ある優勝は、ヴィンレット選手になります! 賞品は金貨三十枚と、勇者様が保管している武器の中から、どれでも一つ選ぶ権利です!」
一斉に観客達が湧きたち、様々な言葉が投げかけられる。
………………ああ、なんでこう人生って上手くいかないんだろうな。
いや、勇者が保管して武器を選べること次第は有難いが、勇者本人には会いたくない。
それに勇者の家に行くってことは、リナリアも居るってことだ。
——断るか。
口惜しいが、杖は祖母様から貰えるし、金もアイテールから貰える。
危険を冒す位なら、ここは損を選んでおく。
そんな感じの視線をアイテールに向けると、分かってくれたのか、小さく頷いてくれた。
これが国の宝物庫とかなら問題なかったのだが…………勇者の宣伝も兼ねて居るのだろうし、仕方ない。
「おめでとうございます。よくオリジナルの魔法をその歳で使いこなせてましたね。将来に期待しています」
アイテールの一言と共に、金貨の入った袋と書類を貰う。
この書類を見せれば、案内をして貰えるのだろう。
言い訳の方はアイテールがしてくれるだろうし、後で燃やすとしよう。
「これにて、第五十三回レイアシス魔法大会を終了いたします! 最後に、聖女様。一言お願いします」
「今回成績を残す事の出来なかった選手も居ると思いますが、本戦に出られるだけでも素晴らしい事です。これからも精進して、どうか未来を切り開いて下さい」
うーん。流石聖女なだけあり、真っ当な事を言っているな。
「それでは、本日はご来場いただき、ありがとうございましたー! また来年お会いしましょう!」
「流石だぞ坊主ー!」
「これで借金が返せるぜ! ひゃっほい!」
「なんで勝っちゃうのよ! 馬鹿―!」
うーん。終わったせいか、色々と聞くに堪えない言葉から、万馬券……少し違うが、万馬券が当たってテンションが上がり過ぎてしまっている声まで聞こえてくる。
さっさと帰るとしよう。
一応優勝者なので、軽く手を振りながら平民側の待機室へと向かう。
少し離れてジェミニもついてくるが、そっちは手を振ったりはしていない。
「おめでとう。本当に優勝できるとは思わなかったわ」
待機室のソファーに座ると、ジェミニに話し掛けられる。
決勝の前は割りと自信満々に勝ってみせると言ったが、あれ程とは思っていなかった。
もしも俺が先攻だったなら、負けていたのは俺かも知れない。
祖母の件もあり、結構なめくさっていたので、もっと低い点数で大丈夫だろうと決めつけ、考え通りに低い点数を出していただろう。
不完全とはいえ、三属性の複合魔法が使えるなんて誰が思うだろうか?
俺が過去の経験があるので、訓練も苦ではないし、多少の苦痛は無視する事が出来る。
更に知識もあるので、ゼロからでも普通以上の速さで上達したが、リナリアはそうではないだろう。
もしかしたら俺と同じく転生者かもしれないが、その場合は態々シトリスに冷たく当たった理由が分からない。
あれだけの才能があるならば、シトリスに構う時間すらも訓練に費やした方がもっと上を目指せたはずだ。
もしくは周りと比べた結果、これ以上訓練を真面目にしなくても良いだろうと慢心した可能性もあるな。
その慢心している時に祖母様が見たならば、あの判断も間違いではないのかもいれない。
「どうも。最後のあれには驚いたけど、なんとか勝てたよ」
「なんとか……ね。正直、あれ程卓越した魔法を使えるなんて思わなかったわ。あれだけ使えるなら、学園に行かないのも納得できるわ」
「師匠が良かったからね。俺は少しここで時間を潰してから帰るけど、ジェミニは?」
「巻き込まれたくないから、先に帰るわ。またいつか会いましょう」
ジェミニは座る事もなく、そのまま待機室を出て行く。
巻き込まれるも何も、今帰っては観客の波に呑まれてしまうので、待っていた方が良いと思うんだがな……。
選手と観客では出入り口は別だが、結局帰る時に使う道は一緒となる。
歩いて帰るならばまだマシだろうが、馬車では簡単には通れないだろう。
しかし、この短期間で英雄の四人中二人の話を聞く事になるとはな……。
流石に剣聖は別の国だから早々会う事は無いだろうが、賢者はフラっと現れそうで怖い。
昔の因果が俺を追ってきているみたいだな……。
アイテールは平和的に終わったが、あの四人からしたら俺の存在は黒歴史である。
更に言えば、復讐されても仕方ないと思っている可能性が高い。
俺が悪として活動した結果殺されたならばともかく、都合によって殺されたただの被害者とも言えるのだ。
今のところはアイテールかシトリスが話さない限り、俺のことが勇者や国に知られる事はないし、話されたとしても信じる奴はいない。
だが、何かしらの方法で確認されら場合、間違いなくまた殺しに来るだろう。
だからこそ誰にも知られたくなかったのだが、人生とは本当にままならん。
まあ俺が考え過ぎってのはあるが、まずは面倒だが勇者は後でどうにかしておく必要があるな。
本人は見ていないが、精神的にダメージがあるのは明白だ。
そんな中で俺の情報が洩れでもすれば、何をするか分からない。
まあシトリスの件でとどめを刺そうとしているので、今更感もあるがな。
あっ、そう言えば待機室に有ったお菓子や飲み物が無くなっているな。
今なら腹を壊しても問題ないし、食べようと思っていたのだが…………仕方ないか。
そんなこんなで三十分ほどソファーで寝っ転がって時間を潰し、フードを被ってから外へと出る。
まだまだ賑わっているが、普通に歩く事が出来る程度だ。
顔を隠し、目立つような長杖を持っているわけでもないので、俺に気付く通行人もいない。
そしてしばらく歩き、あらかじめ決めていた集合場所には乗ってきた馬車が停車していた。
「戻ったよ」
「おう。そして、おめでとう」
父上は俺のフード外すと、乱暴に撫でながら言った。
あれだけの力を見せておいても、父上は本心から俺を褒めてくれている。
強すぎる力とは恐れられ、排他されるものだが、あれだけの事をやってもこれである。
アイテールにも言ったが、育つ環境とはとても重要なものだ。
生まれも育ちも糞だった俺だが、それなりの人生を途中まで送れたのは、冒険や戦いのイロハを教えてくれた人間が居るからだ。
「どうも。お金だけど、全部俺が使っても良い?」
「お前が手に入れた金だから構わんぞ。正直、あそこまで出来るとは思っていなかったしな」
「流石兄さんだね。あんな凄い魔法が使えるなんて…………一どんな魔法なの?」
「ありがとう父上。魔法については帰りながら話すさ。腹も減ったし、とりあえず馬車に乗らない?」
「そうだな。話は後にして、まずは移動しよう。あまり待たせるのも悪いからな」
父上の言う通り、祖父様達も来ていたので、あまり長い時間待たせるわけにもいかない。
なので、さっさと馬車に乗って移動を開始する。
「祖父様達は?」
「先に店へ移動して待つとさ。今頃先に酒を飲んでいるだろう」
それはそれは…………うん。なんて言えば良いのか分からない。
「ねえ兄さん」
「分かってるさ。あの魔法だけど、発想の元となったのは水と火の混合魔法にあるミストボムって魔法なんだ。ミストボムは水蒸気を熱する事で爆発を起こす魔法なんだけど、水属性単体でもミストボムがあるのは知っているだろう?」
「うん」
「水属性単体のミストボムは、水を圧縮してから解き放つ魔法なんだけど、この二つのミストボムを同時に発動して、更に火属性で火力を上げたって感じだよ」
実際は少し違うが、魔法としての発想は今言った通りだ。
おそらく複合魔法の習得難易度で言えば、知識次第ではかなり楽な部類だろう。
その代わり、威力を上げるにはコントロール力が求められるので、扱うのはとても大変だ。
「それって科学の知識を使っているの?」
「その通りだよ。魔法と科学は相容れないものだけど、その知識は役に立つからね」
「図書室にそんな本有ったか?」
「ギルドだよ。自然学についての本があって、そこに書かれていたんだ」
知識自体は異世界のモノだが、ちょっとした科学についてはこの世界でも少しずつ育っている。
そしてギルドにはその関係の本がそこそこあるので、この言い訳を見抜く事は出来ないだろう。
もしもの時に備えて考えていた奴だし。




