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ロストワーカー~騙された傭兵はヒモ生活を夢に見る~  作者: ココア


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第62話:聖女との語らい

「起こるべくして起こった結果だろうさ。実際、俺が死んでから一応とはいえ平和になってんだしな」

「……憎んではいないのですか?」

「いや、俺が憎まれる側じゃないのか? ギルドや国の最高戦力を軒並み殺したんだしな」


 ……ああ、俺が死んだのもあるが、俺が主要戦力を削ったせいで、戦争どころじゃなくなったのもありそうだな。


 勇者は別として、剣聖は無用な戦いを好まないし、賢者は世捨人だ。


 聖女は戦い自体は好きだが、聖女らしく人を癒すの方が本分だ。


 なんて考えていると、先程まで微笑みを浮かべていた聖女だが、少しだけ目を伏せる。


「しかし、あなたは世のためではなかったとはいえ、多くの命を守ってきました。なによりも、騙し討ちをされて憎しみはないのですか?」

「憎しみがなかった訳じゃないが…………ああ、そう言えば気になっていたんだが、お前らはどんな理由でああなったんだ?」


 一部は金を積まれたからって理由や、国からの命令だと理解できるが、賢者やアイテールを筆頭に…………いや、聖女は俺と戦えるとなれば悠々と参加しそうだが、分からないことが多い。


「……私はあなたを殺すことになったあの戦いに参加するつもりはありませんでした。ですが…………」

「さては、人質を取られたな?」

「————はい」


 賢者は知らんが、確かに人質は聖女にとっては有効な手だろう。


 脅したのが個人ならば殺して終わりだろうが、あの戦いの規模から考えるに、複数の国や組織から脅されればどうしようもない。


 俺を殺しに来た奴らなら、聖女の守っているもの程度簡単に殲滅出来るだろうし。


 仮に俺が助けを求められたとしても、最終的に皆殺しには出来るが、全てを守るのは不可能だろう。


「陳腐な手だが、確かにアイテールには有効な手だな。あれからどうなんだ?」

「戦争も落ち着いたため、表向きは平和そのものです。約束も守られていますので」

「それは良かったじゃないか。戦い続けていた俺が言うのもなんだが、平和が一番だよ」


 平和と言ったところで物凄く微妙そうな顔をされたが、過去の俺を知っているので仕方のないことだろう。


「ところで、本当に死んだのですか?」

「あれだけ脅しておいて、その質問か」

「ケイエス本人だと理解出来ても、どうしてそうなっているかまでは分かりませんので」

「間違いなく死んだよ。んで、どんな偶然か分からないが転生したってわけだ」

「それは……なんとも奇々怪々ですね」


 普通は信じられない話であり、俺も人に話す気なんてなかったが、こんな短期間で二回もこんなことになるとは思いもしなかった。


 それにしても、アイテールは種族的に理解できるが、グランシャリオはどうして俺を俺だと認識できたんだ?


 神剣だからって流石に無法過ぎる。


「それで辺境って程じゃないが、木っ端の男爵家の長男になったってわけ。因みに賭けで大金を稼ぐために、平民で出場した」

「あなたらしいですが、どうやって賭けたのですか?」


 その質問は俺にとって痛い質問だが、まあ俺から話しているで、質問してくるのは当たり前か。


 そもそもだが、本当なら俺が生きている以外の情報を聖女に教える必要はない。


 ないのだが、聖女ならば俺の事や両親について調べるのは簡単なことであり、調べられる位ならば、こっちから話してしまった方が良い。


 こうすれば、情報が拡散するリスクが減るからな。


 だが問題はシトリスについてだ。


 シトリスは俺にとっての爆弾であり、鬼札でもある。


 こうして話してはいるが、俺は聖女の事をあまり信用していない。


 人というのは結果が全てであり、どれだけ仕方のない過程があったとしても、結果が全てだ。


 人間は死んだらそれで終わりなのだからな………………生き返っているけど。


 何はともあれ、シトリスの事は悩みどころなのだ。


 聖女が勝手に知る分には構わないが、下手に話が拗れてシトリスが俺の事を漏らされても困る。


 流石に信じるような人間はいないだろうし、年月を考えれば完全に俺の事を忘れてしまっている可能性の方が高いが…………。


 とりあえず一旦誤魔化しておくとしよう。


「これでも一応貴族だからな。適当に人を取っ付構えて従えている」

「なるほど……罪滅ぼしというわけではないですが、良ければ私の勝ち分を渡しましょうか?」

「……どれくらい賭けたんだ?」

「王国の金貨で五十枚ほど」

「倍率は?」

「私が確認した時は単勝で五十倍でしたね」


 流石アイテールだ! やはり一番信用出来る人間なだけはある。


 過去の事は綺麗サッパリ、水に流してやるとしよう。


 それだけの金があれば、馬車以外の初期費用にも回すことが出来るし、御者を雇うことも出来る。


「ありがたく貰うとしよう。しかし、今もやってるんだな」

「稼ぐのはこれが一番楽ですから。ところで、ケイエスは学園に行くのですか?」

「いや、行かないな」

「それでは何故態々この大会に?」


 この魔法大会は学園に入学する生徒の実力を見るのも兼ねているわけだから、普通はアイテールの様に考えるのが普通だよな。


 俺みたいな不純な理由で出場する奴は、まずいないだろう。


「金とちょっとした賭けと、家の事情だ。グータラしてたら、実力を見せろって脅されたのさ」

「グータラとは……全く似合わないですね」

「スラムでグータラしてたら死ぬだけだったからな。今は寝ていても飯が出る、生まれが大事だって良く分かった」


 貧困は心を狭くするらしいが、正にその通りだ。


 生きるか死ぬかの環境では、人はゆとりを持てない。


 そしてゆとりがなければ、他人を気にするなんて事は出来ないし、休むなんて考えも思い浮かばない。


 生まれ変わってから、異世界の記憶が定着するまではがむしゃらだったが、余裕があるのだと理解すればこれである。


 過去の俺も、生まれが違えばあんな最後には…………なりそうだな。俺だし。


「…………とても残酷な話ですね」

「そっちの宗教的には、生まれなんて関係ないとかなっていた気がするが、生まれはともかく、環境は大事ってこった。それで、もうそろそろ時間になるが、金はどこで受けとれば良い?」


 もうそろそろ三十分経つので、一旦話しを終えなければならないが、その前に貰えるものは貰わなければならない。


 アイテールと俺の立場的に、あまり外で会うのはよろしくないので、今の内に金を貰う方法を決めておく必要がある。


 出来ればギルドや教会も間に挟みたくないので、上手く変装や伝手とかを使ってどうにかして欲しい。


「もうそんな時間ですか……まだまだ話したい事は沢山あるのですが、仕方ないですね。お金ですが…………そうですね。フルネームと領地の場所を教えて頂けますか?」

「——もしかして、来る気?」

「旅のついででですね。怪しまれない様に、他にも回って行きますので安心して下さい」


 …………悩ましいが、まあ良いか。


「ヴィンレット・アトラゼネ。父親はヴィンセント・アトラゼネで東の街道を真っすぐ進んで、ギルドとかで適当に聞けば、辿り着くだろう」


 アトラゼネ領までは幾つか他領を経由し、真っすぐって訳ではないが、山やら谷は無く、ギルドで道を尋ねれば問題無く着くだろう。


「分かりました。距離にもよりますが、一ヶ月から三ヶ月を目途に向かおうと思います」

「分かった」


 話が纏まり、冷め始めている紅茶を飲み始めたタイミングで、ドアを叩く音が聞こえた。


「失礼します。時間ですので、会場の方へ移動をお願いします。聖女様も、来賓席へお願いします」

「承知しました。それでは、今日は話に付き合っていただき、ありがとうございました」


 係員がやって来たという事で、アイテールは聖女の仮面を被り、先に部屋から出て行った。


 そして俺は係員の後に続いて、会場へと向かう。


 魔法大会よりも、先程のアイテールとの会話の方が疲れたな……。


 俺にとって魔法大会はただの前座でしかなかったのだが、ままならないものだ……。


「それではただ今より、表彰式を行います。三位までの選手は前にお願いします」


 用意されている壇上へと上がるが、二位の段に上がっているリナリアからの圧力が半端ない。


 隣に居るリナリアを盗み見ると、すまし顔だが…………これは完全にキレていそうだな。


「メダルの授与は、解説をして下さった聖女様になります!」

「よろしくお願いします」


 もうアイテールとか良いから、早く終わって欲しいな……。


 

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