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ロストワーカー~騙された傭兵はヒモ生活を夢に見る~  作者: ココア


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第60話:化け物が妹とは……

「さて、気になるリナリア選手の点数は――411.45点です!」

「魔法の難易度を考えればもっと高くてもおかしくないですが、制御が覚束なかったので、妥当な点数でしょう。しかし、それでもこの歳でこれだけの魔法を使えるのは素晴らしいことです」


 魔杖ヘカントケイルが中々の杖だと考えている内に、俺の番が回ってくる。


 さて、まず前提として、リナリアよりも高得点を出す事は可能だ。


 水の上級魔法であるドラゴスパイラルや、ダイダルウェイブ。


 氷のクリスタルハスタやフローズンシュトローム。


 詠唱すれば一応使えるので、五百点から八百点は堅い。


 だが、流石にそれでは目立ち過ぎてしまう。


 かと言って負ける選択肢は最初からない。


 手っ取り早いのは火と水の混合魔法を使う事だが、流石にそんな当て付けをすれば、大会が終わった後にリナリアから狙われそうだ。


 そうなると、純粋に上級魔法を使うのが無難だが、俺は祖母様だけではなく、母上にすら使えるとは話していない。


 ギルドの様子を見るに、十五歳位ならば使えてもギリおかしくないが、俺はまだ八歳である。


 リナリアが十二歳でこれなので、同等の魔法を使うのはおかしいのだが、この際もうどうしようもないだろう。


 シトリスの言う通り、リナリアは天才だった。


 その言葉を軽く扱っていた、俺の負けだ。


 後々面倒だろうが、上級魔法で対応するとしよう。


 勿論ギリギリ点数で負けるのを狙ってな。


「続いてはヴィンレット選手となりますが、一体どのような魔法を見せてくれるのでしょうか!」

「落ち着いている様子を見る限り、勝算があるのでしょうが、プレッシャーに押し潰され、暴発させないと良いですね」


 そんな初歩的なミスを誰がやるかと言ってやりたいが、一応集中しなければならないので無視をする。


「荒れ狂う龍の意思よ。流道の水を纏い、我が誘いの言の葉に乗り、大いなる咆哮を示せ――ドラゴスパイラル」


 龍を模った水が現れ、大きな口を開けて魔導具を喰らう。


 少しだけ詠唱を省略したが、これだけで俺の魔力の三割を持っていかれた。


 確かに強力で派手な魔法だが、人を殺すのにはこんな派手な魔法はいらないし、ドラゴンを殺すなら魔剣や聖剣を使った方が効率が良い。


「なんと! これはヴィンレット選手ド派手な魔法を使ったー!」

「水の上級であるドラゴスパイラルですね。私が見たことのある物より意匠がシンプルですので、威力はかなり落ちるでしょう」


 ……確かに威力は抑えているし、聖女の解説の通りなのだが、そんな弱い魔法で大丈夫かと煽られている気分だ。


 俺だってちゃんとしたドラゴスパイラルを使えるが、それだと本当に目立ち過ぎてしまうので、無理をして使っていると印象を与えたくて、あえてこうしているのだ。


「気になる点数ですが…………400.82点です!」

「威力としては上級の範囲内ですが、やはり一回目の魔法が響いていそうですね」

「これで点数はリナリア選手が一歩リードとなりますが、どう見ますか?」

「魔力量によって差が出たとなりますと、三回目は更にヴィンレット選手が不利になりそうですね。ポーションで回復出来れば良いのですが」


 残念ながらそんな物は無い。


 一応身体を癒すポーションは隠し持っているが、魔力を回復するものは持って来ていない。


 これは侮っていたからとかではなく、成長するまではあまり使いたく無いからだ。


 これは通常のポーションもそうだが、魔力とは自然に回復させた方が最大値が伸びやすい。


 一回二回飲んだ程度では誤差だし、大きな影響を及ぼすわけではないが、飲まないで強くなれるならば、その方が良いだろう。


 これは、異世界の抗体と呼ばれている物に似ている。


 過ぎたる薬は身体に根を張り、成長を妨げるのだ。


「さて、次の対決に移る前に、点数の確認をしておきましょう」

「リナリア選手が250.05点と411.45点で、合計661.30点になります。続いてヴィンレット選手は251.15点と400.82点で、651.97点になります。点差は大体十点差ですが、点数以上の差が……あるかもしれませんね」


 あるかもねの所で笑いをこらえている様な気がしたが、気のせいだろうか?


 逃げるか、それとも話をするか…………逃げるのが手だろうな。


 せめて身体が、しっかりと成長しきるまでは会いたくはない。


「それでは、泣いても笑っても最後の対戦となります。栄光を掴むのは、リナリア選手か、それともヴィンレット選手か!」

「個人的には下剋上を見せていただきたいところですが、勇者の娘であるリナリア選手は幼い頃から天才だと言われていますからね。流石に厳しいものがありそうですね」


 点差自体はあまりないので、観客たちのボルテージはあまり下がる事なく、かなり煩い。


 さて、最後の魔法だが、間違いなく複合魔法を使うだろう。


 単純に上級魔法を使うよりも火力が高いし、魔杖ヘカントケイルを使うならば、強力な上級魔法を使うよりもコントロールが楽だろう。


 ついでに、上級の中でも強力な物を使えば、観客席に被害が出る可能性がある。


 一応観客席と会場は結界で隔てられてはいるが、それもどれだけ耐えられるか……。


 仮に観客席が大丈夫でも、会場で見ている他の選手はどうなるか分からない。


 しっかりとコントロールして範囲を絞れれば良いが…………まあリナリアには無用の心配が。


 そんな汚点を残すようなミスをするとは思えない。


「それでは、リナリア選手、お願いします!」


 余裕のある表情でリナリアは杖を構える。


 はたして、どんな魔法を使うのだろうか?


「猛き焔。荒れ狂う風。脈動する大地。ささやかなる嘆きは破壊の渦に呑まれ、無慈悲なる時に消えていく。星の息吹が真実を照らし、母なる祈りが絶望の答えを導き出さん――フランシルティヴァニッシュ!」


 …………いや、そりゃあ天才天才って言ってたけど、これは流石に驚いた。


 シトリスがグランシャリオを、持っていた事を知った時並みに驚いた。


「な、なんと! ここでリナリア選手! 三属性の混合魔法だ!」

「おそらく中級が二種類と、初級が一種類かと思われますが、複合魔法は足し算ではなく、乗算となるので、最上級までとはいきませんが、それに近い威力はあるでしょう」


 三属性の混合魔法。


 そもそも一部の種族以外で三属性も使えるのは稀であり、更に複合となればどれだけ少ないことか……。


 これで性格がまともならばありがたいのだが………………母親に歪められたとかそんなパターンか?


 気になりはするが、関わると録な事にならないだろうし、シトリスに聞くのも止めておこう。


「気にはなる点数ですが…………810.14点です! 大会史上最大の結果でしょう!」

「ギリギリの様に見えますので、全てを振り絞った結果なのでしょう。それでも不発させず、魔法として成立させたのは称賛に値します」


 点数が発表され、リナリアは一瞬倒れそうになるが、なんとか持ちこたえて澄まし顔を作る。


 うーん…………とりあえず後で祖母様は問い詰めるとして、水属性や氷属性だけでこの点数を出すのは残念ながら無理だ。


 よって、最後の最後で杖を使わずに魔法を使わなければならない。


 一応それっぽい構えをするつもりだが、聖女にはバレるだろうな。


 それにしても、これだけ才能豊か…………と言うよりは化け物が妹とは……。


 これは異世界のラノベとやらで偶にある、母親の胎内で何かしら問題が起きたとかだろうか?


 ただ、シトリスはシトリスで才能の片鱗を見せているし、俺とは違い正式にグランシャリオの使い手として認められている。


 俺の仮説が間違っている可能性もあるが、とにもかくにも今を乗り切る必要がある。


 俺の魔力は、使った分と回復した分を合計すると、残り八割ある。


 この八割で上級の魔法を完璧に使う事が可能だったりするが、最上級を使うには全く足りていない。


 聖女が魔法は掛け算と言ったが、魔力の消費量も乗算の様に上がっていく。


 全てが全てこれに当てはまる訳ではないが、要は俺も少し本気を出そうって訳だ。


「えー、会場の修理の為に少しばかり時間をいただきましたが、安全の確認も終わりましたので、ヴィンレット選手の番となります」

「正直なところ、リナリア選手以上の点数は厳しいとしか言えませんが、諦めずに挑んでほしいですね」


 舞台の外に居るジェミニを見ると、既に諦めきった顔をしていた。


 今の魔法を見た後で、俺が勝てるとは誰も思うまい。


 既に会場も諦めムードというか、リナリアの優勝で決まりって感じの雰囲気だし。


 杖をこれまでと同じく構え、しかし魔力は空いているもう片方の手に流す。


 それでは、ちょいと頑張るとしよう。


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