第59話:リナリアの複合魔法
「協議の説明ですが、交互に三回魔法の威力を測定していただき、合計点数の高い選手の勝利となります。また、同じ魔法を使用することは出来ず、三種類の魔法を使わなければなりません」
去年やこれまでの大会の事は知らないが、決勝戦としては妥当な対戦方法だと思うう。
だが、内容としては平民の方が不利となるだろう。
まあぶっちゃけた話、これまであーだこーだ言っているが、戦いに対して有利不利はどうしても起こるものであり、文句を言っても仕方のない事だ。
相手が一万人の兵士が居て、こっちには千人の兵士しかいなかったとしても、戦う時は戦うしかないのだ。
「今回の対戦の結果は一回ごとに掲示板へと表示していきますので、皆様もハラハラしながら点数を見守って下さい。また、決勝用に用意しました魔導具は性能は勿論の事、整数よりも下の数字まで計る事が出来ますので、同点が起こる事はないでしょう」
整数以下って事は、小数点まで計れるのか。
それは確かに凄いが、そこまでの精度を求めているのは誰も居ないだろう。
技術としては凄いのかもしれないが、それよりも廉価版とかの開発をした方が有意義だろう。
こういった物はそもそもの値段が高く、買えるのは一部の貴族だけなのだからな。
「そして、審判兼司会を務めていた私ですが、決勝戦という事で、特別ゲストをお迎えしております!」
特別ゲストねーって感じで眺めていると、司会の周りに白い煙が焚かれ、その中に人影が現れる。
……ああうん。もう誰か読めたわ。
「あの四英雄の一人! 聖女であられまするアイテール様です!」
「アイテールと申します。あまり話すのは得意ではありませんが、よろしくお願いします」
来賓は来賓らしく、観客席に座っていて欲しかったのだが、まさか出しゃばって来るとはな……。
おまけに観客のボルテージは上がりに上がり、かなり煩い。
「それでは早速始めていこうと思います。先行はリナリア選手です!」
リナリアは杖を構え、詠唱を開始する。
「……業火よ。我が敵を貫け。フレイムランス!」
唱えられたのは中級のフレイムランス。現れた三本のフレイムランスは見るからに完成度が高く、形を崩すことなく測定器の魔導具へと飛んで行く。
そして小さな爆発を起こし、点数が表示された。
「なんとリナリア選手! この歳で中級のフレイムランスを撃ち放った!」
「魔法としての完成度も高く、威力も申し分ないように見えましたね。これは得点に期待が持てます」
「点数は……あっ、伝え忘れていましたが、この魔導具は点数の表示が百点満点ではなく、青天井となっています」
点数の発表の瞬間に魔導具の追加説明が入り、ボケが滑った様な感じになる。
大体初級魔法の点数がゼロから百点。中級が百点から三百。上級が三百から千点位になるそうだ。
込められた魔力量や魔法としての完成度により大きく上下するが、大衆向けの説明としては分かりやすいものだった。
少々点数の幅が広すぎる気もするが、まだ発展途上の技術なのだろう。
数字を使う物はどうしてもサンプルが必要になって来るし、魔力の数値化なんて俺の時代には無かったものだ。
なんなら魔法の等級についても…………って、そう言えば初級や中級とかではなく、数字での等級分けもされていたな。
「少し話が長くなってしまいましたが、リナリア選手に点数は――――なんと250.05点!」
「完成度に見合った点数かと思います。単発ではなく、三本放ったのが点数が上がった要因だと思います」
なんかそれらしい解説を聖女がしているが、そう言えば魔法は一つと言っても、一発とは一言も言ってなかったな。
一回の魔法で複数発撃っても問題ないのか。
一つの魔法に大量に魔力を込めるよりも、コントロールは難しくなるが、いくつかに分散させた方が楽に魔法を撃てる。
魔杖ヘカントケイルならば更に楽だっただろうな。
「それでは、次はヴィンレット選手となります」
「先攻であるリナリア選手が高得点だったため、プレッシャーは凄いでしょうね」
普通に解説されているだけのはずなのだが、何故か聖女の言葉は煽っている様に聞こえてしまう。
剣ならもっと凄い事が出来るのに、魔法なんかで大丈夫なのって感じだろうか。
純粋な人間ではない聖女は勇者とは違い、この十数年で身体のピークを越えてしまったなんて事は無い。
なんなら、あれからもっと強くなっている可能性すらある。
ロストワーカーだった頃ならそれでも勝てると言えたが、今は流石にな…………無理だな。ワンパンで死ぬ自信がある。
さて、俺の番だし、八つ当たりついでに魔法を使うとしよう。
使う魔法は……あれにするか。
「白銀を纏いし戦乙女の槍よ。蒼き刃と成り、断罪を下せ――アイシクルランサー」
水の上位となる、氷の魔法。それも名前の通りの連射である。
魔力の消費はなるべく抑え、更に詠唱を弄ることにより、氷の槍の本数を少なくしながらも威力はあまり下がらないようにしている。
正直なところ、詠唱を弄るのはとても難しく、異世界の知識がなければ無理だったろう。
それどころか、詠唱を変えようなんて発想も生まれなかった。
アニメやゲームといった知識がこれ程役になるとは、異世界とは本当に凄い。
「なんと! ヴィンレット選手! 水の上位属性である氷属性の魔法だ!」
「アイスランスではなく、おそらくアイシクルランサーですね。魔法としては一般的に中級とされていますが、その威力は上級に劣らないでしょう」
「さて、気になる点数ですが――――251.15点! 251.15点! です!」
「魔法を鑑みればもっと高い点数でもおかしくないですが、無理をして魔法を使ったのでしょうか。次の魔法に影響がないと良いのですが……」
しっかりと見られていたが、そう取ってもらえるのはありがたい。
これで少しでもリアンナが慢心してくれれば、楽をする事が出来る。
なのでリナリアの方を見てみるが、その顔は無表情であり、キレているのだろうと察する事が出来る。
その表情だけは、訓練中のシトリスによく似ていた。
あいつも訓練で追い詰められると、徐々に表情が無くなっていくのだ。
今のあいつは、妹が負ける様を見て、どんな顔をしているのだろうか?
「一回目は僅差での勝敗となりましたが、勝負は後二回残っています。なによりも、勝敗は合計点となりますので、勝敗はまだわかりません」
「リナリア選手は余裕があると思いますが、ヴィンレット選手は魔法と点数から見るに余裕が無いかも知れませんので、どちらかと言えばリナリア選手の方が有利かもしれませんね」
観客の声援の八割はリナリアを応援するものだが、俺を応援する声も僅かながら聞こえてくる。
やはり金。金が全てなのだろう。俺が言えた義理ではないが、多分声援の中で俺を純粋に応援するのは家族位だ。
そもそも知名度が無いので当たり前だが。
「それでは念のためこっそりと行われていた魔導具の点検も終わりましたので、二回目に移りたいと思います」
「ここで差を広げたいところですが、どの様な魔法を使うのでしょうか」
ポーションと思われる薬を飲んだリナリアは杖を構え、詠唱を始める。
選んだのはさっきと同じく火の魔法だが……。
「……轟々たる猛火よ。自然たる大地と共に敵を穿て――インフェルノキャノン」
これは……流石に驚いたな。祖母様は俺が勝てると言っていたが、これを知っていてあんな軽口を叩いたのだろうか?
「これは凄まじい魔法だ!」
「火と土の混合魔法ですね。おそらく大人でもまともに扱える魔法使いはいないでしょう」
「これには聖女様も驚きのようだー!」
インフェルノキャノンは分類上は中級だが、その威力は上級と同程度ある。
そもそもが混合魔法であり、扱えれば一ランク上の威力を出すのも簡単なのだが、混合魔法は扱いが難しい。
火と水。風と土みたいな反発している属性はその難易度が更に高く、何が言いたいかだが、この歳で使って良いものではない。
…………ああ、これこそが魔杖ヘカントケイルの真価なのか。
タネが割れれば納得出来るが、それでもリナリアが天才なのは確かだろう。
何も苦労せずにこれだけの魔法を使えるなら、賢者なんていらないからな。
「さて、気になるリナリア選手の点数は……」




