第58話:見事に平民に不利な内容
ミストボム。
複合魔法としても使う事が出来るが、今回使ったのは通常の中級のミストボムだ。
殺傷能力は低いが、威力は中々のものであり、使いようによっては大きな音も出せるので、使い道の多い魔法だ
「な、なんと! ヴィンレット選手の魔法により、バリアが割れてしまったー!!」
「今のはミストボムですね。中級魔法でも使い手を選ぶ魔法ですが、綺麗に決まりましたね。衝撃はありますが、威力は低いので、ゾニス選手も既に立ち上がっています」
「解説ありますがとうございます。勝者! ヴィンレット選手!」
再びの阿鼻叫喚の観客達に、軽く頭を下げてから舞台を降りる。
これから決勝と三位決定戦までは時間が空くので、何か言われる前にジェミニと一緒に控室まで戻る。
それにしても、油断していたおかげで、綺麗にミストボムが決まったな。
ミストボムは唱えてから一度水蒸気を圧縮する工程があるため、どうしても爆発までにワンテンポ遅くなる。
そして解説も言っていたが、衝撃はあるものの威力は低いため、近くで爆発させないとそこまで相手にダメージを与えられない。
爆発範囲を広げればデメリットも消せるが、その場合は魔力が更に必要になるため、使い勝手が悪くなる。
ただ、一番の勝因は、対決と聞いてあの……ゾニスは厭らしい笑みを浮かべていたが、実は戦いというモノを理解していなかったからだろう。
まさか正面ばかりを気にして、真横で発動した魔法に気付かないなんて…………子供ならそんなもんか。
戦争中に正面だけからしか敵が来ないなんて事はありえない。
前や後ろ。左右だけではなく、空や地上にも気を配るのが普通だ。
一応フェイクとしてウォーターボールも発動させておいたが、全く気付かないで吹っ飛ぶとは誰が思うだろうか?
これがシトリスならば、ミストボムが爆発する前に破壊したり、爆発の余波を使って突撃とかしてくるだろう。
「中級魔法も難なく使えるのね」
「見てたなら分かると思うけど、中級でも大した魔法じゃないからね。生身で当たっても、痣が出来るか出来ないか位だし」
因に子供だから吹き飛んだが、今回俺が使ったミストボムを大人に使った場合、その場で耐えることも出来るくらいの威力だ。
「それでもよ。私なんてまだ使うことすら出来ないのに……」
「教えた練習をしていれば、直ぐに使えようになるさ。魔力さえあれば、後はイメージとコントロールだけだからね」
必要最低限の魔力さえあり、しっかりと詠唱さえ出来れば、基本的に魔法は発動する。
だが、ただ発動した魔法なんてのは、素手で銃弾を投げる位無意味なものだ。
そして銃は銃でも、グレネードの弾をアサルトライフルで撃てない様に、最適な銃を選ばなければ弾は無駄になる。
だが、魔法という弾は銃がなんであれ、水鉄砲程の威力だとしても撃つことが出来る。
ただ、異世界には大きな弾を空から落とすだけなんて方法もあるらしいが、これはあくまでも一般的な場合の話である。
「……なら頑張るとするわ。ところで、魔力は大丈夫なの?」
「ミストボムは元々魔力をほとんどは使わないし、なんなら既に回復しているから大丈夫だよ」
「本当になんでそこまで余裕でいられるんだか……」
ため息を吐いたジェミニは、ドカッとソファーへと座り込む。
ほんの一瞬スカートの中身が見えしまったが、見なかった事にしてあげよう。
たかが下着の一枚で顔を赤くする程おぼこじゃないし。
ジェミニから目を逸らすついでに小窓から会場を見る。
今は休憩時間だが、会場の熱を冷まさせないように、ちょっとしたイベントをやっている。
魔法で魔物や人を作り出し、演舞を行わせる。
うーむ……今の俺ではあれだけの魔法を使うのは難しいな……。
まだまだ上とのレベル差を感じてしまうが、このまま程々に訓練しながら歳を重ねれば、同じかそれ以上にはなれそうだな。
なったところで使う場面なんて来ないのが一番だが、今みたいにそれなりの力が必要になる場面はやってくる。
「何見てるの?」
「会場でやってるイベントだよ。流石宮廷魔法使いってやつかね」
「宮廷魔法使いね……私達には遠い存在ね」
「ジェミニならなれそうだけど、何か夢でもあるの?」
長子ならば無理だろうが、学園でそれなりの成績を残せれば、宮廷魔法使いの一人になるくらいは可能だろう。
この大会で数百人の内の八人になれるのだし、これからも努力を怠らなければ伸び続ける。
もしも物覚えが悪いとかなら厳しいが、平民側の大会に出る狡猾さもあるし、頭が悪いなんて事はないだろう。
「……あるけど、言わないわ」
「そう。それならそれで構わないさ。学園にすら行く気のない俺には関係がないしね」
「冷たい男ね。そんなんじゃモテないわよ」
「金さえあれば、案外どうにかなるさ。愛より顔より金があれば生きられるのが世の中だよ」
無論金よりも重要な物があるが、基本的に金があればどうにかなるのが世の中だ。
過去の俺は金も力もあったが、その重要な物が無かった結果の最期だろう。
…………そう言えば、俺がコツコツ貯めていた金はどうなったんだろか?
金貨以外にも宝石とかもあったが、全部国やらギルドに接収されたのだろうか?
…………ギルドや誰かに預けたりせず、珍しい武器のいくつかを隠しておいたが、いつの日か探しに行ってみるとしよう。
既に荒らされて奪われている可能性もあるが、もしも奪われていないならば良い資金源になる。
とは言っても隠した場所はどれもこの国から離れているので、探すにも時間が掛かる。
だが、一本だけでも見つける事が出来れば、金貨二百枚から五百枚位にはなる。
今から少し楽しみである。
「ヴィンレット選手。そろそろ時間になりますので、会場にお願いします」
「分かりました」
ジェミニの蔑む様な目を受けたところで時間となり、係員がやって来た。
少し小腹が空いてきたが、後二時間もすれば終わるだろうし、帰りに肉が食べたいな。
係員の後ろを付いて行くように待機室を出て会場へと向かう。
勿論俺の後ろにはジェミニも付いて来ている。
「三位決定戦の後に決勝戦となりますが、準備は大丈夫ですか?」
「はい。問題ありません」
ほんの少しだけ係員が怪しい感じがするが、どうせ何も出来ないだろうし大丈夫だろう。
念のため、目だけは離さないでおくか。
「長らくお待たせしました! 続いては決勝戦の前に、三位決定戦を行います!」
会場に着くと丁度三位決定戦が始まるところであり、二人が舞台の上に居た。
どちらが勝ったとしても、そもそも三位には賭けていないため、どっちが勝っても問題ない。
そして次の決戦で相当な不正をされない限り、一位は俺で二位はリナリアとなる。
一応まだ皮算用だが、優勝賞金に賭けの儲け金。更に祖母様からの杖と色々なものが手に入る。
大会に出るとなった時は物凄くブー垂れていた気がするが、今となっては気分が高揚してしまう。
「接戦でしたが、勝負を制したのはゾニス選手となります! 皆さま、盛大な拍手をお願いします」
おっと、考え事をしていたらついに出番がやって来たか。
「勝ってきなさいよ」
「勿論。向こうの方が武器の点では勝っているけど、それだけが全てじゃないからね」
魔杖ヘカントケイルは確かに良い杖だが、それ以上の杖を持っている魔法使いと戦った事もある。
魔杖ヘカントケイルが厄介なのは対人戦の場合であり、直接戦う勝負が無い以上、魔杖ヘカントケイルの有用性は一部意味が無くなっている。
まあ普通に戦う事になったとしても問題ないのだが、果たしてどんな内容になるのやら……。
「それでは、皆様お待ちかねの決勝戦となります。彼の勇者の娘であり、その腕前は同世代から一つも二つも飛びぬけている、リナリア・バンデスデル選手!」
歓声と共にリアナリが先に舞台へ上がり、観客席に向かって一礼をする。
貴族らしいパフォーマンスであり、この姿を見て誰が勇者の家庭内事情を察する事が出来ようか?
そして、この中の何人が勇者の子供の数を正確に知っているのだろうか?
「続きまして、この大会一のダークホース。魔法のコントロールは大人も顔負けなヴィンレット選手!」
呼ばれたのでおれも舞台へと上がり、一瞬だけリナリアと視線が合った。
その視線はどこまでも冷たく、完全にこちらを見下している様に見える。
「それでは決勝戦ですが、三種類の魔法を用いた、魔力測定になります!」
…………うん。見事に平民に不利な内容だな。




