第57話:圧勝
「さあ、最後の戦いは――百の的当てです!」
会場の舞台に上がり、対戦相手と向き合う。
そして視界が箱からクジを引き、対戦内容が決まる。
「今回の対戦は百個の的を先に壊した選手の勝ちとなります。ただし、使用して良いのは初級魔法までであり、一つの魔法で壊して良いのは一つとなります」
やるのは的当てか。
司会の説明が微妙にややこしいが、俺としては全く問題無い。
一回のウォーターボールで複数の玉を作るのと、ウォーターボールを複数回唱えて複数の玉を作るのは、似ているようで全く違う。
前者は俺や祖母様がやっているものだが、後者は俺がお手玉をやる時に使っている方法だ。
銃で例えればマガジンを沢山用意するか、装填された銃を沢山用意するのかって感じの差だ。
前者の方が楽に弾数を稼げるが、変化をつけるのは難しい。
後者ならば同じウォーターボールでも、大きさや密度などを変えたり出来る。
数で制圧するなら前者の方がよく、後者の方は玄人向けだ。
そして今回は前者ではなく、後者の方法でしか魔法を使う事が出来ない。
後者のこの方法だと、魔力のコントロールをあまりしなくて良いのだが、一撃一撃が遅くなり、魔力のコントロールよりも魔力量の方が重要となる。
なので、普通に考えると圧倒的に平民の方が不利になる。
既に勝った気でいるのか、対戦相手の貴族はそれは満面の笑みを浮かべている。
今回は二人同時に開始となるので、相手が絶望するのを見るのは対戦が終わってからとなる。
まあ、流石の俺でも初級の魔法を百個も同時には無理なので、観客の度肝を抜く様な事は出来ない。
「それでは杖を構えて下さい」
俺は短杖を。貴族は長杖を構え、百個の的が現れる。
「――始め!」
クイっと杖を少し動かしながら魔力を込め、ウォーターボールを十回無詠唱で発動し、そのまま的に向かって放つ。
その間に更に十回無詠唱で発動し、最初に放ったウォーターボールが当たったタイミングでまた放つ。
同然だが祖母様にスパルタ訓練された俺の命中精度は、西部劇のガンマンも驚く位である。
西部劇ってのは記憶を辿っても良く分からないが、ガンマンとは銃を使う人間の呼称らしい。
過去に銃を使っていた俺には丁度良い呼び名だろう。
「な、なんと! ヴィンレット選手! 子供とは思えない速度で瞬く間に百個の的を破壊してしまいました!」
「しっかりとルールに沿っていますね。この年齢でこれほどの魔法を使えるとは、将来が楽しみです」
司会の他にも解説役が居たらしく、俺が違反していない事をしっかりと周りに伝えてくれた。
聖女が居る目の前で、不正や虚偽の言葉を吐く事はしないだろう。
貴族だからと言って、あいつが手を抜くとは思えないし。
「こほん……えー、勝者はヴィンレット選手となります。皆様どうか拍手をお願いします!」
まだ貴族側が半分以上残っているが、勝敗は先に壊した方の勝ちとなるので、観客席に向かって軽く頭を下げてから通路近くの壁まで下がる。
そこにはジェミニが待っており、折角勝って来たというのに、不満そうな表情をしていた。
「勝って来たよ」
「……よくその杖であれだけの魔法が使えるわね」
「これでも魔力には自信があってね。派手にやった分消費もあるけど、どっちが上に見えた?」
初級魔法なので、頑張ればもうちょい数を増やせたが、これ以上は回復が間に合わなくなってしまう。
それでもジェミニの顔を見る限り、リナリアよりも上なようだ。
態々舞台側から背を向けているが、ひしひしと視線を感じる。
今振り返ると、思わず笑みが出てしまいそうなので、このままでいよう。
「ああ、答えなくても良いよ。観客の発狂を見て分かったから」
「……強かね」
俺が勝ったことにより、観客達はとてと面白いことになっている。
俺は大穴の大穴だ。
大穴狙いで賭けるなんてほとんどが馬鹿であり、そんな馬鹿は少数だ。
つまり単勝狙い以外のほとんどが、この瞬間にハズレとなる。
それはもう罵声が雨あられの様に降っている…………のだが、大穴狙いで賭けた人達もおり、一部ではテンションの上がった…………発狂している人達が見える。
「そうでなければ、こんな大会に出ないさ。他とは違って、始めから勝つ気だしね」
「今のを見たら、誇張じゃなくて本気だと分かったわ」
話をしている内に次の試合が始まり、俺への興味も減って来たので、舞台の方を見る。
次の試合は障害物の破壊であり、あっという間にリナリアの勝利となって終わる。
嫌がらせの様に俺の番が早く来たが、決勝の前には休憩時間があり、魔力を回復する時間がある。
なんならさっきの分は既に回復しているので、次の試合が酷いものでない限り、万全の状態で戦いに挑める。
「さあ、優勝候補のリナリア選手の勝利となりました。続いては、火属性で華麗に勝利したゾニス選手対、水属性にて大人顔負けの早打ちをしたヴィンセント選手の対戦となります」
どうやら呼ばれたようだな。
「それじゃあ次も勝ってくるよ」
「ええ。頑張ってね」
舞台へと上がり、司会がクジを引くのを待つ。
偶然だが、相手は俺が出席したパーティーで見た事がある貴族だが、向こうは俺に気付いていないようだ。
なるべく影を薄くしていた甲斐があったな。
「次の対戦は――おっと、珍しいクジを引きました。なんと対決になります!」
まんま戦うってわけだが、俺としては好都合だ。
ただ、表側だけを見れば単純に珍しいだけだが、裏を読むならば俺を負けさせようとしているのは確かだろう。
一応属性的な有利はあるが、平民の子供が魔物ならまだしも人と魔法で戦うなんて事はしない。
「知っている方は多いと思いますが、この対決は安全を考慮し、こちらの魔導具によってはられたバリアを先に壊した方の勝ちとなります」
……なるほど。思ってたよりもこっちが不利になるな。
バリアの破壊となると、魔法の破壊力が高い方が有利となる。
しかし一般的に水属性は、制圧力はあっても破壊力という面では微妙だ。
津波や上位の氷属性を使えば違うが、破壊という面ではあまり高くない。
特に初級魔法クラスならば尚の事だ。
現にその事が分かっているのが、相手の貴族は嫌らしい笑みを浮かべている。
まあ初級以外も使えるので、火力面は問題ないのだが。
ジオに話を聞いて予習してあるが、この歳で中級魔法を使えるのはほとんどいない。
しかし俺は母上の教えのおかげで中級魔法もほとんど使えるようになった。
つか、初級魔法を改良して使った方が楽だし単体火力も出せるので、使えなかったとしても問題無かったりする。
「この腕輪を外れない様にしっかりと装備して下さい」
「はい」
魔導具を係員から受け取り、腕に嵌める。
すると、自分のものではない魔力が薄っすらと腕輪から漂い始めた。
一定以上の魔力を受けると壊れるって感じかな?
これなら別に火力どうこうとか考える必要も、なかったかもしれないな。
「それでは舞台の上の白線まで下がってください。さて、対戦を始める前に、改めてルールの説明をさせていただきます。魔法の使用は無制限ですが、バリアが割れた時点で対戦は終了となります。また、魔法以外の攻撃は全て禁止となるので気を付けて下さい。それでは――始め!」
「貫け! ファイアーボール!」
開始の合図と同時に、ジオよりも拙い魔法が飛んでくる。
それもたったの二つ。
こいつは俺の一回戦の魔法を見ていないのか?
ウォーターボールを的当ての時と同じく十個作り出し、その内二つで向かってくるファイアーボールを壊し、残りの八個を回転させながら相手に放つ。
驚きながらも避けようとするが、四つはバリアに当たったものの、残りの四つは避けられてしまう。
「おっと! ゾニス選手の魔法を撃ち破り、ヴィンレット選手の魔法が襲い掛かる!」
それなりに魔力を込めたはずなのだが、バリアは壊れなかったな……。
四つならば大体中級魔法位はあったはずだが…………小賢しい真似をするものだ。
まあ良い。バリアの強度が俺と貴族で違ったとして、それを不正と声を上げたところで誰も信じないだろう。
魔法に込められた魔力を正確に確認できるなんて人間は早々いないし、俺だってまだ無理だ。
腕輪を調べろと言っても、それならば新しいのとか言いそうだしな。
俺を負けさせる意味でも、魔力を消費させる意味でも良い手だが……ならばこちらはその上をいこう。
まずは追加で飛んできたファイアーランスを軽く防ぎ、魔力を練り上げる。
「爆ぜろ。ミストボム」
水圧を利用した水の爆発を起こし、ゾニスのバリアが割れる音と共に、舞台の外まで吹き飛んで行く。
勝ったな。




