第54話:そう――賭博
祖母様が張り切って俺を虐めた次の日。
やっと本選であり、シトリスの妹を初めて見るついでに倒す日でもある。
シトリスの言葉通りならば、悪女と呼ばれる存在なので、俺の少ない良心も痛む事は無い。
だが、悪女とは嫌な事があると八つ当たりをする奴らだ。
晴れ舞台を潰されれば、間違いなく報復をしてくるだろう。
まあ王都に居る間に手を出される事は有り得ないので、そこまで心配はしていないけど。
「あっ、兄さん起きたんだ」
「そりゃあ起きるさ。毎日起こされるまで寝ている俺じゃないさ」
昨日はジオに起こされるまで寝ていたのだが、たまにはってやつだ。
俺だって毎日惰眠をむさぼっている訳ではない。
確率で言えば、一割位の確率でちゃんと起きられる。
まあ、起きた時間はジオが朝練を終えて部屋に帰ってきた後なので、朝食の時間までは結構ギリギリなのだが。
ジオが汗を流している内に、魔法でサッパリとしてから着替える。
火と水の魔法は日常的に使えるので、なるべくだらけたい俺にとっては本当にありがたい。
精霊魔法の水も、触れたものを濡らさずに掴むことが出来たりするので、本気を出せば魔法で代筆なんて事も出来る。
そこまでの精密な操作……精霊魔法なので操作というよりは思想だが、気軽に出来ないので、まだ手で書いた方が楽な状況だ。
将来的には部下ないし下僕達に書類とか色々とやらせる予定だが、俺がやらなければいけない事もある。
その時に楽が出来るように、練習をしなければならない。
「おはようございます。食堂にて旦那様達がお待ちになっております」
「どうも。今から向かうよ」
朝の支度を終えて、ジオがシャワー上がりの柔軟をしていると、サイドテールのメイドがやって来た。
昨日俺を見捨てたというのに、気にしている様子は見られない…………まあ、当たり前だけど。
それなりの付き合いとなるが、このメイドは仕事に忠実であり、職務以上の事は絶対にしない。
忠誠があるのか知らないが、人材としてはとても使いやすいだろう。
そのメイドを欲しいかと聞かれると迷うが、残念ながら給料を払えるだけの蓄えがないので、どう足掻いても雇うことは出来ない。
世の中一に金で二に金だ。
金がなければ、有能な人材を手に入れるのは難しい。
悲しい事に、俺には人望が無いらしい。
そうでなければ、あんな袋叩きみたいな戦いにはならなかっただろう。
友達と言えるかは微妙だったが、権力の前に友情とは儚いものなのだろう。
「おはよう。今日はちゃんと起きれたか?」
「おはよう。ジオを見れば分かるでしょ?」
俺が起きない時は、基本的にジオは呆れている。
しかし今日は俺の言葉に苦笑いを浮かべているだけだ。
「珍しいな。これは本当に優勝するかもな」
「本当はする予定じゃなかったけど、子供には色々とあるんだよ」
「マーガレットの血を引いてるから、魔法が得意なのは分かっているが、慢心は足元をすくわれるぞ?」
それは祖母様にも言われたが、俺が慢心しない事は、父上が一番理解しているはずだ。
過去の自分の技を使わず、父上の教えのみで一撃いれて見せているのだからな。
まあ、慢心はしなくても、騙されはするので、その時はその時だ。
「その時はその時ですが、俺がやる男だというのは父上もご存じでしょう?」
「まあな。だが、親としては子には真っ当に育って欲しいのさ」
そう言いながら父上は、せっかく整えた髪を雑に撫でる。
それはどうかジオだけで許して欲しい。
理由は分からないが、ステラは捻くれているし、俺は見ての通りだからな。
個人的に、どうかステラには素直な女の子になって欲しい。
まあ、母上や祖母様を見る限り望み薄だと分かっているが。
父上には適当に笑って誤魔化し、食堂で待っていた祖父様達に挨拶をする。
今日も今日とて飯が美味い。
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祖父様と祖母様からの、口擊に耐えながら朝食を食べ終えたら、魔法大会の会場に出発となる。
全員一緒と行きたいが、今回も祖父様と祖母様とは別の馬車で向かう。
祖父様は伯爵ではあるが、下手な伯爵よりも発言力があり、なるべく祖父様達の力は借りたくないとか適当なことを言った結果だ。
本戦ではぶっちゃけ身分とか隠す必要はあまりないが、これも布石と言うやつだ。
この布石が意味を成すかどうか、シトリスの妹次第だろう。
さて、魔法大会の本戦だが、昨日の平民の向けの会場を市民公園とするならば、国際競技場となる。
この世界にはそんなものは無いので、イメージとしてはコロッセオだろう。
子供の魔法なんてのはショボいものだが、大きなコロッセオが埋まる程の観客が訪れる。
理由は色々とあるが、一番は金が動くからだ。
それは魔法大会を見に来た観光客が、飯や買い物で金を落とすなんて小さなものではない。
そう――賭博だ。
誰が優勝するのか? 準優勝や三位は誰になるのか?
そういった順位を予想するのだ。
俺はやった事が無いが、とある人物はこういった賭博に強く、旅費は賭博で手に入れていたらしい。
記憶によれば、異世界では賭博は良くないものとされているが、この世界では普通に行われている。
なんならギルドや、酒場で起きたちょっとした喧嘩とかでも行われていたりする。
大抵の賭博はちゃちな物だが、これ程大きな大会となれば、平民すらも一攫千金を得る事が出来るかもしれない金が動く。
そりゃあ見に来る客も増えるってものだ。
因みに、残念な事に選手が表で行われている賭けに、参加することは出来ない。
裏ならば出来るだろうが、見つかれば捕まるので、そんな危ない事はしない。
なので、シトリスに俺に賭けるように指示をしておいた。
あいつは完全に部外者であり、金を持ち逃げなんて事はしない。
賭けたのは俺の全財産であり、金貨三枚だ。
オッズは始まってみなければ分からないが、この賭けの事もあり、俺は平民側の会場を選んでいた。
魔法とは才能もだが、どの様な訓練をしてきたかが重要だ。
つまり、平民は圧倒的に不利であり、オッズが上がりやすい。
そして所謂単勝よりも一位と二位を同時に当てる方がオッズが高く、三位まで当てるとなればどれだけのオッズになる事か……。
この大会がトーナメントではなく、総当たり戦とかならば実力がそのまま順位となる可能性が高いが、トーナメントの場合、実力が全てとは限らない。
そして賭ける事が出来るのは、当日の組み合わせが発表される前までなので、これが結構な博打となる。
単勝は確定で当てられるが、オッズで言えばどう足掻いても二十倍が限度だろう。
金貨六十枚は確かに大金だが、馬車を買ったり仕入れ等を考えれば全く足りない。
三連単は流石に難しいが、俺とシトリスの妹の位置が別れてさえくれれば、一位と二位を当てることはできる。
大会の運営側が操作するのか分からないが、決勝で平民と貴族が当たるようにした方が盛り上がる。
無論初戦で負けることもあり得るわけだが、分けといた方が当てるのは難しくなるので、ほぼ間違いなくそうなると睨んでいる。
二位が手堅い結果にはなるが、一位が俺の時点で結構なオッズになるはずだ。
百とは言わないが、最低でも五十倍にはなって欲しい。
今なら分かるが、聖女が賭博をしていたのも良く分かる。
まああの頃の二つ名は聖女ではなかったが、ワクワクが止まらないぜ。
「着いたぞ。頑張ってこいよ」
「勿論さ。なんなら、俺の優勝に賭けても良いよ」
「そこまで財政には困ってないさ。それに、出来れば純粋な気持ちで応援したいからな」
快活に笑う父上だが、なら無理矢理大会に出すような事はしないで欲しかった。
まあそのおかげで大金と、大金を積んでも手に入らない様な杖を手に入れられそうなので、結果オーライなのだが。
父上とジオと別れ、選手の受付をしている場所に向かう。
一応昨日の予選で表彰され、その時に偽造不可の選手だと証明する紙を受け取っている、
因に大会には家名は出さず、名前だけで登録している。
田舎の男爵とは言え、父上の名は一部では有名なので、面白半分に賭けられてオッズを下げられたら困るからだ。
「おはようございます。受付をお願いします」
「はい…………確認しました。こちらの通路を進み、突き当たりを右に曲がりますと控え室がありますので、呼ばれるまでお待ち下さい」
受付で紙を出し、言われた通りに進むとT字路に突き当たる。
ふむ……成る程。左側の通路は貴族用で、右側が平民用と分かれているのか。
実は平民側の二人が揃って貴族なわけだが、貴族と平民を分けるのは至極当たり前の事だ。
「やあ、昨日振り」
「……」
言われた通りに右に曲がり、控え室には入ると、何故かジェミニに怪訝そうな顔で迎え入れられた。
何故?




