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ロストワーカー~騙された傭兵はヒモ生活を夢に見る~  作者: ココア


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第53話:シトリスの冒険

 しばらく会場で待ち、ようやく結果が発表された。


 結果として俺は三位であり、ジェミニは四位となる。


 二位ではなく三位だったのは少し驚きだが、殆ど僅差だったので、俺の予想は的外れではなかったようだ。


 これで魔法大会の予選も終わり、明日の本選まで休む事が出来る。


「ちょっといいかしら?」

「大丈夫ですよ」


 なんて事はなく、屋敷に帰って来て部屋へ向かおうとすると、祖母様に呼び止められた。


 どうせ呼び止められると思っていたので、焦る事も無い。


「大会で話していた事だけど、知り合いだったの?」

「いえ、魔法の事で少し聞かれたので、軽くアドバイスをしただけです」

「それにしては仲が良さそうだったけれど、大丈夫かしら?」

「大丈夫だと思いますよ。話した限り、俺の事を勘違いしているようですし、明日以降会う事も無いですから」


 ジェミニは学園に入学する気であり、嘘か本当かは分からないが、住んでる場所に俺が行く事は多分無い。


 あったとしても、最低でも年単位でジェミニは学園へと通うわけで、会う事は無いだろう。


 学園の長期休暇の日程さえ間違えなければな。


「なら良かったわ。けど、明日は優勝を狙うつもりかしら?」

「はい。大会の前に言っていた通りです。あの点数が本気でしたら、問題なさそうですから」

「ヴィンレットと同じかもしれないわよ?」

「その時は俺が祖母様のお眼鏡に敵わない、ただの子供だったという事です」


 あらあらと祖母様は笑うが、表情の通りこの会話を楽しんでいそうだな。


 適当にヒモ生活をするにあたり、話術だけは必ず必要になってくる。


 言葉での戦いは剣を振るよりも困難だが、剣を振るよりも良い結果を齎す。


 剣で斬れば人は死ぬが、言葉では殴るのが精一杯であり、言葉で殺すのは剣と違いとても難しい。


「そうならない事を願います。それはそれとして、今日の大会は疲れましたか?」

「いえ、魔力も直ぐに回復する程度しか使わないようにしていたので、ほとんど疲れていません」


 そう言うと、祖母様は更に笑みを浮かべ、俺は失言した事に気付いた。


 そうだよ。祖母様はスパルタだんだよ。俺が疲れて無いと言えば、とる行動は一つだ。


 悲しい事に食事は帰る途中で取っており、後は夕飯まで自由な時間となる。


「それは良かったわ。疲れているようならまた今度にしようと思ったけど、それなら大丈夫そうね」

「……すみません。少し疲れていますので、部屋に帰っても良いで……」


 全てを言い切る前に、祖母様は俺の手を引いて歩き出す。


 サイドテールのメイドが近くに居たので、助けを求める視線を送るが、見送りの礼をされるだけだった。


 そりゃあ雇い主が祖母様だから仕方ないが、少し位情けを頂けないだろうか?







1







 ヴィンレットが祖母であるマリーゴールドと共に魔法を撃ち合っている頃、シトリスはヴィンレットに言われた通りに、目立たないように変装してダンジョンに来ていた。


 王都の周りには複数ダンジョンがあり、中にはギルドだけではなく国からの許可が必要なほど危険なダンジョンなどがある……まだ低ランクのシトリスには関係ないが。


 前回の失敗を活かし、シトリスは事前に情報を集め、人気があまりない場所を選んだ。


『辛気臭い場所だなぁ。もう少しマシな場所は無かったのか?』


(無いよ)


 バッサリと切り捨てたシトリスは、グランシャリオではなく、ヴィンレットから貰った剣に手を掛けながらダンジョンの中を歩く。


 シトリスがやって来たダンジョンは、馬車で半日程の距離にあり、ランクはEとなっている。


 名前はラガーフォレストとよばれ、ダンジョン内には木々が生い茂り、沼や池が点在している。


 このダンジョンが嫌われている理由は多くあり、植物のせいで歩き難いや、上空からの魔物にも注意しなければならなかったりだ。


 不人気ではあるが、このダンジョンで採れる素材は珍しいものが多く、ギルドの掲示板の中でも依頼金は高く設定されている。


 それでも受ける冒険者は少ないのだが。


 草を踏みしめて歩くシトリスは突如剣を抜き、上空から落ちてきた鳥型の魔物を斬り裂く。


 魔物はそのまま塵となり、魔石だけが残され、シトリスは周囲への警戒を怠らないようにしながら拾う。


『俺のようにはいかないな』


(神剣と鉄の剣が同じなわけないでしょ)


 使う剣がグランシャリオならば、倒した後の魔石は綺麗にシトリスの手の上に、落ちるように調整することくらい雑作もない。


 しかし使い慣れていない剣では、そこまで精密な操作は出来ず、グランシャリオの煽りにシトリスはそっけなく返す。


 神剣なだけあり、グランシャリオのポテンシャルは尋常ではない。


 扱うには相応の魔力が必要であり、ただの人が使うのではただの剣と変わらないが、シトリスにとっては扱いなれた剣であり、他の剣ではどうしても差が出てしまう。


『そうかい。で、目当ての物は見つかりそうか?』


(あと一つよ。でも、此処って本当に面倒よね……)


 人気が無く、ほとんど人が居ない理由もしっかりと調べてから来たが、それでも少女の身には辛いものがある。


 だが、この環境が鍛えるのに向いているのも分かっており、グランシャリオに弱音を吐くものの、その足取りは迷いがなくしっかりとしている。


 大人も出場する剣術大会は、当たり前だがまだシトリスには早い。


 約十年経ち、戦争全盛期の大人達が少なくなったとはいえ、出場するのは強者ばかりだ。


 ヴィンレットから貰った訓練メニューをこなすだけではなく、グランシャリオからアドバイスを貰い、今日のようにダンジョンへとやって来ている。


「あっ、あった」


 依頼された最後の素材を見つけ、仲間が居るならばともかく、一人の状況で声を出すのはあまり良くなく、この事をヴィンレットが知れば呆れるだろう。


 素材を採取する時は両手が塞がり、武器を手にする事が出来ない。


 それがどれだけ僅かな時間だったとしても、その時間は明確な隙であり、襲われれば何が起こるか分からない。


 仲間が居るならばともかく、一人の場合はより一層注意する必要があるのだ。


 この程度の低ランクのダンジョンに出てくる魔物ならば、いくら隙を晒したとしても問題ないが、魔物だけが危険な訳ではない。


 そう、人――他の冒険者も危険なのだ。


 場合によっては魔物や罠よりも怖いのが人なのだ。


 現にロックシューターで、シトリスは襲われ掛けている。


 ヴィンレットが居なかったとしても、シトリスだけでも倒せる程度の弱さであったが、狡猾さでは相手の方が上だったろう。


 飛び道具や毒。態々人数を揃えたり、様々な手を打っていた。


 全て力の前には無意味だったが、シトリスが一人だった場合、無事だったかは分からない。


『これで終わりか?』


(うん。依頼書に書かれていたのはこれで全部だよ)


『ならさっさと帰ろうぜ。こんな所に居たら錆びちまう』


(錆びるの?)


『……いや、錆びねぇけど』


 神剣なだけあり、グランシャリオは錆びず欠けず曲がらない。


 だからと言って手入れを疎かにすれば性能が下がるのだが、ヴィンレットに教わったシトリスが剣の手入れを疎かにする事はない。


『だが、こんな湿度がたけぇ場所に居ても不快になるだけだ。帰り道を考えりゃあ、訓練としてもいい塩梅だろうな』


(……そうだね。今日だけでも結構戦ったし、やり過ぎは駄目だって言われてるもんね)


 素材の採取を終えたシトリスは立ち上がり、これまで来た道を戻り始める。


 大人に比べ、ほぼ全ての点で劣ってるシトリスだが、今のシトリスでも一つだけ優れている点がある。


 それは、目的のためならば全てを犠牲に出来る精神性だ。


 ヴィンレットという光に魅せられた結果得たものだが、必要ならば人すらも簡単にシトリスは殺す事が出来る。


 疑問に思い、理由が無ければそんな事はしないが、必要と思えばそこに迷いは生じない。


 更に言えば武器が優れているが、この剣はヴィンセントの戦いまでは使う事ができない。


 グランシャリオの強化を使えば、下手な大人にも負けない位強くなるが、今回はヴィンセントに当たるまでは自分の力のみで戦う必要がある。


 襲い来る魔物を倒しながらダンジョンの外まで帰ってきたシトリスは、ほとんど人のいないギルド出張所に入り、依頼品を提出する。


 最後に証明書を貰って終わりとなるが、此処は人気が無いだけあり、馬車の往来は一日数本しかなく、貸し切りで使うには割りが合わない。


『そんじゃあ頑張れよ』


(うん)


 剣を二本に、冒険をするために必要なものを入れたバッグ。


 少女が持つには少々…………かなり重いが、シトリスはそれらを持って王都へと走り出した。


 そう、自分の足で。

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