第52話:あの方の視線
ジェミニと話をしている内に休憩時間も終わり、第三予選の時間となる。
第三予選は聞いていた通り、現れた的を時間内に幾つ壊す事が出来るかだ。
ついでに会場というか、予選をやるのは一ヶ所であり、俺は一番最後となる。
しかし、この的を操る人達は大変だな。
第一予選を見る限り、決められたパターンをローテーションしているようだが、何度も魔法を使えば疲れるだろうに。
本当にお疲れ様だが、やっているのは所謂下っ端の魔法使いだろう。
学園の新教員とか、宮廷魔術師の新入りとか。
「……」
「緊張してる?」
「し、してないわ」
自分の順番が近くなると、あからさまにジェミニはそわそわとし始め、更に持っている杖を弄り始めた。
返事も聞いての通りであり、緊張しているのは確かだろう。
第三予選での得点が高得点だったとしても、貴族側と合わせた時に、上位八人に入れているか分からない。
満点から九割の間ならばほぼ間違いないだろうが、それは見ている感じ厳しそうだ。
今回も第一予選と同じく、百点満点が最高となるが、これまでの事もあり、最低十二点。最高でも二十八点とかなり低い。
残っている人数が少ないので、平均的な値は出せないが、貴族側も最高でも五十から六十位と予想できる。
そして優勝候補となる勇者の娘は、出せても七十位だろうか?
最初から満点を出させない様な的の出方なので、俺の予想は大きく外れていないと思う。
「次みたいだよ」
「……そうね…………あなたは本選に出られる自信はあるの?」
「知ってるかは分からないけど、第一予選の時と同じ様にやれば、六十点は出せると思っているよ。魔法ってのは、出来る限り手間を省いた方が、早く撃てるわけだからね」
「確かにその通りね。少しだけ気が楽になったわ」
ジェミニは薄く笑い、長い茶色い髪を手で払ってから丸い円のある場所へと向かう。
やる気を出してくれるのは良いが、女生徒はよく分からないものだが、これで少しでも恩に着てくれれば万歳だ。
そしてジェミニの番となり、開始の合図と共にジェミニは自分の周りに三つのファイアランスを出現させ、的に撃ち出していく。
三発撃ち終わるごとに詠唱してファイアランスを補充し、いくつかは間に合わなかったり、外したりしながら壊していく。
これまでとは違い余裕は無いのか、顔は真剣そのものであり、汗が頬を伝っているのが見える。
「そこまで!」
時間となり、ジェミニの第三予選が終わる。
点数は六十二点。
終わった本人が驚いているのもあるが、周りの観客もかなり驚いている。
これまでの選手に比べダブルスコア以上での首位となる。
ふと視線を感じ、辺りを見回すと、祖母様がジッと俺の方を見ていた。
うん。後で聞かれる事になるだろうが、俺は確かにアドバイスっぽいものをしたが、それだけで魔法が上手くなるならば苦労しない。
なんならアドバイスしただけで、待っている間にジェミニは魔法を使っていないし、俺がジェミニ何かしたなんて事も無い。
だからそんな目で見るのは止めて欲しい。どうせこれを口実に俺へと訓練をつけようと考えていそうな目はな。
こんな状況なのでジェミニにはこちらに来ずに、適当な所に行って欲しいのだが、第三予選を終えると共に、俺の方へと真っ直ぐに向かってくる。
伝わらないと思うが、どうか他へ行って欲しい。
目を背けているので見えないが、祖母様の圧が増している気がする。
「あなたのおかげで、思っていたよりも点数が出せたわ」
「うん。それはなによりだよ」
ここで邪魔だから近寄らないで欲しいと言えれば良いのだが、それはあまりにも外聞が悪すぎる。
他人の目がある場所というのは、これだから困る。
とりあえず、喜んでくれたならなによりだ。
俺に構うってことは、そこまで貴族的な思想は持っていないだろうし、これから先の個人的な付き合いは問題ないだろう。
これから先であって、今は困るんだけどな。
「あなたってどこから来たの?」
「かなり田舎の方からだよ。学園には行く気は無いけど、折角だからって腕試しをね」
俺の番まで二人だけ猶予があるので、適当に相槌を打つ。
ジェミニは少し驚いた様な表情をするが、直ぐに真面目な顔に戻る。
平民でも副都の方は受け入れているが、こう言っておけばとりあえず通じるだろう。
向こうがどう思っているか知らないが、この事はキッパリと言っておいた方が後腐れが無い。
学園についての問題は解決する気だが、学園にだけは絶対に通わない鋼の意思を俺は持っている。
「ふ、ふーん。これだけやれてるなら学園にも入れると思うけど、どうして?」
「商人になるのが夢なんだよね。学園で縁を繋ぐのも良いかもしれないけど、それよりも旅をしたいんだ」
「それは勿体ないと思うわ。学園に行ってからでも遅くないんじゃない?」
ごもっともと言えばごもっともだが、学園が俺で得られるものは殆ど無いし、学園に行く位ならクラリアから色々と教えて貰った方が、間違いなく役に立つだろう。
ハイエルフの知識の方が、学園の教師よりも絶対に上だろうし。
縁を繋ぐ点だけならば確かに学園は良い所かもしれないが、それ以上に問題が山済積みだ。
今に俺ならば相手が王でも上手く相手を出来る自信があるが、誰かに取り入れば誰かが敵になるのが貴族だ。
流石に八方美人を維持したままの学園生活は俺も自信が無く、下手な事をして母上に迷惑を掛けるのは嫌だ。
勿論やってみなければ分からないが、前世で散々やらかした俺が上手く出来るなんて思えない。
「あまり人付き合いって上手くないんだよね。ほら、貴族の方々って、実力のある平民なんて見たくないって思うのが大半でしょ?」
「それは……そうかもだけど、それだけ出来るなら、やりようはいくらでもあるんじゃ……」
「副都の方に行くとかもあるけど、魔法を学ぶだけなら、ギルドに依頼するとかも出来るし、下手に貴族に関わると取り込まれる可能性もある。ただの可能性だけど、平和な世って波乱が欲しくなるものでもあるでしょ? ……っと、どうやら俺の番みたいだね。暇つぶしに付き合ってくれてありがとう」
上手く時間を計りながら話、何も言わせないようにして自分の番になったので、そそくさと離れる。
俺が取る点数は既に決めてあるので、後は壊す的を間違える様なミスをしなければ問題ない。
注目が集まるのを感じながら始まるのを待ち、始めの合図と共にこれまでと同じくウォーターボールを放ち、的を壊してく。
流石にただのウォーターボールでは壊すのが面倒な的もあるので、回転を加えておき、破壊力を高めておく。
的を壊すとは言うが、正確には破損さえさせれば的は自壊するようになっている。
よって、貫いたり、斬り裂いたりとかでも問題ない。
そんな訳で短杖を振りながら的を壊し続け、俺の番が終わる。
結果は……。
「そこまで! 六十八点」
よし、狙った通りの点数が出せた。これで首位になると困るが、予想通りなら向こうはもっといい点を出しているはずだ。
これで俺が一位ならば、思っていたよりもシトリスの妹は凡才だったって事だ。
個人的には凡才でいてくれた方が対処が楽で良いのだが…………しかし、妹についても少し考えておかなければならないな。
負けたことで俺個人を恨むならば、そこまで大事にならないと思うが、シトリスを手駒として囲っていると知られるとどうなるか分からない。
勇者が使い物にならないみたいだし、最悪は俺も手段を選べなくなる。
出来ればそれだけは避けたいので、なるようになる事を祈る。
さて、これで全ての予選が終わったわけだが、今回の順位の発表は少し待たなければならない。
大丈夫だとは思うが、早く発表をしてほしいものだ。
1
「……へぇ」
その女性が、魔法大会の会場に居たのは、一種の偶然だった。
その女性は過去に、そして今も尚語られる偉大な二つ名を持ち、表面上はとても清楚な人物である。
けれど、その目はある一人の少年を捉え、人の良い笑みを浮かべながら、決して逸らす事はない。
「あの、どうかさなれましか?」
女性の隣に居たお付きの人間は、少しだけ様子が変わった事に気付き、心配の声を掛ける。
現在この二人が居るのは会場の観客席であり、周りでは高得点を出した少年についての話題で持ちきりとなっている。
よって他の観客が女性と付き人に気付く事はない。
「いえ、将来有望な少年が居ると思いまして。素晴らしい事だと思いませんか?」
「……よい歳ですので、若い時の様に動かれるのはどうかと」
「まだまだ若いつもりですよ。見ての通りですから」
女性の見た目はとても若く、十代後半から二十代後半にしか見えない。
そんな女性を見て付き人は馬鹿を見るような視線を一瞬向けるが、何を言っても無駄なのは知っているので、女性と同じ様に少年に視線を向ける。
その少年は少し珍しい髪色をしているが、それ以外はなんもおかしくない様に見える。
使っていた杖も装飾らしい装飾も無く、着ている服や靴も普通の平民の物だ。
立ち振る舞いを見るに、体幹はしっかりとしていそうだが、それ位はまだ普通の範囲である。
女性が注目する理由が、付き人には分からなかった。
「普通に見えるでしょう?」
「……はい。ただの少年にしか見えませんね。なんでしたら、隣に居る少女の方が才覚があるように思えます」
「ふふ、そうね。そう見えるわよね」
女性は薄い笑みを浮かべるが、やはり付き人には良く分からない。
おそらく、この女性がどうして少年に興味を持ったのか理解できる者は、この会場にはいないだろう。
女性……いや、聖女には少し特殊な能力があり、他の人間とは違ったモノが見えていた。
だからこそ少年から目を離す事が出来ず、無意識に右腕を握り締める。
見えているモノが本物なのかは、確認しなければならない。
だから……。
「明日は本選でしたね?」
「はい。参加して欲しいと言われていますが、如何なさいますか?」
「参加するわ。その代わりですが、優勝者と内密に話す時間を作る様に話しをしておいて下さい」
少年が優勝するかどうかは、今では判断することは出来ない。
しかし、聖女の知る人物ならば、きっと優勝するだろうと睨んでいる。
なにせ、この大会には少年にとって因縁の相手に近しい存在が出ているのだから。
聖女の知る人物ならば、負けず嫌いであり、間違いなく優勝を目指す。
見る限り、昔のままではないのは確かだが、人間の本質とはそう簡単に変わるものではない。
「承知しました。この後ですが、生き残りの方から食事はどうかと連絡を頂いていますが、どうしますか?」
「用事があるからと断っておいて下さい。久々に会いたい気持ちもありますが、少し予定がありますので」
「承知しました」
表情を変えずに返事を返す聖女に、付き人は思っていた通りだと思い、一安心する。
実は誘われた段階でどうせ断るだろうと考えており、既に断っていた。
それなのに今聞いたのは、一種の信頼があるからこそだ。
「さて、今日は帰るとしましょう」
聖女は人ごみに紛れる様にして姿を消し、この場に聖女が居た事を知るのは、一緒に来た付き人だけだ。
この場へ来る際に、聖女は変装しており、それは少年ですら見抜けるものではなかった。
明日が楽しみだと人の良い笑みを浮かべ、聖女は神殿へと向かうのであった。




