第51話:まるで貴族みたいじゃないか
見ると決めたからにはずっと見ていたが、結局得られるものは何もなかった。
いっその事少しでも普通と違うものが見られれば良かったが、誰一人として普通の枠から出る様な魔法を使う者はいなかった。
数人程他種族が居たが、見た感じハーフがほとんどであり、エルフやドラゴノイド。翼人と言った魔法が得意な種族はいなかったので、固有魔法も見られなかった。
当たり前だが第二予選もこっちではトップで通過し、再び半分がいなくなる。
残ったのは大体十数人か。
何やら二位の少女がずっと俺の方を睨んで来るが、関わるだけ面倒なので、取り出した本に視線を落とす。
次の第三予選は第一予選の発展型であり、動く的を壊して、その時間を競うものとなる。
説明によると、出現する的は全部で三十個であり、強度や位置は完全なランダムだ。
強度と言っても、凄く脆いか、初級でそれなりに魔力を込めないと壊せない位らしく、俺からしたら誤差でしかない。
普通なら魔力を節約するために、的ごとに込める魔力を変える必要があるのだろうが…………まあ子供の大会に大人が出ている様なものなので、最初から一番上の強度に合わせても魔力には余裕がある。
「ねぇ」
本戦まで予定通り進めるだろうな…………なんて考えながら本を読んでいると、二位の少女が声を掛けてきた。
出来れば無視をしてしまいたいが、父上や祖父様の目があるので、あまり素行の悪い事は出来ない。
「なんでしょうか?」
「どうしてその歳であんなに魔法を使えるの? 杖だって短杖だし、普通じゃないわ。もしかして、不正とかしてない?」
見るからに機嫌が悪そうだが…………それはともかく、やはり貴族だな。
髪が綺麗なのもあるが、持っている長杖の宝石が、かなり上物だ。
祖母様の持っている杖よりは下だが、うちみたいな男爵家では手に入れることは出来ない。
間を取って、おそらく子爵家だろう。
「不正なんてしてないし、これまでしっかりと訓練をしてきた結果だよ。なんなら杖を見る?」
「……貸して」
少女に抜いた杖を渡す。
少女が使っていたのは第一予選では火属性。第二予選では土属性を使っていた。
三属性を使える可能性も捨てきれないが、三属性を使えるのは一気に少なくなるので、多分無いだろう。
しかし、不正ねぇ……。
剣の技術は前の経験が活きているが、魔法については今世で磨いたものであり、恩賜やチート的な物は一切ない。
つまり、多少の才能さえあればたどり着ける程度だ。
ステラも、このままいけば俺と同じ位にはなるだろうし、分野は違うが、シトリスもかなりのモノだ。
やる気の問題と言う気はないが、疑われる程凄い事をしたつもりはない。
幼い頃は知らないが、多分勇者や聖女は間違いなくやらかしていると思う。
「……本当に普通の杖ね」
「先に言っておくけど、薬や魔導書も持ってないし、手も見ての通り細工はしてないよ」
ちなみにだが魔法薬でのドーピングはしてもルール違反ではないが、その類を使うと魔法のコントロールが難しくなる。
ただ威力の高い魔法を放つだけならばともかく、移動する的に当てるなんてコントロールは子供には無理だろう。
後は副作用があるタイプかどうかにもよるが、こんな大会程度で身体を壊すような薬を使うのは馬鹿としか言えないだろう。
少女は嫌そうな顔をするものの、杖を折るなんて事はせず、素直に杖を返してくれた。
貴族の中には平民の物はゴミと一緒として扱う奴が居るので、ほんの少しだけ感心である。
まあこんな大衆の目がある場所で、尚且つ自分からこちら側の会場に来ている時点で、それなりに変わり者なのだろうけどな。
変わり者で思い出したが、そう言えばシトリスの年齢は十二歳であり、その双子も当たり前だが十二歳である。
四歳差の相手に勝たなければならないってのは、今更ながら気が重い。
一応騒がれる覚悟自体はしているが、四歳差で尚且つ勇者の娘なんてネームバリューを相手は持っている。
もしも先に剣術大会があり、父上が良い感じに負けてくれたならば、俺も無理せず優勝を狙う必要はそこまでない。
勿論祖母様の杖の件もあるが、ステラのお願いを叶える上で、この大会で優勝しておけば名を売っておく事が出来る。
ある意味悪名に近いものだが、知っているかいないかは大きい。
「……嘘臭いわね」
「そう睨まないでよ。俺はヴィンレットって言うんだけど、君は?」
「……ただのジェミニよ」
ただのって言っている時点で、ただのじゃないと思うんだが……まあ本選じゃなくて予選の間に貴族とは名乗れないか。
おかげで、俺も口調を気にしなくて良いのでありがたい。
ジェミニは明るい茶髪だが、ステラとは違ったキツイ目をしている。
悲しい事だが、俺よりも背が高い。
そろそろ俺は、父上と母上の実子なのか疑いたくなってきた。
まあ産まれた時の記憶があるので、実子なのは紛れもない事実なのだが。
「俺が言うのあれだけど、ジェミニの魔法もその歳にしては凄い方だと思うよ。第一予選も加減していたし、第二も本気だけど全力じゃなかったでしょ?」
「……良く分かったわね」
「その杖が杖だからね。上等な魔法使いは上等な杖を使うのが普通だし、他の子とは違って、まだ魔力に乱れが見られないからね」
魔力は使えば減るし、使った分体力も消費する。
なので、これまで真面目にやている奴等には疲れが見られる。
そんな中、ジェミニには疲れらしい疲れは見られず、俺から杖をひったくる時も力強かった。
ぶっちゃけ適当な事を言っているだけだが、的外れでもないだろう。
「腕が良いだけじゃないのね」
「魔法は頭を使ってこそだからね。たかが初級のウォーターボールでもやりようではご覧の通りさ」
ジェミニと話している間に第二予選も終わり、順位が張り出される。
当たり前だが、俺が一位でジェミニが二位となる。
これでまた半分となり、残るのは…………八人か。
この後の成績は貴族側との合計になるが、この流れだとジェミニの点数にちょいたし程度で抑えておけば、本戦は問題なく出られそうだな。
順番的にも俺の方が後になるし、次は点数の調整もやり易い。
「何かコツがあったりするの? あなたの魔法は群を抜いているわ」
コツと言われても、魔法は一に練習二に練習だ。
その前段階として知識が必要だが、とにかく身体に馴染ませるのが一番だ。
とは思うものの、やはりあのお手玉式訓練方はかなり有能だ。
これも折角の縁だし、恩を売る意味で教えるのもありだろう。
何かあれば祖父様の名前を出せばなんとかなるだろうし。
父上は自分の力だけで頑張ろうとしているが、俺は使えるものは使う感じだ。
虎の威を借りられるのならば、借りた方が生きやすいからな。
「ちょっとした練習方なら教えても良いよ。本当は水属性が良いんだけど、土属性でも効果があるからね」
「あるなら早く教えてよ」
「そう焦らないで。まるで貴族みたいじゃないか」
あっ、焦ってる焦ってる。
理由は知らないが、貴族がこっちの会場にいるのは外聞が悪い。
どうせ本戦でバレるが、本戦まで出られるのならばそれなりに名前も売れるし、結果さえ出せば周りも何も言えなくなる。
だが、本当にこっちに居る意味が分からない。
間違いなく男爵家より上だろうし、どう足掻いても本戦では他の貴族から白い目で見られることになる。
本名を出さなかったとしても、学園に行くならどうせバレるしな。
これで実力がないのならば分かるが…………まあ気にしなくてもいいか。
触らぬ神になんちゃらってやつだ。
「わ、私は平民よ」
「まあこっちに居るならそうなんだろうね。練習方はこれだよ」
ウォーターボールを三つ作り、いつものようにお手玉をする。
周りの目があるので直ぐに止めるが、ジェミニの目は真剣そのものであり、俺が言いたい事に気付いてくれていそうだ。
「……凄いわね。これなら確かに練習法としては最適そうだわ」
「分かって貰えたようで何よりだよ」
「ただ、土属性でも同じような効率になるの?」
「しっかりとイメージしてやれば、多少効率は落ちるだろうけど、効果自体は有ると思うよ」
魔法の効率的に言えば土属性でやる場合落ちるだろうが、腕を鍛えるならば水属性よりも良いだろう。
少女が腕を鍛える必要があるかどうかは別としてだが。
「なるほどね。あなたはどんなイメージをしているの?」
「水の揺らぎを無くし、常に丸を保つようにしているね。これが中々頭を使うんだ」
頭の容量は使わなければ増える事はなく、使わないと衰えていく。
一言で言えば、時間は有限って事だ。




