第50話:子供の平均
会場の端の方で座り、精霊魔法の教科書の一部を転写した奴を読んでいると、第一予選が終わった。
これで選手の居る会場は一気に空いて、次の競技が始まるまで休憩となる。
因みに第一予選突破者の番号と点数が張り出されたのだが、ぶっちぎりで俺が一位である。
因みに二位は七十二点だ。
おそらく、二位の奴はもっと上の点数を狙えただろうが、魔力を節約するために、点数を低くしたのだろう。
合計三つの予選があるが、これらは一日で行われるため、魔力の調整をしなければ、途中で枯渇してしまうなんて事も起こり得る。
ポーションで回復も出来るだろうが、間違いなく高騰しているだろうし、ポーションを使ってまで勝ちを狙うのは貴族位だろう。
よって点数を狙うよりも、堅実な点数で魔力を節約するのは理に適っている。
適っているが、俺の場合あの程度のウォーターボールは、少し休めば回復する程度の魔力しか使っていない。
これも無駄に鍛えられたコントロール力のおかげだろう。
次は魔法の威力を見るための測定だが、これにはちょっとした裏技がある事を祖母様に教えて貰っている。
基本的には障害物を壊せるかを見るのが主流だったらしいが、魔法の発展により、魔法に込められた魔力を計る機器が作られ、一々障害物を魔法で作らなくなったらしい。
まあ、この方法で不正をやりたい放題なので、変わったのはある意味時代の流れであり、当たり前だったのだろう。
そんな測定だが、ざっくり言えば階級の高い魔法を使った方が、高得点が出やすい。
魔法を発動する際に、魔法ごとの許容量はざっくりだが存在しており、実際の威力と含まれる魔力量に差があるなんて事もある。
何が言いたいかだが、同じ魔法でも使い方次第では大きく威力が変わるが、魔法ごとの限界というのは存在しているのだ。
それを越えれば階級が上がり、魔法名も変わる。
ちょっとした裏技を使えば、初級魔法で上級魔法に打ち勝つことも出来るが、態々そんなことをするのはマゾ位だろう。
「流石私の孫ね。けど、どうして満点を取らなかったのかしら?」
次の競技までの休憩時間で、変装をした祖母様がやって来た。
聞かれるとは思っていたので、答えは決まっている。
「どうせ向こう側に満点が居るでしょ? 二番ならばそんなに目立たないし、多少は手を抜いておかないとね」
「そんなことを気にしなくても良いと思うけど、次はどうするのかしら?」
「祖母様に教えてもらった方法で、程々の点数に抑える予定だよ。次は少し後ろの番号になるから、調整も楽だしね」
「あまり遊び過ぎるのはよくないわよ」
よくないと言われても、仮に本気を出した場合、一位になるのは確定だ。
聞いたところ、例の勇者の娘は合成魔法を使えず、上級も完璧には使えないらしい。
それが嘘の可能性もあるが、仮に使えたとしても、俺は勝てる自信がある。
それだけ祖母様のスパルタが酷かったって話だが、これでもただ威力を出すだけの魔法は得意なのだ。
無論実戦では使えない。つまり使用には時間が掛かるが、上級魔法も使う事が出来る。
これもアホみたいに賢者に魔法を使われた結果見て覚え、今世で試した結果だが、実戦で使えない技術は使えないのと一緒だと俺は考えている。
なので勝つだけなら簡単だが、俺はウォーターボールだけで乗り切る気でいる。
「あれだけのスパルタをした祖母様がそれを言います?」
「それだけあなたが凄い才能を持っているって事よ」
それだけじゃないと思うんだけどなー。
ただ楽しんじゃっただけだと思うなー。
なんかすんごい笑顔だったし。
「それでは時間なので、そろそろ戻ります」
軽くお辞儀をしてから、会場に戻る。
次は四つから二つに会場が減り、俺は二つ目の会場で七番目となる。
数値で可視化されているが、この技術を作った奴は天才だと俺は思う。
数字で何かを表す場合、必ず基準というモノが必要になってくる。
分かりやすく言えば、ニュートラルな数字。つまりゼロだ。
ゼロがなければそこから先は無く、数値で表すことは出来ない。
この発明は間違いなくエルフかハイエルフが関わっていると思うが、ほんの十年で時代は進むものだな……。
出来れば自分で一度試し、感覚を掴みたいが一発勝負のため、それは出来ない。
だが、しっかりと他の奴等の魔法を観察したので、大体の数値と魔法の関係は掴めた。
点数は大体二十から四十の間。使われるのはほとんど初級であり、中級を使ったのは二位だった奴だけだ。
多分だが、二位のやつも貴族だろう。
何を狙ってこっちに来ているか知らないが、本選まで出る気でいるのは確かだろう。
そんな二位の奴だが、出した点数は六十八点。使った魔法は土属性の中級である、ロックブラスト。
しっかりと詠唱し、無理しない程度の全力で放たれていた。
これまでの平均より二十点ちょい上だが、あれを目安にするのが丁度良さそうだ。
ただ、終わった後にドヤ顔で俺の方を見て来たのが少し気になるが、若さゆえの負けん気って奴だろう。
ステラを思い出すような少女だが、妹とは違い、ワザと負ける気はない。
いや、相手が妹でも基本的に負ける気はないが、流石に泣かれそうになれば手加減をする程度の有情は持っている。
「次、四十二番」
「はい」
呼ばれたので、再び地面に描かれた円の中に入る。
魔法とは当たり前だが、理論とイメージの両方が必要になってくる。
そして詠唱とはイメージを明確にするのに重要なファクターであり、やっておいて損はない。
詠唱破棄するにはこのイメージをどれだけ明確にするのかも大事だが、どうやって魔法が発動し、どの様な効果を及ぼすかを理論的に覚えておかないと威力が大きく下がってしまう。
つまり、詠唱しなからそこら辺をしっかりと考えれば、魔法の限界を引き出す事が出来る。
ついでに詠唱の改竄をすれば、威力は更に引き上げられ、ウォーターボールという名のアクアレイザーになるが、見た目的にはバレないだろう。
「水面を静める水の精よ。我が声に応え、荒れ狂う怒りを示せ――ウォーターボール」
杖を構え、ギリギリまで声量を抑えて詠唱をし、ウォーターボールを放つ。
実際に使われるウォーターボールの詠唱は水よ、吹き飛ばせが主流だが、これをアレンジした。
精と文字を入れているが、これは精霊にちょっとした助力をお願いするものであり、精霊魔法とは違うものとなる。
ただ、入れたからと言って絶対に強くなるわけではなく、俺が水の精霊魔法を使えるから強くなるらしく、火属性ではあまり意味が無かった。
「――七十九点です」
ウォーターボールが当たり、点数が表示される。
大体狙っていた通りの点数だが、ウォーターボールで出せるほぼ限界の点数だろう。
威力で言えば、中級上位位ある。あるが、こんな回りくどい事をするなら、詠唱破棄した中級魔法を使った方が楽に火力を出せる。
もしくは、あくまでも点の攻撃になってしまうので、魔銃を使った方が効率が良い。
「……や、やべぇ奴がいる」
「今年は運が無かったな……」
「まだ、まだ貴族の連中が低い点数を出していれば……」
会場の端に向かう途中、色々と声が聞こえてきたが、ほとんどが諦めの声だ。
この中で何人が来年出られるか知らないが、どうか来年頑張って欲しい。
しかし、詠唱を変えて魔法を変える技法だが、あまり使い道は無いな。
エルフの様に時間に余裕があるならばともかく、人間の俺では研究をする時間はあまりないので、どうしても無駄が多くなってします。
ついでにそんな研究に時間を割くなら、市場で売れそうな物を探していた方が有意義だ。
このまま本を読みながら時間を潰しても良いが、折角だし他の連中がどんな魔法を使うか見学するとしよう。
…………なんて思って眺めるものの、使われるのはなんの捻りもない初級魔法ばかりだ。
これがこの位の年齢の平均なのだろうと一応覚えたが、まあこれが普通か。
ボール系やバレット系。よくてもランス系の魔法。
回転を加えるとか、温度を上げるとか少し位捻っても良いと思うのだが、やはり教師がいないと難しいのか?
俺もこの一週間で祖母様から、実技を色々と見させてもらったおかげで視野が広まったので、やはり先達とは重要なのだろう。
だからってあのスパルタを許す気は無いけどな!




