第47話:決戦の跡地
寂しくなったお財布を憂いながら店を出たが、これで今日の予定は終わりと言えば終わりとなる。
王都でやりたいこと自体はまだあるが、夕食までには帰らないといけないので、時間制限があるのだ。
次はどこへ行こうかと考えていると、俺の後を追って来ていた兵士を視界に捉えた。
出会わなければそれで良かったが、布石が役に立ちそうだな。
どうやら兵士は俺達に気付いたらしく、少しずつ距離を詰めてくる。
「ちょいとフードを脱いでもらって良い? ついでに、軽く髪を整えて」
「えっ、うん」
俺の指示通りにシトリスはフードを脱ぎ、髪をかき上げる。
それを見た兵士は一度足を止めてから、どこかへと消えていった。
これで当分の間、兵士に見つかる事はないだろう。
兵士の役目が俺の護衛ではなく、俺を連れ戻すとか、お供だったりすればシトリスが声を掛けられる可能性があった。
しかし、いざという時の護衛として付いて来ているだけなので、あまり表立った行動をすることは出来ない。
遠目からとはいえ、俺では無いと気付けば、消えると読んでいた。
見つからなければそれで良かったのだが、シトリスの悪運ならば見つかると思っていた。
「もう戻して良いよ」
「うん……いったいなんだったの?」
「お邪魔虫を追い払っただけさ。そう言えば、王国のダンジョンには行った?」
「一度だけ行ったけど、少し大変だったわ……」
低ランクで行けるダンジョンの中で、大変って感想が出るなら、あそこだろうな。
名前はスカイフォール。フィールドのダンジョンであり、とにかく広いらしい。
魔物の量は少なく、視界が開けているため不意打ちをされる事はないが、とにかく広く、あまり魔物を倒す事が出来ない。
ダンジョン難易度としてはFからCと幅広く、大衆向けではあるが、稼ぐには向いていない。
一応フィールドボスとして君臨している魔物を倒せば、それなりの稼ぎになるだろうが、倒せば間違いなく目立つため、シトリスは倒す事が出来ない。
そしてシトリスが大変って言った意味だが、スカイフォールは広くて魔物が少ない。
つまり、稼ぐには走り回らなければならないのだ。
どれだけ冒険者が居たかは知らないが、沢山走ったのだろう。
「ダンジョンってスカイフォールで合ってる?」
「うん」
「それは選んだダンジョンが悪かったね。噂でしか知らないけど、かなり広いんでしょ?」
「広いのもそうなんだけど、冒険者同士で縄張りを作っていて、ただ倒せば良いって訳でもなかったんだ」
ああ、そんなのもあるのか。
効率的に狩りをするならば、魔物がポップする場所を先んじて占拠しておくのが一番良い。
一応問題行動ではあるが、殺人と窃盗以外でギルドがダンジョン内の冒険者に介入する事はほとんど無い。
ギルドとしてはダンジョンから魔石さえ取れれば良く、ついでに魔物をしっかりと間引きさえしてもらえれば問題ない。
間違いなく冒険者から苦情はあるだろが、スカイフォールは人気のダンジョンではなく、代わりはいくらでもある。
なんなら、そうやって管理してもらっていた方が、ギルドからしたらありがたい位だろう。
「まあ選んだ場所が悪かったね。どうせ珍しいダンジョンだからって選んだんでしょ?」
「い、一番近かったからだけだよ」
「すぐ分かる嘘は別にいいから」
流石にダンジョンの位置までは知らないが、このどもりっぷりは嘘だと直ぐに分かる。
一応年上だが、これを年上と思うのはやはり無理そうだ。
さて、どこへ行ったものか…………折角だし、あそこに行ってみるか。
「……ところでどこに向かっているの?」
「分かりやすく話を変えたね。別に良いけど、向かっているのは教会だよ。信仰は無いけど、少し気になる事があってね」
「もしかして聖女?」
「その通りだよ」
今どこに居るか知らないが、勇者が様変わりしているみたいなので、出来れば他の三人の事も知ってみたいと思ったのだ。
勇者とは違い、他の三人は我が強いので信用しているが、あれからどうなったのか見てみたい。
賢者は見た目の変化はないだろうが、聖女と剣聖は相応に歳を取る人間だ。
いや、確か聖女はなんかとのハーフと言っていた気がするが、年齢を考えれば中年になるので、小じわが目立ってきているはずだ。
笑えば腹パンをされるが、遠目から嘲笑う位は許されるだろう。
「ヴィンが戦った人の中で、知り合いってどれくらい居たの?」
「多少付き合いがあるのはあの四人を含めて十人かな。依頼での付き合いがあるのはそれに追加で五人だね」
「辛くなかったの?」
辛くは無かったが、開幕魔法使い達の波状攻撃から始まり、逃げられないように結界まで張られた光景は、たまに夢に見る位のトラウマとなっている。
小さい頃は今度あんな目に遭ったら、無傷で潜り抜けてやろうと考えていたものだが、あんなクソゲーは二度とごめんだ。
まああの時代の主だった実力者は殺した訳だし、次世代については国家間に広まるほど大成しているんは聞いていない。
一応うちの両親や祖母様みたいなのも居るが、本気の勇者や賢者に比べれば見劣りする。
祖母様が対軍とするならば、勇者や賢者は対国位の差がある。
この壁を越えるのはかなり難しいだろう。
なので、あれだけの人数を集めるのは当分無理であり、俺も暴れる気はないので、あんな惨事が起こる事はもうないだろう。
「辛くはなかったね。下手な事を考える暇はなかったし、どちらかと言えば心が躍っていたよ。まあ、二度目は御免だけど」
「それは……あの痕跡を残す位だもんね」
「あれ? もしかして見に行った事があるの?」
「うん」
魔王が討伐された地は観光名所となっている訳だが、まさか行った事があったとはな……。
俺も後で訪れようとは思っているが……。
「戦っている時気にしていなかったけど、どんな感じになっているの?」
「結構整備されているみたいだけど、いくつもクレーターが出来ていたわ。それと、近くの山の天辺が抉れていたり、新しく湖が出来たりとかしているみたい」
「中々の荒れっぷりだね。まあ、一人一人が国を落とせるクラスだし、その位は当然か」
破壊があれば創造がある。
戦いが終わって直ぐは酷かったのだろうが、今は観光名所だ。
人とは逞しいものだな。
あの戦いについて、他人に聞かれても大丈夫な程度の内容を話しながら歩き、三十分程で教会に着いた。
王都にある教会は……まあ宗教自体が幾つかあるが、聖女が加入している宗教の教会は、王都にある教会で一番大きい。
聖女のネームバリューによって広まったのもあるが…………まあそんな事はおいといて、見つけるのは簡単だった。
「近くまで来ると、結構大きいね。あれが聖女の像か……」
教会の入り口には聖女の石像が建っており、人々が拝んでいる。
あんな奴を拝んでもあまり意味は無いと思うが、客寄せパンダとして丁度良いのだろう。
「ヴィンはアシエテンタ教に入っているの?」
「入っていると思う?」
「……ないと思う」
その通りだ。
諸事情で聖女からアシエテンタ教の聖典を貰い、暇つぶしに読んだりはしたが、教義が教義なため、俺が入教する事は無かった。
そもそもスラム暮らしのスラム生まれであり、神様なんてクソ喰らえなので、俺に宗教は向いていない。
まあそんな性格なのもあり、よく腹パンされていたのだが。
しかし、立派な石像だな……。
「その通りだよ。まあ、聖典についてはほとんど覚えているけどね」
「何かあったの?」
「ある時期に、あまりにも暇だったから、全部読んだんだよ」
石像を見るのを止め、教会へ足を進める。
聖女が入信しているアシエテンタ教は、融和と守護を教義としており、分かりやすく言えばみんな仲良くしましょうって事だ。
異種族を排したり、一部の種族を贔屓する宗教が多い中ではとても珍しい宗教だ。
その癖俺を殺しに来たわけだが、相容れない以上は殺してでもって事だろう。
若しくは教会が脅されたのか、味方にならない以上は敵と見なすとか言われた可能性もある。
戦いの時は結構ノリノリで殴り掛かってきたが、詳細はもう闇の中だろう。
「えっ、あれを?」
「そう、あれをだよ。検定とかあれば、多分一級とか取れるんじゃない?」
「検定?」
おっと、つい異世界の言葉が出てしまったな。
たしか検定とかは無かったが、どれだけの覚えたかのテストはあるとか聞いた事があるな。
位を上げる時に実技と座学のテストがあり、一部の例外を除き必ず受ける必要があるらしい。
なる気はないが、俺ならば枢機卿までならなれるだろう。
だって今も九割は覚えているし。
「気にしないで。それより、折角だし中に入ろうか」
「うん」




