第46話:新しい杖
宣言通りシトリスに奢らせて、フードを被らせてから店を出る。
そして近くの店で、安いフード付きのローブを買って着る。
これで種蒔きは終わりであり、後は芽が出ないことを祈るだけだ。
さて、購入予定の杖だが、今回買うのは長杖ではなく、短杖である。
魔法用の補助具は結構種類があるが、その中で杖は大まかに三種類ある。
種類と言っても単純に長さで呼び方を変えているだけなのだが、一応用途が異なるのだ。
俺が母上から練習用に貰った奴や、祖母様から借りたあの長杖は武器としての側面もあり、魔法の威力を上げるというよりは、魔法のコントロールを主軸にしている。
ついでに頑丈な素材を使い、護身用の武器としても使う事が出来るので、冒険者の魔法使いは長杖を使う者が多い。
続いて中杖と呼ばれる杖は、魔法の威力を上げる用途が強い。
杖全体に魔法の威力上げるための回路や宝石を埋め込んだりし、戦争では後衛が使っている事が多い。
長杖で同じことを擦ればと思うかもしれないが、長杖では重くなりすぎてしまい、ついでにちょっとした破損が回路を傷つけて使用不能になる可能性もあり、ありたいで言えばメリットが無いのだ。
祖母様の杖も核となる先端の宝石は無傷だが、杖全体には細かい傷が多かったり、こればかりは仕方ないのだ。
因みに少ないが、冒険者の中でも中杖を使う者は居る。
純後衛であり、ランクの高いパーティーとかだと、純粋に魔法の威力を上げるためとかでだ。
しっかりとタンクやアタッカーが居れば、後衛まで敵が来ることも無いので、純粋に威力だけを求められるのだ。
因みに聖女は中杖を使う事がたまにあった。
回復魔法を使うならば、コントロールに優れた長杖の方が良い場合もあるが、範囲回復魔法を使う場合は威力重視の方が良いらしい。
ついでに燃費的な面でも優れているらしく、長杖ではなく中杖を使っているらしい。
異世界の知識的には聖女と言えば馬鹿でかい杖らしいが、神官の中にはそう言ったでかい杖を持っている奴は確かにいる。
しかし聖女は…………うん。あいつの武器は魔法ではなく拳だ。
そんな長い杖なんて持っていても邪魔であり、杖は戦闘ではほとんど使わない。
自分に使う魔法なら、杖を使うまでもないとの事だ。
聖女と書いて拳と読む。そんな感じだ。
そんな肉弾戦を好む癖に、見た目は割りと華奢だったりする。
あれからどう変わったか分からないが、どうか丸くなっていて欲しい。
出会い頭に腹パンとか嫌だらな。
巷では清楚で清純で可憐とか言われているみたいだが…………いや、下手に考えるとバッタリ会ったりする可能性もあるし、あいつの事は忘れよう。
最後の短杖だが、これは若者が使う事が多い。
用途としては魔法をスムーズに発動させるための物だが、剣と杖の両手持ちなんて芸当が出来る。
長さで言えば前腕程度であり、芯材に魔法関係の諸々を刻み込み、木で補強したものが多い。
安いものは安いが、高いものは高いのが短杖の特徴と言える。
また、短く細いこともあり携帯性に優れ、いざという時に直ぐに構える事も出来る。
ついでに、学園では短杖の使用が推奨されている。
別に他でも良いのだが、護身用の武器を持つ事を考えると、短杖が一番だ。
護身なら長杖でも良いと思うかもしれないが、魔法とは結局魔力が無ければ発動させる事が出来ず、魔力も少ない学生なら魔力が無くても使える普通の武器を持っておいた方が良い。
長杖での戦いはどちらかと言えば玄人向けであり、素人には向かないからな。
特に魔物を相手にするならば、思いっきり振れば魔物を倒せる可能性のある剣の方が良い。
そんな訳で、周りからあまり不自然に見られる事が無く、程々の性能ならば一番安い短杖を買うと決めていたのだ。
祖母様に虐められない限り、ギリギリまで頭を酷使するなんて状況になる事はない。
「いらっしゃい」
杖の店なんて一つも知らないので、適当に目に付いた短杖の店へシトリスと一緒に入る。
小綺麗な店ではなく、少々年季を感じさせる古ぼけた店だが、こういった所の方が購入元を辿り難いので、身バレの心配が少ない。
軽く店内を見回しながら精霊眼を発動する。
杖としての良し悪しはこれではそこまで分からないが、同じ性能の武器だとしても、精霊との相性が良い方が俺にとっては得となる。
「こんあ時期に来るって事は、大会で使うのを探しているのかい?」
店員のお爺さんが話しかけてきたので、精霊眼を止めてお爺さんの方を見る。
人の良さそうな顔をしているが、目は中々鋭い物を持っている。
恐らく店員ではなく、職人兼店長と言ったところだろうか?
「出たくはないんだけど、事情でどうしても出ないといけなくなってね。水属性を使うんだけど、安くておススメはある」
「オススメねぇ。あんたらは貴族かい?」
「こんなローブを着ている子共が貴族に見える? あっ、隣のこれは気にしないでね」
シトリスが頬を膨らませるが、俺も店長も無視である。
いや、店長は優しい笑みを浮かべてはいた。
因みに回りくどい言い方をしているが、世間では明言を避ける事が重要である。
あくまでも見た目の事を聞いただけであり、自身の事は何も言わず、相手に納得させる。
貴族の世界ではよくある手法だ。
「水属性か…………容量はどれ位かい?」
「黄色って言えば分かる?」
「それが本当なら将来有望だけどねぇ…………さて」
店長は店内にある杖の一つを手に取り、俺に渡してきた。
「軽く魔力を流してみなさい」
「了解」
言われた通りに魔力を流すと、本に書いてあった通り魔力がスッと浸透する。
だが、少し前に上質な長杖を使ってしまっているせいか、物足りない感じがしてしまう。
「ふむ、物足りないといった感じかな?」
「いや、いつも使っている杖よりはかなり上等だよ。値段は?」
練習用の杖に比べれば用途が違うとはいえ数十倍は使いやすそうな感じがする。
「銀貨四十枚だよ」
…………まあその位はするか。
金貨を求められないだけマシだが…………性能を考えれば安いくらいか。
俺の手持ちでも払える位だが、だからと素直に払うのはモノを知らない貴族位だ。
「三十枚じゃダメ? これってオーダーメイドの失敗品でしょ?」
「ほぉ、どうしてそう思ったんだね?」
「長さが少し歪なのと、完全に水属性専用みたいだからかな」
「複数属性持ちでしたか。よく気づいたね」
この杖だが、水属性はよく馴染むが、火属性は全く馴染まない。
普通の杖ってのは属性に特化させる事はなく、無色の魔力を通りやすくするのが普通だ。
祖母様の杖は少し特殊で、二種類の属性を使う事前提で作られていた感じであった。
俺の場合は水と火を使う訳だが、祖母様の杖は天然物のため、水属性と精霊魔法の水属性なんて使い方も出来る。
だからこそ欲しいのであり、安くても使い勝手の良い杖が欲しいのだ。
少し怖いが、あの杖はとても良い杖だ。
「属性特化って今時あまり売られていないからね。確かにメリットもあるけど、デメリットもあり、ついでに売る際に安くなってしまう」
「そこまで分かっていますか。でしたら、銀貨三十五枚で如何ですかな? 私としても、材料費位は稼いでおきたくてね」
「じゃあそれで。その代わり、俺達が店に来たことはなるべく黙っておいてね」
「その程度でしたら問題なく」
交渉成立という事で、銀貨三十五枚を渡す。
大丈夫だとは思うが、俺とシトリスの情報はなるべく伏せておいた方が良い。
大会で俺とシトリスはほぼ間違いなく目立つことになるだろうからな。
俺はともかく、シトリスの立場はかなりややこしい。
そのついでに一緒に居る俺の事を暴かれてしまったら、たまったものではない。
「折角だから、これはサービスだよ」
店長は杖と一緒に、杖のホルダーをオマケしてくれた。
アンティーク調のホルダーだが、個人的には好きな柄だ。
わりと嬉しい。
「ありがとうね。それじゃあまた何かあったら寄らせてもらうよ」
「気にしないで大丈夫だよ。最後に、大会に出場する際の名前を教えてもらえるかい?」
名前か……まあ別に大丈夫だろう。
「ヴィンレット。水属性で今年優勝する魔法使いさ」
「ヴィンレット君だね。今年は勇者の娘さんが参加するようだけど、中々自信があるようだ」
店長は大らかに笑い、シトリスが少しだけ反応をするが、気付かれてはいなさそうだ。
俺に言われるのとは違い、他人の言葉を完全に無視するのは無理のようだな。
「これでも天才だからね。良かったら見に来てよ。きっと良いものが見られるからさ」
「なら期待しておくよ。ヴィンレット君」
ホルダーを装備し、杖を差してから店を出る。
中々良い買い物が出来たな。




