第43話:スパルタ訓練
祖母様との訓練。
最初に行ったのは、的当てだった。
大会を見越しての事なのだろうが、少々難易度がおかしい。
祖母様が打ち出したウォーターボールにウォーターボールを当てるのだが、速い多い小さいの三拍子である。
聞いた限り大会の的は固定なので、こんな理不尽な目には遭わないだろうか、流石に本気に近いものを出さなければいけなくなった。
祖母様も出来て当たり前みたいに微笑んでいたので、俺もムキになってしまったが、魔法に関しては俺の方が下だとハッキリと理解する事になった。
俺が杖の手助けを借り、唸りながらウォーターボールを放つのに対し、祖母様は鼻歌交じりに魔法を使っていた。
それなのに精度は俺以上であり、余力があるのは丸分かりだ。
精霊魔法を併用すれば、俺ももっと楽になるが、それは甘えであり負けを認めるのと同意義だ。
よって頑張って耐え抜く以外の選択肢はない。
初級なので魔力的な余裕はあるのだが、なにを如何すればこれだけの量を扱えるのだろうか?
根本的に魔法の使い方が違う様な気もする。
後で異世界の知識を漁ってみるか……なんて考えている内に最初の訓練は合格を貰った。
次の訓練はこれまた難しい物であり、祖母様が出した魔法の魔力を感じ取り、同じ魔力量で壊すというものだった。
大会の事を考えれば、分からなくもないが、同じ魔力量ってのが中々ネックだ。
魔法や魔力を見るのは慣れているが、それは相手の魔力量を上回った攻撃をする為だ。
相手よりも魔力量を上回り、更に魔法の核を上手く破壊できれば、自分の魔力をほとんど失わずに済む。
魔法を飛ばすのではなく、剣に魔力を流し込む関係で燃費が良かった。
つまり、見て雑に魔力を込めてブッパするだけで済んでいたのだ。
だがこの訓練は、正確に見るのは勿論の事、見たままの物を出力しなければならない。
異世界の言葉で言えば、インプットとアウトプットってやつだ。
これがただのコピーをするだけならば良かったのだが、同じ魔法をぶつけた場合、負けるのは俺である。
最初の訓練では当てる事が目的だったため、威力なんて気にしていなかったが、今回は同じ魔力量の魔法を圧縮する必要があった。
祖母様は同じ魔力量でパーを出すので、俺は同じ魔力量でチョキを出すようなものであり、これが物凄く辛い。
パーだと思ったらチョキだったりするし、なんだったら両方出してきたりとやりたい放題だ。
しかも少しでもミスをすると「あらあらー」なんて煽ってくる。
このレベルだと、マジで杖なしではやってられない。
それにしても、母上の母上なだけあり、良い性格をしている。
これならばその内、見てから迎撃余裕でしたが出来るようになるかもしれない。
今でも回避なら余裕だが、迎撃の場合は難易度が上がる。
まあ剣があればどっちも余裕なのだが、魔法は本当に疲れる……。
「お疲れ様。あの子の言う通り、本当に凄いわね。杖の使い心地はどうだった?」
「初めてとは思えない程良かったけど、ちょっと酷すぎません?」
「あら、でもちゃんとこなせたでしょ?」
なにが「こなせたでしょ?」だ。
こっちは二日酔いの時くらい頭が痛いというのに、のほほんと笑いやがって……これが歳の差か……。
いや、単純な足し算の歳ならばほんの…………そっちでも結構歳の差があるな。
多分祖母様は六十から七十の間くらいだろうし。
「おかげさまでヘロヘロですけどね。魔物と戦うよりも疲れましたよ」
「実戦より厳しくした方が、訓練は身に付くものよ。それに、何か気付いたことがあるんじゃないかしら?」
あー、そっちから聞いてくるのか。
自分で考えようと思っていたが、教えてくれるなら教えてもらおう。
「祖母様の魔法の発動と、俺の魔法の発動に違いがある気がするんだけど、どうしてですか?」
「ヴィンレットは魔法を使う時、一足す一で二の答えを出しているでしょ?」
「大体そんな感じですね」
魔法はイメージだと教わったし、魔力を練って必要な分を取り出して答えを出す。
そんな感じだ。
魔力を一。イメージが一。そして二の魔法と言えば良いのだろうか?
「それだとどうしても二つの工程を挟まないといけないでしょ?」
「そうですが、それが普通なのではないですか?」
…………あっ、そうか。祖母様の魔法の発動が速い理由が少しわかったぞ。
精霊魔法と通常の魔法を完全に別で考えていたが、精霊魔法の場合は、魔力を込めるだけで発動する。
正確には声に魔力を乗せている訳だが、一工程で済むのだ。
精霊を俺自身だと仮定し、杖の補助を借りれば、ほぼ念じるだけで魔法を発動させることが出来るが…………その場合は今みたいに精密なコントロールが出来ない。
祖母様の魔法は確かに早いが、コントロールもしっかりとしていた。
ふーむ……。
「そうね。それが普通よ。魔法は計算式によってでた答えであり、答えを出す事により発動するもの」
「それで、祖母様はどうやって魔法を?」
「私は式を使わないで、そのまま答えを出しているのよ。けれど、それだと繊細なコントロールは難しいと思うでしょ?」
「はい。どうやってあれだけ精密に?」
「経験と感覚よ。人が息を吸って吐く時に、一々空気の量なんて考えないでしょう? 杖を持つ時だって、筋肉をどれ位動かして、骨をどれ位曲げるかなんて考えないわ」
………………言っている事は理解できるが、どうやら祖母様は賢者や聖女と同じ側の人間らしい。
戦場で出くわす事はなかったが、この訓練の感じだと後方の指揮をとっていたのだろうな。
もしくは普通に領地経営を頑張っていたなんて可能性もある。
それはそれとして、考え方があまりにも脳筋過ぎないだろうか?
やっている事は確かに理論の極致だが…………まあ…………うん。
それが出来れば苦労しないんですよ……。
「それが出来る人ってどれ位居ます?」
「私が知る限りだと、五人位かしらねぇ? 何人かにも訓練を着けたりしたんだけど、みんな諦めちゃって」
不思議そうにする祖母様だが、そりゃそうだろうとしか言えない。
剣なら何度も死に掛ければ案外どうにかなったが、魔法で似たような事をやれと言われても、今は無理だ。
なんなら死に掛けるような戦いなんてまっぴらごめんだし、流石にその領域魔法を鍛える意味はあるのだろうか?
「俺も流石にそこまで鍛えるのは……」
「まあまあ。ヴィンレットなら絶対に出来るようになるわ。それに、これが出来るようになれば、不意打ちなんかも怖くなくなるわ」
周辺を探る技能は既に持っているので、グイグイと圧を掛けられても困る。
どうやら祖母様は俺が訓練についてこられた事で、相当気分が良いらしく、軽く踊っている。
割りと似合っているが、良い歳した大人が何をやっているのやら……。
「あー、俺は程々で本当に大丈夫ですので。最低限自衛出来れば、後は人を雇いますし」
「その発想は素晴らしいけど、貴族たるもの、常に最強を目指さなくては駄目よ」
「それはジオに任せていますので、そちらにお願いします」
休みながら話していたおかげで、やっと頭痛が治ってきたな。
身体の酷使も辛いが、頭の酷使も大変だ。
「そこまで言うなら仕方ないわね。でももっと上を目指したくなったら、いつでも来ていいからね」
「覚えておきます」
覚えておくだけであり、また訓練を受ける気は微塵もない。
確かに今回は祖母様を満足させられたし、次はもっと上手く出来るだろう。
けれど、出来るとやれるとやるは全て別なのだ。
もしも感覚レベルで魔法を使えるようになれば、賢者みたいに大量の魔法を複数使える様になるかもしれないが…………仮に覚えるにしてももっとゆっくりで良い。
「あっ、そうだわ。もしも魔法大会で優勝出来たら、その杖をあげるわ。それなら構わないでしょう?」
「…………」
ただで貰うのは問題だが、成果の報酬として貰う分には問題ない。
この杖だが、最低でも金貨千枚程度の値打ちがある。
それでも貰った場合のデメリットが多いが…………性能は勿論のこと、いざという時の金の代わりとして正直欲しい。
自分で作るのもありかもしれないが、これだけのものとなるとな……。
「因みにですけど、俺が優勝できる確率ってどれくらいですか?」
「それを言ったらつまらないけど…………ほぼ確実だと思うわ。観客も居るから完全に実力勝負になるだろうし、今年の優勝候補の子は知っているけど、正直ヴィンレットよりも劣ってるわね」
まあ自分でやっておいてなんだけど、今の訓練を普通の子供がクリアできるとは思わない。
サンプルがいなくても、これだけは確かだと言える。
「それなら頑張って優勝を目指してみます」
「頑張ってね。優勝候補の子は公爵家の子だけど、ヴィンレットなら大丈夫よ」
――それを最初に言ってくれませんかね?




