第40話:夕飯の時間は和気藹々と
夕飯の時間まで部屋から出ず、シャワーを浴びてからは、呼ばれるまでジオと軽く雑談を続けた。
親の周辺の知識は俺の方が劣っているが、王都や貴族全体の情報は俺の方が持っているので、もしもの場合に備えて教えておいた。
とは言っても俺の王都の知識はかなり古いが、そこまで的外れではないだろうし、貴族関係の事は全て最新のものだ。
まあ問題を起すとしたらジオではなくて俺なので、注意するべきは俺自身なのだがな。
学園に入学するための箔を付けるための大会に、入学する気が無いのに参加するのだ。
口を滑らせるつもりはないが、父上が面白がって情報を流さないとも限らない。
「お時間になりました。食堂へ案内をします」
最初に案内をしてくれたメイドが再び訪れ、俺達を食堂へと案内してくれる。
それにしても、このメイドは珍しい髪形をしている。
大抵のメイドはストレートか三つ編み程度なのだが、このメイドは髪をサイドテールにしている。
中々個性的だ。
だが、伯爵家に仕えているメイドという事は、ほぼ間違いなく他家の貴族だろう。
なんて考ている内に、食堂に着いた。
既に父上は座っているが、その顔には隠し切れない疲労の色が見える。
こってりと絞られたのだろう。
後で笑ってあげるとしよう。
「二人共ゆっくりと休めたかね?」
祖父様にジオと一緒にしっかりと休めたと答え、それから椅子へと座る。
置かれている食器や、使われているテーブルクロスは家なんかと違い、かなり質が良いな。
「それは良かった。色々と聞きたい事もあるが、まずは食事にしよう」
「今日の為に領地の名産品を用意したのよ。美味しいから、期待していてね」
まずは腹ごしらえという事で、料理が運ばれてくる。
レストレンジ領の位置は…………ああ、そう言えば港があったな。
王国で海に面している領地は結構あるが、港を有しているのはレストレンジを含めて三つ。
港は様々な利権があるが、一言で言えばとても儲かる。
戦争になれば一番狙われる場所だが、平時は漁業や海運で儲ける事が出来る。
恐らくそれもあって大量の本を持っているのだろう。
そして港という事は……。
「魚か。俺としては肉の方が好きなんだがな」
「肉だけでは健全な身体は育たんよ」
運ばれてきた料理に父上がケチをつけるが、祖父様はサラッとあしらう。
俺としては料理という体裁さえ整っていれば文句はないので、とりあえず食ってみる。
俺が食ってきた魚料理と言えばアラ汁や丸焼きばかりなので、中々新鮮だ。
「臭みがなく、香辛料も効いていて美味しいですね。野菜も瑞々しく、甘みもあります」
「ヴィンレット……」
「兄さん……」
あれ? おかしいな。少し真面目に反応したら、ジオと父上が変な目を向けてきたぞ。
俺だってやる時はやる人間だと…………ってここ一、二年は真面目に過ごした記憶が無いな。
去年とかほとんど内政の手伝いばかりしていたので、母上は俺の功績を知っているだろうが、ジオと父上は知らないだろう。
あの母上が話すとも思えないし。
「分かってくれているようで何よりだよ。確かに肉も良いが、魚にも良い所はある。これを分かってくれる貴族や騎士は少なくてね」
「いえいえ。祖母様を見れば、魚の良さは分かる事だと思いますが、見る目が無いようですね」
「まぁ。もしかして、あの子かしら?」
うんうん。上手く心を掴む事が出来たようだ。
魚についての知識は異世界の物だが、サンプルが居るので遠からず当たっているだろう。
魚は種類によるが肌や健康に良く、若さを保つならば食べた方が良い。
ただ、内陸では輸送の関係で日常的に食べるのは難しい。
それと、歳よりは基本的に若さに関係する誉め言葉を言っておけば、嫌われる事はあんまりない。
「いえ、本による知識ですね。残念ながら、ここに来るまで母上の実家の事なんて知らなかったので」
「知らなかったのかよ!」
「だって話して貰ってないからね。父上も話した記憶ある?」
「……そう言えば……ないな」
ですよねー。
だからジオに呆れられたわけだが、知らない事は知れば良いのだ。
「ハッハッハ。中々愉快な子に育っている様だね」
「ヴィンレットは少しあれですけどね」
「聞いてるよ。だが、私は否定せんよ。今の世の中は昔と違い、自由が利くからね」
どうやら俺が爵位を継がずに家を出て行く事まで知られているようだな。
伯爵ともなれば古い仕来りとか煩いと思ったが、案外自由みたいだな。
あの母上を育てた事だけはある。
そんな軽い雑談をしながらも、上品な夕食は続き、デザートのソルトアイスも美味しく平らげた。
塩のアイスなんて微妙かと思ったが、これが思いの外美味しくて驚いた。
「二人とも楽しんでくれたようだね。本当ならもっと早く会いたかったものだが、過去を気にするのは年寄りの悪い所だね」
そう言いながら祖父様は父上に視線を送り、父上はその視線から目を逸らして食後のワインを飲んでいる。
「そう言えばヴィンレットは魔法大会に出る様だが、大丈夫なのかね? 武器を持って来ていなかったみたいだが」
「実は大会について聞いたのが、馬車の中だったもので、用意してなかったんですよね。けれど、最低でも本戦には出るつもりです」
当てこすりも兼ねて、本当に事を話しておく。
そもそもまともな武器を持っていなかったので、家を出る前に教えてもらっていたとしても、あの杖を持っていく事はなかったが。
「はぁ。まったく、あの子は何をやっているやら」
「俺の性格のせいではあるんですけどね。出る気は全く無かったですし」
「そうだったのか……しかし、本当に大丈夫なのかね? 言ってはなんだが、今年は有望株も多い。生半可な実力では本戦すら難しいだろう」
「いや、なんで俺の方を見るんですか? 魔法は専門外ですよ」
そりゃあ子供本人に聞くよりも、親に聞いた方が安心できるからだろう。
俺が大丈夫だと言っても、子供の強がりにしか聞こえないだろうし。
分からないと否定する父上だが、祖父様の視線に負けて口を開く。
「あー、あいつが言うには、お手玉を見せれば納得出来るだろうと言ってました」
「あら、あれを教えているのね」
祖母様はニッコリと笑うが、その目には好奇心が隠しきれないでいる。
あれって母上が考案ではなかったのか……。
しかし、この空気ではお手玉を披露するしかない感じだな。
構わないのだが、最近は精霊魔法ばかり練習していたとはいえ、ほぼ間違いなく俺の魔力コントロールの腕はそれなりに高い物となっている。
まだ母上を越えられていないとは思うが、ここで全力を披露するのは悪手だろう。
力とは基本は程々を見せ、いざという時に全力を見せる事に意味がある。
「あのー、つまり実演した方が良い感じですかね?」
「ええ。危険性も無いし、お願いできないかしら?」
「祖母様のお願いでしたら仕方ないですね」
いつも通りウォーターボールを発動し、四つの玉でお手玉をする。
ステラに教えた感じから、三つでも難しいレベルとなるが、納得させることを考えて四つにした。
やろうとすればまだまだ増やせるが、俺つえーがしたいわけではないので、これで良い。
「その歳でそれだけの精度か……血は争えないな」
「素晴らしいわね。これだけ出来るのなら、本戦位は余裕そうだけど……ねぇ?」
「ああ、そうだね。どうやら侮っていたのは私達の様だ。初めから手紙の事を信用していなかった此方の落ち度だ」
何やら不穏な会話だが、御眼鏡に叶ったのは確かなようだな。
「ヴィンレット。質問なのだが、マーガレットは君にどれ位魔法については教えたかね?」
「母上から直々って意味でしたら、さっきの奴だけですね。父上は知っていると思いますが、家庭教師からは早々に卒業したので」
「あー、詳しくは俺が後から話しますが、言っている事は本当ですよ」
「それなら楽しみに待つとしよう。ジオレインは火の魔法を使えるようだけど、メインは剣かな?」
「あっ、はい。魔法を習っていますが、剣をメインにしています」
俺の話は軽く流れ、ジオの話となる。
ジオは俺とは違い男らしく剣をメインにしている。
レストレンジは見ての通り魔法を中心としているが、祖父様達はしっかりとジオについても話をしてくれているので、ジオだけ仲間外れなんて事にならなくて良かった。
それからも話し合いは三十分程続き、子供はもう寝る時間だからと追い出された。
客室に帰る前にチラリと父上の目を見ると、少し絶望の色があったが、これまで散々無視してきた父上が悪いので頑張って欲しい。
詰問されるとはいえ、伯爵家だから美味い酒も飲めるだろうし。




