第39話:王都レイアシス
街で泊まったり、態々野宿をしながら旅は続き、王都であるレイアシスにやって来た。
王都なだけあって城壁は高くて広く、堅牢な造りをしている。
昔の俺ならば一撃で壊せるだろうが、今は少し苦労するだろう、
大きな街を攻める場合、城壁をどう攻略するかが鍵となる。
壁を壊せれば侵略は簡単になるが、今度は守るのが大変になる。
城壁は壊してしまうと修理が大変であり、費用だけではなく人や物資。何よりも時間か掛かる。
だから大抵は城壁を乗り越えたり、門を破って戦うのが定石とされている。
まあ血なまぐさくなる考えは一旦止めて、馬車の窓から王都の街並みを眺める。
戦場とはまた違った空気の悪さだが、うちが田舎で空気が良いせいだろう。
「そう言えば、泊まるところってどこなの?」
知り合いでもワンチャン見つからないかななんて思いながら眺めていると、ふとジオが父上に聞いた。
…………あっ、そう言えばどうするのか一言も言っていなかったな。
旅の時に聞いた父上の話からするに、昔住んでいた家とか無さそうだし、宿とか予約してあるのだろうと思い、父上の顔を見ると苦々しい顔をしていた。
「あー、まさか泊まる場所を決めてなかったりするの?」
「いや、ちゃんと泊まる場所もあるし、大会まで過ごすのも問題ない。ただなぁ……」
煮えたぎらないというか、これまで黙っていた事を考えると、何かあるのだろう。
王都に入ってから特に御者に指示を出していないので、予め決めていたのだろうが……。
父上は基本的に豪快であり、大抵の事は笑って受け流すが、母上の事に関しては悩む事が良くある。
つまり、そこから導き出される答えは……。
「泊まる場所って、もしかして母上関係?」
「……そうだ。よく分かったな」
「これでも母上の手伝いはよくしているからね。察することは出来るよ」
父上がこうも領地経営に成功しているのは母上の頑張りがあるだろうが、内政や事務処理といったものは簡単に覚えることは出来ない。
他にも諸々とあるが、母上の実家は真っ当な貴族だと考えられる。
そんな貴族の娘を、成り上がりの男が攫って行った。
元団長とはいえ、貴族とは格を大事にするのが常であり、家の状況を見るに婿入りではなく独立だ。
何があったかは知らないが、父上からしたらアウェーでしかない。
「……この際だから話すが、マーガレットの実家は伯爵家でな。領地賜って結婚するまで色々とあったんだが……」
「仲が悪いとか?」
あれ? こういった時は普通仲が悪いもんじゃないのか? 俺の知識では大体こういった時は仲が悪いのが相場だが……。
「いや、その逆でな。なにかと世話を焼こうとしてくれるんだが、俺が俺の力でやらなければ意味がない。マーガレット本人には手伝って貰っていたが、流石に子供の顔を見せろとせっつかれてな」
そう言えば俺が生まれてから、父上と母上の実家については一度も話を聞いた事が無いし、それらしい親戚とかにもあった事がない。
しっかりと祝福してくれている様なら構わないのだが、それ位ならば父上が苦い顔をする意味が分からない。
「聞く限り良い人みたいだけど、何か問題でもあるの?」
「僕も気になるな」
「そうだな……良い人であるのは確かだが、少々アクが……癖が強い人達でな。ジオレインは大丈夫だろうが、ヴィンレットは頑張ってくれ」
全く分からないが、まあ会えば分かる事だろう。
父上が苦手にしているからって俺が苦手にするとは限らないし。
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しばらくして馬車は貴族街に差し掛かり、ゆっくりと止まる。
伯爵なだけあり、中々大きな屋敷だな。
父上は完全にだんまりとしているが、扉を開けてもらい、父上から先に降りる。
そして父上へと一緒に屋敷へと入ると、中にはメイド達と母上の両親と思われる夫婦が居た。
「やっと来たか。この日を楽しみに待っていたよ」
「ええ。その子達がマリーの子供なのね」
「……はい。お待たせしてしまってすみません」
「気にしておらんよ。君の考えも理解できるし、今の王国を思えば、独立したいというのも理解を示せる。ああ。理解しているとも」
父上への父上へ……祖父様で良いか。
祖父さまは父上へと近づき、何度か肩を叩いてからしっかりと肩を掴む。
言葉では気にしていないと言っているが、間違いなく根に持っていそうだな。
「おっとすまないね。初めまして。私が君達の祖父でマーガレットの父である、ギネヴァス・レストレンジだ。そしてこちらが……」
「マリーゴールド・レストレンジよ。ヴィンレット君とジオレイン君」
柔らかい動作や声をしているが、貴族らしい威圧感がしっかりとある。
ジオも感じているのか、硬くなっているのが分かる。
この人達ならいつも通りの口調でも許してくれそうだが、多少猫を被っておくとしよう。
「初めまして。長男のヴィンレット・アトラゼネです。短い間となりますが、よろしくお願いします」
「ジオレインです。よ、よろしくお願いします」
「良い挨拶だね。長旅で疲れているだろう。話はまた今度にして、二人は休んでいなさい。おい」
サラッと父上は休むなと言われているが、父上だから今更だろう。
祖父様が呼んだメイドに案内され、部屋へと入る。
当たり前だが実家の屋敷とは違い、家具の一点からして高価な物だ。
「此方がお部屋になります。案内は必要でしょうか?」
「大丈夫。何かあったらそのベルを鳴らせば良いのかな?」
「はい。また、夕食は十八時からとなっておりますので、それまでにはお部屋にお戻りください。それでは失礼します」
馬車に積んであった荷物は既に部屋に運ばれており、俺とジオだけが残される。
部屋の中に風呂場やキッチンも完備され、必要そうな物が一式揃っている。
更に本棚もあり、軽く眺めるが様々な分野のものがあるので、暇つぶしにも使えそうだ。
さて、まずはシャワーでも浴びたいが、その前に確認したい事がある。
「なあジオ」
「どうしたの兄さん?」
「ジオは母上の事知ってた?」
「……えっ、もしかして」
よし。その反応で理解出来た。
俺もそれなりに貴族については詳しいし、レストレンジ伯爵についても軽く知っている。
何回か手紙も来ていたし、珍しかったので覚えている。
今思えば、成り上がりの男爵家に伯爵家から手紙が来ている時点で気付くべきだった。
「いやー。ほら、俺ってあれでしょ?」
「……僕達に構ってくれていたのはありがたいけど、もう少しさぁ……」
珍しくジオが呆れてしまっているが、知らなくて困る事は無いし、そもそも母上が実家を頼りにしていないのだから、問題無い。
問題がある時は態々母上が俺を探し出したり、朝起こしに来た時に教えてくれるし。
つまり、母上が教えてくれていない事を俺が知らないのは仕方ないのだ。
だからそんなジト目を向けないでくれ。反省はしているから。
「なに。俺はどうせ関わらなくなるからね。しっかりと媚びを売っておくんだぞ。貴族は繋がりが全てだからね」
「それは分かるけど、そこまで大事なの?」
「パーティーに出ているから分かると思うけど、父上には名があって力が有る。けど、ジオの代になった時にそれがどうなるか分からない。やれる事をやっておいて損はないさ。まっ、俺は父上の事も母上の事も知らなかったけど」
「兄さん……ステラも言ってたけど、どうしてそれで勉強が出来るの?」
俺の場合ほとんどが経験から来るものだが、他人なんて知らなくても困る事はない。
結構な人が誰々の書いた本が素晴らしく、その中のとある単語が良いと、全てを覚えようとするが、単語とその意味さえ分かっておけば知識として困る事はない。
覚える事を最小限にし、その余った分のリソースを他に向ける。
それだけの事だ。
まあ、俺だけの頭があれば全部を覚える事も出来るのだが、両親については単純にその力については認めていたが、その力がどうやって手に入れたかまでは興味が無かっただけだ。
「覚える必要な事だけを、覚える様にしているだけだよ。例えば、ジオレインは父上の息子で次男で、俺の弟で火属性の魔法が使えるって情報があるとするでしょ?」
「うん」
「時と場合に寄るけど、この中で覚えておく必要があるのは、ジオが次男であるって情報の組み合わせか、ジオは火属性の魔法が使えるかのどちらかだ」
全てを覚えられるに越したことはないが、情報を抑える事で判断力を上げるのも手段としては使える。
勘に近いが、情報がある分精度は上がる。
「前者は貴族として。後者は戦う際にって事?」
「そうだね。出来る事ならあの賢者の様に、全てを識るなんて事が言えたらいいんだけど、俺って要領が悪いでしょ?」
「……」
なあ弟よ。出来ればそこは違うって返して欲しかったのだが、やっぱりそう見られているかー……。
余は悲しい。
「情報はなるべく文ではなくて単語で覚え、上手に組み合せる事で理解する。こんな感じだね」
「ちょっと心配な所もあるけど、やっぱり兄さんは凄いね」
「凄い人間は弟を生け贄にはしないさ」
「それを母さんに言って良いかな?」
「さて、俺はシャワーを浴びてくるとするよ」
良い雰囲気をだったのをぶち壊し、威圧感のある笑みを浮かべるジオから逃げるようにしてシャワーを浴びる。
今日は無理だが、明日か明後日にはこっそりとシトリスに会いに行くとしよう。




