第38話:父上の二つ名は
久々にジオと父上達と一緒に居るので父上の昔話を聞いたのだが、やはり剛腕だった。
ついでに折角だからと話してくれたのだが、元第二騎士団の団長でしかも成り上がりであった。
俺が死んで平和になったとはいえ、団長クラスがポンと辞めて大丈夫なのかと思うが、今も大丈夫なのだから大丈夫なのだろう。
父上はアベル公国との戦いで大きな功績を残し、報酬として爵位と土地を貰った。
それから王都にはほとんど行く事は無く、俺が生まれてからは三回しか行っていないらしい。
俺が最後にカイアネット王国の王都に行ったのは、もう思い出せないくらい前だが、ザッ普通って感じだったな。
強いて特色があったとすれば、学園が馬鹿でかかった事だろう。
因みに俺が行く気の無い学園には、生前行った事がある。
レイアシス学園は勇者の母校であり、色々とあって案内された。
その時に馬鹿が馬鹿な真似をしてきたので、撃退したら出禁となった。
流石にイラっとしたので、その後に領地まで行ってお礼参りしてやったのは懐かしい思い出だ。
子供が馬鹿な場合、大抵の貴族は汚職をしているので、調べた結果案の定違法薬物を密売していたため、しっかりと王国の法律に則り、騎士団の許可を貰ってからだがな。
ついでに俺の出禁は解かれなかった。
「そう言えば、ダンジョンはどうだ? ソロで挑んでいるのか?」
父上の話も終わり、そんな事を聞かれた。
さて、この質問は少し困る。
素直に話せば間違いなく茶化されるし、かといって嘘を吐いたところで、領主権限で調べれば俺が誰かとパーティーを組んでいることはバレる。
後々何か言われるよりは、誤魔化しながら本当の事を話した方がマシか。
「一応パーティーだね。俺と前衛の二人だけだけど」
…………あっ、パーティーで思い出したけど、そう言えば杖を持ってくるのを忘れたな。
まああの杖は魔法の威力を上げるのではなく、コントロールのためだけに使っていたので、無いからと困る事はない。
とは言っても、もしもの時の事を考えれば杖があった方が良い。
それなりの金はあるが、良い杖が見つかるだろうか?
「ちゃんと組んでいるようだな。簡単なダンジョンだからって、一人だと何があるか分からないからな。俺もお金を稼ぎに簡単なダンジョンへ行ったら、指名手配の犯罪者とかち合って酷い目に…………って、前衛?」
「俺は剣よりも魔法の方が好きだからね。練習用とはいえ、母上から杖を貰ったし」
「それなら俺も剣をあげれば良かったな……で、仲間の性別はどっちだ?」
「前衛をしているってところから察するんじゃない?」
男が前で女が後ろってのが世間では一般的であり、騎士団の八割は男だ。
なのでこう言えば、男だと勘違いしてくれるはずだろう。
「いや、最近は女でも前で戦うって奴は多いからな。で、どっちだ?」
俺の言い方が悪かったのか、父上はニヤニヤと俺に聞き返してきた。
これでも元団長であり、今は領主であるせいか、知恵も回るか……さては公衆で駄目な感じを晒しているのは、他を欺くためか?
あれだけ領地を栄えさせているのだし、力だけって訳じゃないか。
まあ母上の力もあるだろうけど。
さて、誤魔化し続けてもこの状態の父上はどうしようもないし、かと言って力で解決するほど俺は子供ではない。
イラつくが、ここは精神的には大人の俺が折れてあげるとしよう。
「少女だよ。まあ俺よりも年上だけどね」
「全く女に興味を示していなかったヴィンレットがパーティーを組むとはな……」
「丁度登録する時に一緒になって、ギルドからお願いされただけだよ。まあ、これまでパーティーであってきた貴族よりマシなのは事実だけどね」
お願いはシトリスからであり、ある意味貴族よりも糞面倒な存在となってしまったが、父上にとっては俺が女とパーティーを組んでいる点以外はどうでもいいはずだ。
最初は使い勝手の良い駒にする予定だったのに、俺の愛剣を持っていたり、勇者の娘だったりと、後出しの情報が俺にとって致命傷な物ばかりだった。
ロストワーカーだった頃も色々と巻き込まれて大変だったが、今世も本当に大変だ。
「その女性の人ってどんな人なの?」
「うーん……」
シトリスがどんな人間かと聞かれても、シトリスという人間について考えたことがあまりなかったな。
強いか弱いか。戦えるか戦えないか。まだ訓練できるかできないか。
こんな感じだったし。
後はどうすれば排除できるかとか、シトリスというよりはグランシャリオについての方が考えていた割合が多い。
俺特攻の嘘発見器でもあるし。
さて、シトリスについてだが……一言で言えば、歪だな。
逃げておきながら今は戦い、更に俺のスパルタにすら耐えている。
かと言って人任せって訳ではなく、自分で出来る事は自分でやっているし、ギルドの講習もなんやかんあ受けている。
グランシャリオは俺のやってきたノウハウを持っているらしいので、シトリスが色々と出来る事にこれと言って違和感はない。
強いて言うならば、グランシャリオから俺の事を聞くのは止めてほしい。
著作権を知らないのだろうか? …………知るわけもないか。
「努力家かな。確か十歳過ぎだけど、単純な剣の戦いなら負けるかもね」
「えっ! 兄さんが!?」
過去の経験を使わず、この身の経験だけならば、シトリスにはもう勝てないだろう。
それだけの訓練をしたし、基礎も作り上げた。
あくまでもヴィンレットとして得た経験だけで戦った場合なので、昔の経験を使えば負けることはない。
「数歳差とはいえ、お前を負かすようなうちの領地に居るとはな……」
「領民じゃなくて、旅のついでに登録したみたいだよ。それなりに稼いだら、その時点でパーティーを解消して旅に出る予定みたいだよ」
「そうか……将来有望なら、うちの騎士になってほしいが、無理強いも出来ないからな。何とかできないか?」
「お互いに利益があるからパーティーを組んでいるだけだし、用が無くなったらそれまでだよ。別にパーティーじゃなくても構わないし」
シトリスの気が変わらない限り、パーティー解散をする事はないだろう。
個人的にはシトリスなんて使い難い人材ではなく、ジオみたいに素直であり、従順な奴が欲しい。
…………王都で軽く探してみるか。
あまり自由時間は取れないだろうが、運が良ければ唾位は付けられるだろう。
あれから変わっていなければスラムもあるし、孤児院って手も有る。
駄目で元々だが、やっておいて損はない。
「兄さんは、そのパーティーの人に興味が無いの?」
「興味がないってよりは、これでも一応貴族だからね。旅に出た後ならばともかく、今はなるべく一人の方が何かあった際に対処できるってだけだよ」
俺一人ならば基本顔を隠しているし、存在感を薄くして悟られない様にする事も出来る。
シトリスは顔だけは良いので、一緒に居れば何かしらの問題を起こす。
あいつ自身はあまり口が上手くないし。
「なんだ。旅には誘わなかったのか?」
「俺とそこまで合わないからね。旅の仲間ってなるべく気楽な方が良いでしょ?」
そう言えばまだ試した事が無かったが、シトリスは料理を作れるのだろうか?
旅に出るとなれば野宿をする事もあるので、料理の出来る出来ないは重要となってくる。
世の中には簡単な料理すら作れない人種が居るので心配だが、シトリスならばレシピ通りに作る位は出来るだろう。
やれと言った事はちゃんとやるしな。
「確かに女と二人旅ってのは気を遣うか……やっと女っ気が出たと思ったが、相変わらずだな」
「せめてそれは俺が成人してから言ってくれない? まだピチピチの八歳だよ?」
「ピチピチというよりは尻が青いだがな。貯金はどれ位出来ているんだ?」
「まだ銀貨十枚ちょいだよ。毎日ダンジョンに行っている訳じゃないしね」
この前でロックシューターの貯金は使い切り、シトリスの旅費や剣の代金とかでかなりの金額を使った。
本当はもう少しあるが、ギルドで聞いた限りの情報を元にすれば、これ位の金額は普通の領域となる。
少なすぎても違和感を持たれるし、多すぎれば何かやっているかと疑われるからな。
「結構頑張っているようだな。貯めた金はどうするんだ?」
「旅に出る時のために馬車を買おうかなってね。貯金と合わせて小さいのでも買えれば、楽になるかなって」
「馬はどうするんだ?」
「最初は老いているのを買って、その後は野生のを捕まえるつもり」
昔は馬に跨って移動していたが、それだと運べる物資が限られてしまう。
その代わり森の中とかも移動出来たりするのだが、馬車を管理できる人間を雇ってしまえば問題ない。
問題はその人間をどうするかだが、一番は奴隷を雇うのが一番だろう。
馬車を失ってしまえば全てやり直しとなるので、絶対に裏切らない存在を使うのが良い。
「そうか。馬位なら俺の方で手配してやっても良いぞ?」
「ありがたいけど、自分で全部用意してこそだからね。まあ、その方が都合が良いってのもあるけど」
実際は馬くらいなら問題無いが、父上に借りを作るのが嫌だからだ。
俺は知っているのだ。
たった一度飲み物代を借りただけで、でかい顔をしてくる奴らを。
父上はそうではないだろうが、借りは少ない方が生きやすいのが世の中だ。
まあその糞野郎は最後の戦いで殺したのだがな。
いや、糞野郎と言っても憎かったわけではないが、戦いに感情論は不要なのだ。
向こうも束になって俺を殺そうとしていたわけだし。
もしも感情で言うのなら、一人くらい味方をしてくれても良かったんじゃないかと思う。
裏でどんな取り引きがあったか知らないけど、酷すぎない?




