第37話:これって旅行で良いの?
今頃シトリスは頑張って走っているんだろうなーと、数日屋敷を中心にして過ごした後、俺達も王都へ向かう日がやって来た。
俺の方もしっかりと準備を済まし、父上やジオの用意の確認なども母上と一緒に確認もした。
金についても一応父上が握っているが、それとは別に母上から予備のお金を託された。
父上の信用度が低いが、いつもの事なので特に何とも思わない。
「うい、準備出来たな。二人共大丈夫か?」
「勿論」
「うん」
王都まではシトリスとは違い馬車で向かう事になるが、俺達三人だけではなく世話役として執事が一人と、御者が一人一緒に来る。
父上は執事ではなくメイドを付き添いに選ぼうとしたが、案の定母上にお叱りを貰い、うちで最も厳格とされている執事が選ばれた。
流石の父上も不貞をする事は無いが、酒を飲むとスケベオヤジとなり、それはもうセクハラをしまくる。
酒場の上で父上の監視をしている時も、色々な声が酒場の中から聞こえて来た。
その事は勿論俺から母上に報告してあり、その事がジオに伝わっているせいか、ある意味半面教師となっていて、ジオは強かに育っている。
因みに俺は女性に興味がないわけではないが、まだ性欲はほとんど無く、ついでにハニートラップの怖さを知っているので、手を出したりする事は無い。
混ざった記憶のせいか分からないが、昔は女性らしい出る所が出ている女性が良かったが、今は守備範囲がかなり広くなっている。
見た目としてならばシトリスはありだし、母上すら守備範囲内だ。
母上は年齢と見た目がはまりあっていないので微妙な線だが、見た目次第では四十過ぎでも多分問題ない。
「あっ、言い忘れてたが、ヴィンレットには魔法大会に参加してもらうから、宜しく」
「……」
馬車が出発し、母上を頼れなくなったタイミングで父上は爆弾発言をしてきた。
ジオもこれには驚きの目を俺に向けてきている。
「今初めて聞いたんだけど?」
「マーガレットに黙っているように言われたからな」
母上の差し金かい!
全く理由が分からないが、正直困る。
色々と暗躍する予定だったし、ここ最近は精霊魔法ばかりを練習していたので、通常の魔法は基礎練しかしていない。
これから王都まで時間はあるが、大会で使う様な魔法の練習はほとんどできないだろう。
今は従順なふりをして、土壇場で大会をボイコットするのが一番か?
「はぁ……まあ母上絡みなら仕方ないか……」
「おっと、ついでに手紙を預かって来てるから、今の内に読んでおけ」
「はいはい……えっ」
仕方なく手紙を読み始めたが、流石母上って感じの手紙だった。
要約すると、大会に出て成績を残せない場合、旅に出させないって書いてあった。
ついでに何故そうしたかについても要点を纏めて書かれていたが、俺も貴族の子息である以上、責務がある。
全部を無視して家出をするなんて手もあるが、そうした場合俺は帰る事が出来なくなるし、今以上にジオやステラに迷惑を掛ける事となる。
ボイコットしたとしてもなんとかなるかもしれないが、ボイコットするくらいならば普通に大会に出て成績を残した方が楽だ。
シトリスと父上が出る剣術大会と違い、俺が出される魔法大会は対戦ではなく競技。つまり競い合いとなる。
詳しくは全く知らないが、この大会に出られるのは貴族の学園へ入学する前も子息だけとなるらしい。
要は箔付けとして使われている大会だ。
優勝とは言わず、それなりに箔が付く程度の成績を残せれば、学園に入学しない理由に使えるとか。
そんな訳で大会に出るのは確定となった。
「中々母上も酷い事をして下さる」
「えっと、大丈夫兄さん?」
「今すぐ父上の髪を全て燃やしたい感じだね」
「兄さん!」
ジオがビックリとするが、父上は笑って受け流す。
本当に燃やしてやっても良いが、父上の火魔法がどれ位なのか俺は知らない。
無いとは思うが、逆に痛い目を見るのは嫌なので、紙を燃やして馬車の外へと灰を飛ばす。
「父上は手紙の内容を知っているの?」
「いや、だが見せればヴィンレットは間違いなく大会に出ると言っていたな。俺としては剣術大会の方に出て欲しい気持ちがあるが、流石に身長がな……」
「フレイム」
「おっと」
流石にイラっとしたので軽く魔法を放つと、片手で払われてしまった。
微妙に火力を高くしてやったのに、驚きすらしていない。
俺だってもっと身長が欲しいのだが、こればかりは運に委ねるしかない。
カルシウムが豊富らしい食べ物を食べるようにしているが、今のところそんなに変化はない。
昔も男としては決して高い身長ではなかったので、こう直接言われると心配になってくる。
父上みたいに高くなくても良いので、せめて一般的な身長は欲しい。
ジオと比べると微妙に負けている気がしなくもないので、切実に欲しい……本当に。
母上の身長が低いとかならばまだ諦めもつくが、結構背は高い。
「馬車の中で火なんて使って危ないだろ」
「父上なら大丈夫だと思っていたので。現に散らすことなくレジストしていますし」
「この位の不意打ちを防げないようでは、領主なんてやってられないからな」
「……関係無いと思うな」
ジオが呆れているが、貴族の中で武闘派なんて一割もいない。
何度か出席したパーティーでも、インテリとデブが大半を占めていた。
一応部下の中にはまともなのは居たが、領主本人には力なんていらないってのが世間的な評価だろう。
一昔前とは違い、今は知識の方が重要とされ始めているのだからな。
「父上は手紙に書いてあった大会についてどれ位知っているの?」
「マーガレットが昔優勝したって事くらいだな。予選と本戦があって、三つの要素を競う感じだな」
「三つ……操作。威力。速さって感じ?」
「大体そんな感じだな。俺が知っている頃と変わってなければ、的当てと岩の破壊。そしてその両方って感じだな」
ついでに概要も父上は話してくれたが、的当ては一定時間内に多くの的に魔法を当てる競技であるが、俺にとっては一番楽な競技だろう。
伊達にお手玉でコントロール力を鍛えていない。
次に岩の破壊だが、これについてはジオが補足をしてくれて、今は魔法の威力を見る仕様になっているそうだ。
正確には分からないが、一つの魔法に込められている魔力量を調べるのだとか。
ただ強力な魔法を放てば良いってものではなく、密度が大切になるそうだ。
魔力量には恵まれ、コントロールも抜群な俺ならば問題無いだろう。
この大丈夫と言うのは自分の実力を発揮できるという意味であり、勝てるというわけではない。
母上が認めてくれている以上それなりの実力が俺にはあるのだろうが、剣と同じく同世代で比べる相手がいないので、どれ位かがわからない。
それに、世の中には化け物や天才なんて奴らが居ると俺は知っている。
優勝を目指すつもりは無いが、運が悪ければ一般その他に埋もれるなんて事も起こりる。
記憶によると異世界には魔法が無く、魔法に強い憧れがあるため、チートとやらを貰って転生をするなんて事があるらしい。
もしもそんな奴が居たら、正面からの戦闘で勝てる訳が無い。
正面以外の戦いは別だが。
「仕方ないから出るけど、大会の日にちってどうなってるの?」
「剣術大会の一週間前だな。予選で一日。本戦で一日って感じらしい。人数によって多少前後するだろうが、詳しくは知らない」
「なるほど。因みにジオにサプライズはないの?」
「ジオはお前とは違うんだよ」
ジオが俺と違うのは分かっているが、父上に勝って以降妙に扱いが雑になった気がするが、こちらの扱いも雑なのでどっもどっちだろう。
後で母上に泣きついて、お仕置きしてもらうとしよう。
ついでに仕事も母上の分だけ手伝う事にしよう。
今は俺を虐めて笑顔の父上だが、その笑顔も今だけだ。
サボろうものならステラや母上を使って必ずとっ捕まえてやる。
「酷い父上だ。まあ父上とは違い最低限成績を残せば良い訳だし、なんならジオも一緒でも良いんじゃない?」
「出るにしてもマーガレットが許可をしてからだな。剣ならともかく、魔法についてはマーガレットを信じるのが一番だ」
「だってさジオ」
「僕の実力じゃあまだ無理だと分かってるから気にしないよ。でも、今回見学して出れそうなら、来年は出てみたいかな」
ジオは苦笑いを浮かべ、頬をかく。
こんな素直で可愛いジオと父上の血がつながっているのだから、分からないものだな。
俺とステラはなんとなく母上や父上の子供だと分かるが、ジオだけは裏表無く優しい。
いや、俺は本当の子供ではないのだが、残念ながら本当は生まれる予定だった赤子に罪悪感とかはない。
最低限の倫理観はあるが、それはそれこれはこれだ。
「まあなんだ。今回の旅行は良い経験になるだろう。だが、王都は此処とは違い様々事件が起こるから、注意しろよ」
「これって旅行で良いの?」
「これまで一度も王都に連れて行ってやることが出来なかったからな。マーガレットとステラには悪いが、楽しもうじゃないか」
なにやら悪い笑みを浮かべているが、ジオを悪い道へ連れ込むなら事前に止めさせてもらおう。
ジオにはまだ酒や女は早いからな。




