第36話:剣をプレゼントする件について
ジオと兄弟の仲を深め合い、やはり父上は駄目だなぁと再確認してから幾日も過ぎ、シトリスが王都へと出発する日がやって来た。
俺や父上が王都へ行くのはもう少し先になるが、シトリスには走って向かってもらう関係上早めに出発してもらわなければならないのだが、一つだけ問題があった。
「おっさん。頼んでいた物は出来た?」
「そう慌てるな坊主。ちゃんと出来てるぞ」
そう、渡す予定の剣が出来上がっていなかったのだ。
全く。これだから場末の鍛冶屋は……なんて愚痴をチンピラなら吐くのだろうが、悪いのは鍛冶屋のおっさんよりも俺なので文句は言えない。
「それは良かったよ。それと悪かったね。こんな注文をして」
「気にすんな。貰うもんは貰ってるし、案外楽しめたからな。しかし、あの水は一体なんなんだ?」
「知り合いのエルフから貰った、文字通り魔法の水だよ」
「魔法の水ね……まっ、聞かないでおこう」
「悪いものじゃないから、なんなら出所を教えても良いんだけどね。気遣ってもらって悪いね」
ギリギリになった理由は、剣を製造する時に使う水を、全て精霊魔法で作り出した水にして貰っていたからだ。
出来れば俺の手で作ってみたかったが、色々な事情を考えた結果、水だけ渡して作って貰うのが一番良いと考えた。
今回シトリスに使ってもらうのは大会用の間に合わせであるのと、もしもの場合に備えて購入元を特定出来る様にしておく方が良いと思ったからだ。
一応シトリスには名前だけで登録させ、勇者の娘とは分からないように対策をしているが、先日ジオから大会について軽く話を聞き、出来る事はやっておいた方が良いと判断した。
ついでに、少し多めに金を払って鍛冶についても軽くレクチャーして貰ったりしている。
「そうか……ごほん。これが出来上がった剣だ。一応鞘から抜いて見てくれ」
おっさんから鞘に入った剣を受け取り、鞘から抜く。
頼んだ通り一般的な剣に比べて刀身が分厚く、そこそこ重くなっている。
ちょこっと精霊眼を発動させると、剣の周りに精霊が漂っているが、違和感を感じるほどではない。
「良い感じだね。重心も前過ぎないし、重さも思っていた通りだ」
「これでもプロだからな。また暇な時にでも来い。鍛冶のなんたるかを叩き込んでやる」
「お手柔らかに頼むよ。それじゃあまた」
剣を鞘へと戻し、シトリスの待つギルドへと向かう。
ここ最近は一人で依頼を受けていたが、あと少しでランクを上げるために必要な貢献度が貯まってしまいそうになっている。
上げられるからと上げる必要はないのだが、ずっと保留にしたままにも出来ない。
理由があるならば問題ないが、上げない理由もないので、どこかのタイミングで上げなければならない。
依頼を受けなければポイントも貯まらないのだが、貰えるはずの金が貰えなくなるのは嫌なので、依頼を受けるのを止める気はない。
保留と言っても、一年位は放置していても問題ないし。
「おはよう。調子は……まあいいか」
「そこはちゃんと聞きなよ……」
聞かなくてもテーブルに突っ伏しているのを見れば、どんな感じだか分かる。
単純に体力や筋肉だけを鍛えるとなると、これがかなり辛い。
効率を求めるとやることは単調であり、その癖効果があるか分かりにくい。
しかもサボったらサボった分更に辛くなる。
たまにはこうやってだらけたくなるのも分かる。
「見れば分かるからね。まずはこれがシトリス用に用意した剣だよ。なるべく頑丈にはしてあるけど、折れても気にしなくて良いよ」
テーブルの上に剣を置いてシトリスに渡す。
王国の騎士が一般的に使用している剣よりは頑丈だが、その代わり重くなっている。
身体強化をしたとしてもシトリスには重く、長時間の使用は出来ないだろう。
とは言っても一般的な長時間は問題無い。
剣を受け取ったシトリスは、軽く持ち上げたり下げたり、刀身を見たりと確認をする。
「……少し短い?」
「相手は基本的に大人となるから、相手の懐で振りやすい長さにしてあるよ。それと、出発の時にこれを背負ってるのに巻いといて」
「うん」
グランシャリオに巻く用の布も渡し、これでシトリスの準備は整った。
剣もそうだが、この布も作るのに相当手間取る事になるとは思わなかった……。
とりあえず試作として作ったのをシトリスに渡したのだが、あっさりと切れてしまったのだ。
割りと頑張って作っていただけあり悲しかったが、俺が思っていたよりもグランシャリオの切れ味は良かったようだ。
なので二度目は質を上げてみたのだが、星を一つ光らせた段階で弾けとんだ。
珍しく挫折しそうになったが、こんな事もあろうかとクラリアに軽く相談して物を用意してもらっていた。
二回目の段階で時間が結構ギリギリだったが、クラリアに用意してもらった精霊が好む布のおかげでなんとか間に合った。
いや、強度の確認は出来ていないが、クラリアが作ったものなので大丈夫だろう。
駄目だったらクラリアのせいにして後で煽ろう。
「今度は大丈夫なの?」
「多分ね。駄目だったら勇者が乱入してくるかもしれないけど、まあその時はその時で」
「どうにかしてくれるの?」
「尻拭いはするさ」
互いにメリットがあるが、元はと言えば俺がお願いした事なので、最悪の場合は俺も手を回すつもりだ。
まあ勇者さえ出て来なければ、仮にグランシャリオがバレても問題はないだろうと踏んでいる。
こればかりは王都に着いてから情報収集をしなければ何とも言えないが、俺の知名度は高いがグランシャリオの知名度はそんなに高くない感じがする。
この考えに至った理由だが、なんて事はなく、俺自身が剣聖や賢者の使っていた武器についてそこまで覚えていないからだ。
見れば直ぐに分かるが、今は若干うろ覚えである。
あれから十年以上経っていて、表に出ていないのでグランシャリオを見られても当時俺と直接戦った人間くらいしか分からないだろうと結論をだした。
「ふーん。分かったわ」
「向こうに着いたら柔軟運動を多めにして、ギルドの依頼を適当に受けてて。落ち合う日にちはこの前話した通りで。偽名は覚えてる?」
「大丈夫よ」
よしよし。シトリスの件はこれで問題ないな。
シトリスならば道中で盗賊に襲われたとしても既に返り討ちに出来るし、魔物も空からグリフォンやドラゴンでも落ちてこない限り問題ない。
「なら今日はこれで帰るよ。また向こうで」
「うん。またね」
さて、帰ったら今度は自分の方の用意をしないとな。
念のため用の変装用具に、二重底の鞄。
お小遣いとは別の財布。
あの父上だし、何かしら事件に巻き込まれる可能性は高いので、用意しておいて損はない。
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シトリスは帰っていくヴィンレットの姿が見えなくなるまで眺めていた。
『なんとも甲斐甲斐しいねぇ。それと、それなら大丈夫そうだな。よくこの短時間で用意したもんだ』
(あれがツンデレってものなの?)
『いや、どちらかと言えばただの親って感じだな。まあ、やることは鬼畜だったけどな』
(思い出させないで……)
いざ大会に出ると決めてからシトリスの日常は、それはもう過酷なものだった。
何度か辞めたいと思いながらも、なんとか乗り切ったが、同じことは二度としたくない。
『あれでもマシな方なんだぜ? あいつの時はそれこそ一歩間違えば死ぬ感じだったからな。あいつは頭の回転は良いが、それ以外はマスターの方が上だろうな』
(信じられないなー)
『おいおい。これでもあいつとは長い付き合いなんだぜ? まあ手に入れる前に何をしてたかは知らないが、あいつの全ては努力の上で成り立っている』
シトリスは今のヴィンレットしか知らないので、グランシャリオの言い分が全く信じられなかった。
魔法が使えて剣も強く、更に何でも出来て知識もある。
嫉妬はしないが、羨ましいと思った事は何回もあった。
だがこの一巻の布を作る時に、いつもとは違うヴィンレットの表情を見る事が出来た。
その結果、全く信じられはしないものの、ヴィンレットも頑張っているんだなーと、思う程度にはなっている。
『だからじゃねぇが、強くなるには努力するしかねぇってわけだ』
(分かってるよー……はぁ)
疲れからか重い身体を引きずる様に立ち上がったシトリスは、ヴィンレットから渡された剣を背負い、布を用意しておいた鞄へと入れる。
そしてクラリアに王都へ行くことを告げて、ヴィンレットに言われた通り、走って向かうのだった。




