第34話:人間は精霊の敵
精霊眼でクラリアがポーションを作る過程を見学したが、クラリアの言う通り面白い。
クラリア本人の技量も高いのもあるが、そのおかげでとても良い勉強になる。
薬草の選別から始まり、そこからの加工やフラスコでの調合。
俺ではここまでスムーズに作ることは出来ないだろう。
それに、精霊の扱いも流石というところだ。
俺の目では水属性しか見えないが、それでも扱いが上手いのがよく分かる。
「さて、これで出来上がりね。私が目指している物とは違うけど、既存の物よりも約二割増しの効果を望めるわ」
「これだけでも凄いと思うんだけど?」
「目指すならとことん上を目指すものよ。それで、どうだった?」
「とても勉強になったね。手際の良さは勿論、精霊魔法の違った使い方を学べたよ。水属性しか見えなかったけど、聞きたかった事の一つは解決もしたよ」
態々今日研究をしていたのは、俺にこれを見せるためだったと勘繰る位には良いタイミングだった。
「あら、もしかしてもうやっていたかしら?」
「ええ。やっぱり知られていた技術なんですね」
「単属性しか発現しないなんてまず無いからね。本にも書かなかったのに、よく気付いたわね」
やはりか。クラリアは低級精霊を複数使って威力を上げる方法を使っていた。
俺みたいに使えるだけ使うのではなく、必要最低限にしていたため他の属性も使っていた様だが、少し話を聞くとしよう。
「運が良かっただけだよ」
「それでもよ。ヴィンレットにはデメリットにはならないし、場所と相手次第では有利を押し付ける事も出来るわ」
…………ああ、なるほどね。けど、基本的に使われるのは契約精霊だけだし、精霊魔法使いにはあまり効果は望めない。
一応周辺を水の精霊で満たせば、水以外の魔法は弱まる。
精霊とは自然の具現であり、低級でも数が集まれば環境に影響を与えるのだ。
つまり、湿った空気は本来の鋭さを失い、水気のせいで火の威力は弱まる。
そして土は泥となり、脆くなるのだ。
そこまで大きな効果がある訳ではないが、小さな差が勝負に繋がる事もあるので馬鹿には出来ない。
「確かに相手と場所次第だね。そのポーションを飲んでみても?」
「良いわよ。ちゃんと感想を聞かせてね」
出来立てほやほやのポーションを受け取り、軽く味わいながら飲み干す。
使われている素材が安物のため、味自体は悪いが臭みやえぐみは一切ない。
効果の方は確かにこの前ダンジョンで飲んだ物よりも高く感じるが、流石に中級って程ではない。
言うなれば低級上位って感じだろう。
それと、効果の現れ方は完全に普通のポーションと一緒なので、クラリアにとっては失敗作か。
「ただのポーションとして見れば凄いけど、失敗作なんだね」
「まあね。出来ない可能性も有るけど、どうせ趣味だし、時間は幾らでもあるもの」
ハイエルフらしい考えだな。
人間は生が終わるのを恐怖しながら研究を続けるなんて奴がいるのに、クラリアにとっては一時の暇潰しでしかない。
まあそんな思考は賢者のせいで慣れているので、嫉妬や嫌悪をしたり、羨むこともない。
生き物は好きなように生き、理不尽に死ぬものだからな。
「今回使った薬草って外の森で取れた奴?」
「そうよ。水も井戸水をろ過したものだし、反応薬も市販のよ」
「それだけ普通の材料でこの味と効果とはね……本当に恐れ入るよ」
「だから隠れて暮らしてるのよ」
暇潰しの趣味で出来上がるのが数世代先の物なのだから、仕方ないと言えば仕方ない。
本人達も難しくて時間が掛かるものを選んでいるのだろうが、だからこそ出来上がったものは驚愕の物となる。
世間に発表する気が無かったり、やるだけやって満足するのが大半だろうが、ハイエルフとして人だ。
金が無いので成果を売ったり、ついうっかり残したままにしたりなんて事もあるだろう…………多分。
パッと見真面目そうなクラリアの言動がこれなので、俺の考えも完全に間違ってはいないだろ。
「これは一応貴族として聞くんだけど、領地に貢献してくれたりしない?」
「そうね…………ギルド員としているだけでも貢献している気もするけど?」
それを言われると痛い所だな。
こんな田舎のギルドに来てくれるギルド員なんて、ほとんどいない考えて良い。
聞く限りではギルドが建った時から居るらしい。
アリシアが居なければ、領地の発展はもっと遅れていた可能性すらあるのだ。
見ている限りしっかりと働いてくれているし、他のギルド員との仲も悪くない。
貴族視点で見ればとてもありがたい人材だ。
いや、本当に、マジで。
脅して精霊魔法を教わっている身だが、感謝しているのも確かだ。
「そこはギブアンドテイクだから含めないさ。勿論強要する気は無いし、何かあればやられるのはこっちだけ分かってるから、出来れば程度のお願いだけどね」
「あら、ちゃんと分ってるのね」
「なんでそんなに頭が良いのに、ボロを出したの?」
「……あまりにものどかな生活を送っていたせいで、気が緩んでいたのよ」
「良い領地で良い街でしょう?」
クラリアには悪いが、賢者……当時はハイエルフとは知らなかったが、エルフとの接し方は知っている。
まあ個人差はあるが、クラリアが呆れているのを見るに、正解を選んだようだ。
「そうね。税金も重くないし、王都や隣国からも離れているけど、お店屋や商品も充実しているわ。それに、自然もしっかりと残っているしね」
「領主の息子としては嬉しい言葉だね。後で伝えておくよ」
うんうん。あんな父上だが、息子として誉められて悪い気はしない。
そんな感じで頷いていると、クラリアはジッと俺の顔を凝視し始めた。
「どうかした?」
「いやね。ヴィンレットって貴族だったなー思ってさ。私が会ってきた貴族は、傲慢が服を着た連中ばかりだから、少し珍しいと思ってね」
「俺もどちらかと言えば傲慢側じゃない? 脅してるわけだし」
「あの程度は脅しじゃなくてお願いよ。困ったのは確かだけど。なんで精霊魔法が使えると思ったの?」
「俺の髪の色って珍しいでしょ? でっ、家の本を読んでいてもしかしたらと思ってね。まさかこんなに早く使い手に会えるとは思ってなかったけど、運が良かったよ」
正確には少し特殊な生い立ちだったので、ワンチャンあるのではと思っただけだが、本当に良かった。
それにあの賢者よりも頭脳派であり、しっかりと本として纏めてくれていたので、勉強もかなり捗っている。
少しばかり覚える事が多い気がするが、こればかりは仕方ない。
「私としては運が悪かったけどね。うーん。そうね。ヴィンレットが中級以上の精霊と契約する事が出来たなら、一回だけどんな事でも助けてあげるわ」
「それはありがたいね」
「これでも腕は勿論伝手もあるから、大体の事はどうにか出来るわ。まあ、精霊との契約がどれだけ難しいかはもう知っているとは思うけど」
ニヤリとクラリアは笑みを浮かべるが、その通りなんだよな……。
第一に、意思のある精霊は人の世から離れている場合が多く、探すだけでも一苦労なのだ。
更に言えば精霊の居る場所は魔力が濃いため、強力な魔物も生まれやすい。
なので辿り着くまで苦労する。
第二に精霊のほとんどは人間を嫌っている。
精霊と自然とは切っても切れない物であり、その自然を切り開いて生息域を広げている人間は精霊の敵と言っても過言ではない。
無論全員が全員って訳ではないらしいが、折角であった精霊から敵意を向けられれば、やる気も失うってものだ。
この時点で難しいのだが、更に精霊が好む装備品が必要となる。
俺はアリシアの本で知る事が出来たが、この装備品の事を知るのは中々難しいだろう。
知っていてもこれなのだから、何も知らない人間が精霊と契約するのはどれだけ無謀なのか……。
だからこそ、精霊魔法を使える人間は歴史に名を刻んでいるのだろう。
「なら精々頑張るとするよ。別に期限なんてないんでしょ?」
「いえ、五年以内よ。それを過ぎると私がいなくなる可能性があるわ」
五年……多分ギルドの転勤だろう。
それまでに結果を示すことが出来ないなら、他に行くってことか。
これについては完全に俺からのお願いなので、期限を延ばしてくれなんて言えない。
まあ五年もあればどうにかなるだろう。
賢者を取っ捕まえて責任を取らせれば良い。
最後は俺のコミュ力が試されるが、精霊側が嫌悪さえしていなければ多分どうにかなる。
最後はぶち殺されたわけだが、それでも様々な組織や国と表面上は問題なく付き合ってこられた。
多少性格が悪い精霊程度なら操るなんて容易い。
「五年ね。まあ確かに時間をかけている間に解決して欲しい問題が起こるなんて事もあるし、期限は大事か」
「ええ。だから精々頑張りなさい。応援はしてるわ」
「はいはい。因みにヒントとかあったりする?」
「そうね……この周辺に強い精霊は存在してないわ。それと、確か来年旅に出るのよね?」
「そうだけど、話したっけ?」
「ギルドで言ってたわよ。旅に出る時に良い物をあげるから、それをヒントにしなさい」
貰えるのはありがたいけど、一年後か……領地には良い精霊が居ないみたいだし、今貰っても意味がないので、一年後を楽しみにするとしよう。




