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ロストワーカー~騙された傭兵はヒモ生活を夢に見る~  作者: ココア


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第33話:新しいポーション

「来ましたよー」


 クラリアと約束した通り、朝から家に押し掛け、扉をノックしながら呼び掛ける。


 すると扉に水で入って来てどうぞと書かれる。


 もしやと思い精霊眼を発動すると、精霊魔法で書かれていた。


 中々器用だが、こんな使い方も出来るんだな。


 うーむ。最近は父上やステラの件もあり。少し思考が戦闘寄りになってしまっているな。


 もう少し思考を柔軟にし、ついでにゆっくりと休める日を設けるとしよう。


「来たわね」

「おはようございます。それは何をしているんですか?」


 前回お邪魔した部屋に入ると、クラリアは試験管やら魔術書やらを机に広げ、実験らしき事をしていた。


 ついでにメガネも掛けているので、中々知的に見える。


「精霊を用いたポーションの精製をしているのよ。通常のポーションよりも魔力の回復を早め、更に固定化する事で携帯性を上げようと考えているけど、中々上手くいかないのよねー」


 ……なんか思っていたよりも、めっちゃちゃんとした研究をしているんだな。


 今普通に尊敬の念を抱いてしまった。


 最近、男よりも女の方がしっかりしている気がするな。


 もしくは強かとも言うが、母上然りシトリス然り、更にはステラやクラリア。


 皆しっかりとしている……シトリスは微妙だが。


 しかし、ポーションの研究か……学びたいと思っていたのでこのまま教えてもらうのもありだが、精霊魔法の件でも聞きたいことが山程ある。


 悩むところだが…………。


「なるほど。良ければ少し話を聞いても?」

「別に面白いものじゃないわよ?」

「ポーション作りにも興味があるので。それに、精霊が関わっているならもしかしたら自分の魔法に役立つかも知れないしさ」


 俺はポーションの方を選ぶことにした。


 精霊魔法はどうせ契約した精霊がいないので、先日ダンジョンで使った方法がどれだけ有用なのかと、もしも俺の知らないデメリットがあるならば聞いておこうと思ったし、山程の中でも重要性が高いが、これについては問題あるのか無いのか聞ければとりあえずそれでいい。


「そう。まあその歳で問題なく精霊魔法が使えるヴィンレットなら構わないわ。そもそもだけど、通常のポーションの作り方は知っている?」

「はい。作るのも見た事がありますし、初歩的な物は一応作れます」

「えっ、本当に?」

「はい」


 初歩的な物は作ろうとすれば誰でも作れる。


 だが初歩的な物だからこそ効果や味が出来によって大きく変わる。


 使う薬草の状態もそうだし、水にも気を使う必要がある。


 更に煮る時間や温度。冷ます時間だって重要だ。


「貴族の子が知っているのは驚きだけど、ヴィンレットだものね」

「誉め言葉として受け取っておくよ。なんならそこの材料で作ろうか?」

「材料を見て作れると判断できるなら信用出来るわ」


 それは良かった。


 本当に初歩的な知識がないので、ちゃんとした物が作れるか少し不安だった。


「おほん。概要はさっき話したけど、原理としては精霊の持っている力を付与する事により、ポーションだけからではなく空気からも魔力を補給するって感じよ。単純にポーションの効果を高めるなら希少な薬草を使えば済む事だけど、それじゃあ芸が無いでしょう?」


 確かに良いポーションを作りたければ良い素材を使えば済む話だが、良い素材とは数が少ないのが相場であり、更に言えば良いポーションを作るのは大変らしい。


 普通のポーションの効果をあまり手を加えることなく上げる事が出来れば、とても凄い事だろう。


 仮に多少手間でも、それでワンランク上げられるならば、かなりの金になりそうだ。


「精霊の力……魔力の吸収のこと?」

「ええ。人から人に魔力を渡すのはロスが多いけど、人から精霊にはロスなんてないでしょ? なんなら空気中の魔力だって吸収して糧にしているから、上手く組み合す事が出来れば……いいんだけどね」


 がっくりとクラリアは肩を落とす。


 あくまでも理論上であり、まだ物としては出来上がっていない。


 でなければ研究なんてしていないだろう。


 しかし、精霊を使ったポーションか……いや、良いのか?


 まあ精霊と言っても自我がほとんどない低級精霊を使うだけだろうし、多分大丈夫なのだろう。


「何か読んでも良い研究資料とかある?」

「これよ。精霊眼でしか読めないようにしてあるから注意してね」

「ありがとう」


 精霊眼でしか見えない文字とは、また面白い技術だな。


 さて…………ザックリまとめると、どのタイミングで精霊を付着させるのかと、どの様に固形化するのかを主軸に置いて研修を進めているようだ。


 それと固形化も飴タイプなのか、タブレットタイプにするのかについても書かれている。


 タブレットタイプは一度乾燥させ、それを固めて作るため手間が掛かるが、使う際の即効性に優れている。


 飴タイプは作る事が簡単だが、ポーションの味が口の中に残り、更に効果が出るのに時間が掛かる。


 どちらにも大きなメリットとデメリットが存在するが、売る事を考えるならば飴タイプ一択だろう。


 技術的にタブレットタイプを作るのには時間が掛かり、俺の持っている異世界の知識でもそんなコアな情報は分からない。


 まあ個人用として作るのはありかもしれないが、そもそもまだ成功していないので、考えるだけ無駄だ。


 おそらくだが、効果を高めるだけならばなんとかなるだろう。


 だが、それはアリシアが目指している物とは違う。


 ありきたりな材料に、ちょっと一手間を加えるだけ。


 そして出来れば最低限の設備で調合出来ること。


 ブラック企業みたいな考えだが、掲げる目標としては最難関と言っていい。


 既に色々と試しているようだが、異世界の知識で使えそうな物は…………。


「素人意見だけど、使う薬草をしばらく精霊魔法で作り出した水に浸けてみるのはいかがでしょうか?」

「……それは確かにまだやったことがないわね。他にはあるかしら?」

「他には……かき混ぜる際にヘラではなく風の精霊魔法を使ってみるとかどうかな? ただ、固形化する際の効果についてはやってみないことには何も言えないね」


 そもそも固形化については完全に新しい概念だ。


 基本的にポーションは全て液体であり、固形化しての使用なんて考える人間はいないだろう。


 なにせポーションの売りは即効性だからな。


 ポーションの価格が高いのもあるが、ポーションを使うのは基本的に緊急時となる事が多い。


 そんな時に悠長に飴を舐めて回復なんてしてられないだろう。


 良いポーションならば舐め始めた段階で相応の効果をもたらすだろうが、効果が低いものでは効果は望めず単なる価格向上させるだけとなる。


 ついでに、飴にする場合は混ぜ物をするので効果そのものも薄くなる。


 なので固定化するなんて事は基本的にしないのだ。


「うーん、やっぱり固形化は課題かなー」

「ポーションに求められる事を考えれば、いくら携帯性が良くなっても、効果が伴わないとね。タブレットならその点問題はないけど、価格がね」

「そうなのよねー。まだ通常のポーションとしても出来上がっていないけど、やっぱり無謀かしら?」

「やってみない事には何とも。なるべく手伝うからさ、成功したら作る権利をくれない?」

「作り方次第だとヴィンレットじゃ作れないわよ」

「下位互換でも作れれば儲けものだよ。それに画期的だし、高くなる前に買っておく方が良いと思ってね」


 場合によっては火と水と風の精霊魔法が必要なんて事も考えられるが、それでも製法と権利を知っておいて損はない。


 ついでに俺が知っている、低級以外のポーションの作り方もこっそりと学ぶ気である。


 馬鹿正直に教えてくれというよりは、こっそりと盗み見て覚える気だ。


「まあ別に良いわよ。どうせ作れるのなんてエルフ位だろうし、あまり需要自体はないでしょうから」

「どちらかと言えば需要より配給じゃない? 前提条件が精霊魔法だし」

「需要で合ってるわ。だって成功しても広める気はないもの」

「あー、単純に趣味ってこと?」

「それもあるけど、身バレの可能性もあるからね。なんなら、成功したら全部譲っても良いわよ?」


 クッ、中々魅力的な提案だが、貰ったとしても使い道がない。


 広めた場合俺の背後関係は探られるし、俺が精霊魔法を使えるなんて疑惑が浮上する可能性がある。


 個人用やちょっとした贈呈。小金を稼ぐ以外で使う事は無い。


 なので全部譲られても困るだけだ。


「そこまでは必要ないよ。それに、精霊魔法の希少さを考えれば、俺の身が危険になるしね」

「あら、ちゃんと分かってるのね」

「そりゃあね。よくよく考えれば、言った通り下手に表に出す事もできないし、確かに趣味の域を出ないね」


 クラリアは研究が成功したら広めるものだと思っていたが、そうすればギルド員として働くのは難しくなる可能性がある。


 流石にハイエルフとバレる可能性はないだろうが、こんな田舎の生活を気に入っているのに、画期的なポーションを発表すれば間違いなく国に呼ばれるだろう。


「折角だし、作るのを精霊眼で見ていなさい。少しは面白い物が見えるはずよ」

「それじゃあお言葉に甘えて」


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