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ロストワーカー~騙された傭兵はヒモ生活を夢に見る~  作者: ココア


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第28話:シトリスへのお願いとプレゼント

「おはようシトリス。とりあえず座ろうか。飲み物も用意してあるよ」

「うん?」


 ステラの策謀に嵌められた次の日。


 ギルドにて紅茶を飲みながらシトリスが来るのを待っていた。


 そしていつもの様にやって来たシトリスを座らせ、用意しておいたジュースを渡す。


 そしてジュースを飲むのを待ち、切り出す。


「飲んだね」

「えっ、うん」

「実はシトリスにお願いがあってね。シトリスにとっても悪い話じゃないよ」

「……」


 微妙に嫌そうな顔をするシトリスだが、残念ながらシトリスに断ることは出来ない。


「二ヶ月後に王都で剣術の大会があるんだけど…………出てもらえない?」

「……どうしても?」

「どうしても。まずは話を聞いて」


 今日の朝街に来る途中で考えた事をシトリスに話す。


 そんな大層な事ではなく、ちょいとうちの父上が出るからちょいと戦ってもらえない? ってものだ。


 ついでに父上と戦うまでは本気を出してはいけない事と、最低限身分がバレないように取り計らう事。そして、受けるなら訓練に割く時間を増やす。


 まあ断らせる気は無いので決定事項だがな。


「どうせ顔を知っているのは勇者くらいなんだろう? 腕試しにも丁度良い」

「……分かったけど、私が勝てるのかな?」

「その為の訓練さ。ポーション代がかさむ事になるけど、幸い金はあるからどうにかなる」

「えっ?」


 筋肉や身体の強化を考えるなら、ポーションを使わずに自然治癒の方が良いのだが、技量を上げるだけならばポーションで無理矢理身体を治しながらの反復練習が一番手っ取り早い。


 少しシトリスの顔色が悪くなったが、人間血涙や血尿を漏らしたくらいでは簡単にはショック死しない。


 それに、魔法があるので汚れても綺麗にすることが出来る。


「それじゃあダンジョンに行こうか」

「えっと、何するの?」

「死なないでくれよ。死ななければなんとかなるから」


 立ち上がり、シトリスの肩を叩いてから先にギルドを出る。


 今日のダンジョンは運が良い事に、低層にしか冒険者がいない。


 なので少し奥まで行けば、いくら叫んでも誰にも聞こえる事は無い。


 俺も疲れるから仕方ないが、大会までは二ヶ月後だが、王都にはその前に出発しなければならない。


 更に言えば疲れた身体と心を癒す時間を考えれば、ざっくり一ヶ月しかない。


 やる気はあると言っていたし、音を上げる事は無いだろう。







1








 最低限魔物を倒してから、先日みたいな温い訓練ではなく、実戦での訓練を二時間程してみたが……。


「……まだ……ま……だ」

「はいストップ」


 上級ポーションをシトリスへとぶっかけ、蹴って壁まで吹き飛ばす。


 若干水を含んだ様な音を立てながらシトリスは壁にぶつかり、地面へと倒れる。


 その手にはしっかりとグランシャリオが握られたままなので、初日にしてはまあまあだな。


 今日持ってきた最後の一本である中級ポーションをシトリスの口に突っ込み、飲み終わり次第洗濯用の魔法を使う。


 血以外にも色々な液体で汚れているため、念入りに洗い流す。


 窒息しないように口と鼻だけは塞が無いようにしながら顔や髪も綺麗にし、最後にしっかりと乾燥させる。


「生きてるかー」

「……終わり?」

「今日はな。感想は?」

「本に書かれていたことが本当だったで本当に理解した……」


 何度か弱音を吐いたり尊厳を吐いたりしていたが、目は死んでいないようだな。良かった良かった。


 本とやらが気になるが、どうせろくなことが書かれていないのは確かだろう。


「前も話したけど、一対一なら視線は一番気をつけないとだね。反応速度は悪くないから、やっぱり駆け引きの経験かなー」


 斬ることに迷いは無いが、またまだ剣が素直すぎる。


 グランシャリオを十全に使えるならそれでも構わないが、格上を相手に技や駆け引きも出来ないなんて話にならない。


「それと、まだまだ足が駄目だね。ちゃんと走ってる?」

「毎朝走ってるわ」

「ふーん。まあランニングについてはやり方を教えるよ」


 持論になるが、戦いにおいて最も重要なのは足となる。


 足がなければ動くことは出来ないし、待ち以外で戦う事が出来ない。


 そして動く事が出来なければ剣士なんてタダの物置だ。


 だが腕は無くてもわりとどうにかなる。剣を持つことは出来ないが蹴りで人は殺せるし、汚いが口で剣を持つ事も出来る……まあこれについては昔実戦でやった事があるので、実見談なのだが。


 腕を落とされたのではなく粉砕骨折だったのだが、あの時は本当に苦労した……。


「身体の調子はどう?」

「あまり痛くはないけど、なんだか身体が重い……」

「ポーションの副作用だね。戦いの時ポーションを使うなら、戦いの途中じゃなくて終わった後に使うのをお勧めするよ」


 昔は不思議に思わなかったが、ポーションで傷が治るのは一体どんな原理なのだろうか?


 回復魔法もそうだが、細胞の活性で治しているって訳ではないのは、なんとなく分かる。


 細胞の活性化なら、俺は殺される前に死んでいただろう。


 阿保みたいにポーションや回復魔法を受けていたからな。


 ポーションの成分が作用して細胞の代わりになっているとは思うが、掛けても飲んでも作用するし、骨折が治る理由が分からない。


 記憶にある科学的な物で考えるだけ無駄なのだろうが、とりあえず魔力のおかげと思っておけば良い。


「……私、強くなったかな?」

「同じ位の冒険者が居れば腕試しとかできるんだけど、こんな田舎だとね……」


 街にはギルドに登録している人はそれなりに居るが、完全に二極化している。


 完全な初心者か、現役を引退して細々と暮らしているかのどちらかだ。


 生活の糧としてこのダンジョンを使っているのだが、初心者は本当に初心者なので比べることは出来ず、引退している人達と比べるのは少し違う。


 同じくらいの年齢でそれなりに経験がある若者が居れば良いのだが、探すならロックシューターまで行かなければならない。


 仮想的は父上なので、そこらの冒険者ではなく騎士とかと戦えれば一番良いのだが、領地内では父上に話が行ってしまうので出来れば避けたい。


「それじゃあ帰ろうか。……ああ、次からは着替えかローブも用意しておいた方が良いかもね。その恰好で外に出るのは危ないだろうし」

「えっ……」


 俺が何を言っているのか分からない反応をシトリスはするが、自分の服がどうなっているのか理解して、次第に顔が赤く染まる。


 どうやらちゃんと羞恥心はあるようだな。


 叫ばれるのも嫌なので、着ているローブをシトリスへと投げてやる。


「それあげるよ」

「あ、ありがとう……」

「ボロボロにしたのは俺だからね。大会で良い成績を残せばそれなりに見返す事も出来るだろうし、気張っていこうか」

「…………うん」


 おい、今の溜めはなんだ? さては、目的について忘れてしまっていたのか?


 ……まあ良い。大会に出てくれるのならば、後は俺がどれ位鍛えられるかだ。


 ついでに、あれも渡しておくか。


「それと、そのローブのポケットにある奴をあげるよ。訓練がある時は着けてこないようにね」

「えっ、これって……」

「髪飾りだよ。大体の攻撃を二回までなら防いでくれるよ」

「あ……えっと、貰って良いの?」

「そのために作ったからね。ほら、着たら帰るよ」

「うん!」


 死に掛けのゾンビから、ウサギにランクアップしたな。


 部下……いや、従順な下僕を従える際に必要なのは、飴と鞭だと記憶にある。


 シトリスには弱みを握られてしまっているが、だからこそこの飴と鞭の使い方は良く考えなければならない。


 どうあっても逃げる事は無いだろうが、いくらステータスが上がってもやる気が伴わなければ意味がない。


 やる気のないドラゴンはゴブリンにすら倒されるのだからな。


 一ヶ月の内三分の二はこのまま赤字の訓練を続け、残りは基礎訓練をする感じで進めるとしよう。


 それと、武器の発注もしておかないとな。


 出来れば屋敷の武器庫にある剣をシトリスに渡せれば一番良いのだが、父上にバレてしまう可能性がある。


 なので、それなりに頑丈でグランシャリオの代わりになる剣を用意したいが……切れ味を無視すればなんとかなるかな?


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