第27話:家族会議
「ねえ兄さん。一体どういう事?」
「俺にも何がなんだか。どうやら父上の爵位についての話みたいだけど、どうしたんだろうね」
こそこそとジオが話しかけてきたので、質問にこそこそとわからないと答える。
いや、知ってるけど関わりたくは無いので、こう答えるしかない。
「父様は爵位を上げたくはないのですか? 私は父様ならば出来ると信じています。母様はどう思われますか?」
「そうねー。来年までは流石に厳しいと思うけど、数年以内なら確実に上げられると思うわ」
「そうは言うがな……爵位が上がればその分納めなければならない税金も増えるし、今以上に領地を増やす必要が出てくる。なんとか黒字の今の状況だと、赤字になる可能性が高い。近場でダンジョンが新しく出来たりすれば大丈夫かもしれないが……中々うまい話は無いからな……」
父上は顎を擦りながら悩ましげにするが、俺も父上の意見に賛成だ。無理に見栄を張るようなことをすれば、苦労するのは父上だけではなく、領地に住む全員だ。
あんな初心者向けのダンジョン一つと、領地のやりくりで常に黒字にしているのは凄いことなのだ。
貴族らしい贅沢を全くしていないってのもあるけれど。
「はいこれ」
「なんだ?」
「読めばわかるわ」
そんな悩んでいる父上に、母上は一枚の紙を渡した。
紙を広げて読み始めた父上は驚いて固まり、今度は嫌な顔をし始める。
一体何が書かれていたんだ?
「これに書かれているのは本当か?」
「勿論。それと二ヶ月後にあるそれに参加すれば、問題無いんじゃない?」
「それは……いや、無理じゃないか? もう現役を引退してから何年経ってると思ってるんだ?」
「あの日から随分鍛え直して居るし、別に優勝を目指さなくても大丈夫よ。三位以内に入れれば、褒賞金が手に入るし、子供たちにも自慢できるわよ」
「……全くお前には敵わんな。――ステラ」
「はい」
なにやら父上は覚悟を決めたようだが、そんな覚悟はゴミ箱にでも捨てて欲しい。
何事も安全第一。三歩進んで二歩戻る位慎重に進めた方が良い。
本当に……マジで。
「これは親としてではなく、一王国貴族として話すが、身分とはとても厳しく難しいものだ。公の場は勿論、私の場合でも下手な事を言ってはならない。貴族は国のために働くのは勿論だが、自らの立場を上げる事に人生を賭けている。我儘を言うのは構わないが、貴族としての我儘はこれ以降一切禁止する」
「それでは……」
「運が良ければ、半年後には決まり、一年以内のは子爵になれるかもしれない。運営費の当ても出来てしまったからな」
仕方ない様に笑みを浮かべるが……えっマジ?
「父上。あまり無理をしない方が良いのではないですが? 詳しくは知りませんが、本格的に攻撃を受ける可能性もありませんか?」
一瞬ステラが凄い目で睨んできたが、将来に響くならばしっかりと考えて欲しい。
たたでさえ成り上がりと言われ、一部の貴族から嫌われているのに、更に火種を巻くのはあまりにも無謀だ。
父上が最初に言った通り、後十年位してからならばしっかりと地に足がついた経営となっているし、子爵になったとしてもやっかみは少い。
だが、今は時期早々としかいえない。それと、俺は頑張りたくない。
妹のために頑張るのが兄かもしれないが、学園に圧力を掛けられる程なんて相当無理をしなければならない。
兄にだって限度がある……いや、子爵になったら頑張ると言ったけどさ。
「色々とあるが、どうやら領地内にもう一つダンジョンが発見されたようでな。マーガレットが主体となって調査中だ。早ければ来月には国とギルドに報告し、正式に稼働を始めるだろう。それと、二ヶ月後に王都で開かれる大会に出て上位に入れば、功績と資金が手に入る。そうすれば手元の金で領地を増やし、そのまま黒字経営も可能となる。無理なくな。他の貴族からも、大会に勝ったとなれば、圧力も掛けられないだろう」
おいおいおい。そんなもの俺はどちらも知らないぞ?
特にダンジョンについては…………ああ、見つけたから俺を関わらせないために遠ざけたのか。
あまりにも露骨だったが、ダンジョンに通うようになったからだと思ったが、違ったみたいだな。
安全な方のダンジョンに通っているのに、危険な可能性があるダンジョンを教えたくはないもんな……。
しかし大会か……父上は上位に入ればと言ったが、つまり入れなければ資金と功績が足りず、子爵を諦めるって事だ。
だからと言って俺が阻むなんて事を…………したとしても家族なので、結局父上の功績になってしまうか。
いや、まだだ。まだ諦める段階ではない。
「なるほど。問題ないのでしたら俺からは何も。どうせ出て行きますし、帰ってきたら家が無くなっていたなんてことにならないなら、手伝うだけです」
「お前という奴は……」
「……ふぅ」
よし、とりあえずステラからの誤解は解けたようだが、どうすれば良い?
ダンジョンについては俺は何も出来ない。
なんなら訓練も兼ねて潜り、領の利益を上げることになる。
なので出来るとすれば大会をどうするかだが……。
「ところでその大会ってどんなの?」
「王都で開かれる剣術のみの大会だ。市井から人材を発掘するための大会でもあるが、現役を退いた貴族なんかも出てくるので、中々厄介だな。折角だから、ヴィンレットも出てみるか?」
「父上や大人も出る大会に出ても、勝つことは出来ないので遠慮しておきます。目立ちたくも無いですし。その代わりと言ってはなんですが、俺も一緒に王都へ行っても良いですか?」
何をするにしても、俺も大会のある王都に行かなければ何もすることは出来ない。
父上は悩みながら母上に目配りをして、母上は小さく頷いた。
「そうだな……よし、ヴィンレットとジオレインは付いてくる事を許可しよう。いい経験になるだろうからな。ステラは今回留守番だ」
「……分かりました」
とりあえず同行は出来そうだが、どうしたものか……。
単純に父上を参加させないだけならばいくらでも方法はあるが、父上が憎いとか、死ぬ程嫌って訳ではないので、直接手を出すのは憚られる。
…………そう言えばシトリスが居たな。
今の状態では万が一にも勝ち目は無いが、初見殺しに特化すればワンチャンあるか?
多少地力はあるし、その精神性は昔の俺に近い。
なんとか父上に当たるまで技を隠せれば、倒せる可能性はある。
俺も父上の本気を知らないが、殺し合いではなく試合なら……。
面倒だが、後の事を考えればまだマシだろう。
「それじゃあ俺は先に部屋に戻るよ。明日は早く起きないといけないからね」
席を立ち、自室へと戻る。
シトリスの強化が急務だが、それ以外にもやらなければならないことがある。
父上の本気の確認。大会の詳細の確認。シトリスのやる気の確認。
逃げてきたシトリスが再び戻りたいと思う可能性は低いので、どうにかやる気を出させる必要がある。
聞く限り知り合いはいないみたいだが、勇者本人が出しゃばってくれば流石にばれるだろうし、グランシャリオもこんな田舎ならばともかく都会である王都で曝すのは不味い。
うーん。技を考えればグランシャリオを使わせたいが…………刀身に布でも撒いておけば大丈夫か?
一応布を丈夫にする方法も知っているので、予備の剣と決戦用に布を巻いたグランシャリオがあれば、戦いは問題無い。
幸いロックシューターの件で金には余裕はあるし、ダンジョンに行く時間を減らし、シトリスの強化に時間を当てるとしよう。
後は……「駄兄」……おっと。
ベッドに寝っ転がりながら考え事をしていると、ノックも無しにステラが入って来た。
多分来るだろうと思っていたが、早かったな。
「どうしたんだいステラ?」
「約束――守ってくれるのよね?」
おお、まるで母上の様な威圧感があるな。
俺としては高が主席。たかが一位でしかないが、ステラの中では特別な想いがあるのだろう。
俺も約束が果たされたならば腹を括るが、まだなんとかなると信じたい。
「勿論さ。俺が家を出て行く前に子爵になることが出来れば、それだけ動きやすくなるし、ステラの入学までには学園に伝手を作れる。一流石に王族は無理だけど、実力で勝負が出来るようにはするよ」
まだまだ先の事なので方法については何も考えていないが、俺ならばなんとか出来るだろう。
「それなら良いわ。それじゃあね」
「ああ。あまり夜更かしはするなよ」
「分かってるわ」
軽く微笑み、ステラは部屋を出て行く。
……今日は早めに寝るか。
あれでまだ五歳なんだよな……俺と違って転生しているとか……いや、まさか……な。




