第26話:全部母上が居てくれたおかげ
即答で無理と言ったが、別に俺も意地悪で言ったわけではない。
せめて家が伯爵や辺境伯位ならば可能だろうが、男爵では厳しい現実というものがある。
今の世の中……と言うよりは世界的にこの世は身分が全てだ。
仮に俺がスラム産まれの孤児ではなく、王族だったならば、あんな最期を迎える事は無かっただろう。
それ位身分というものは大事だ。
まあ無理とは言ってしまったが、可能性は一応ある。
ステラの入学する年に公爵以上が居なければ、もしかしたら首席になれるだろう。
だがいた場合はステラが全て満点だったとしても、間違いなく主席ではなく次席。或いはそれ以下にされる。
確か学園は成績ごとにクラス分けされているので、Sクラスに入りたいって願いなら簡単なのだが、首席はなぁ。
まだ幼いステラに現実を突きつけのは酷かもしれないが、ここは話すしかないだろう。
「多分勘違いしてるけど、学力や魔法については死ぬ気で頑張れば何とかなるけど、身分による贔屓がある以上、そう簡単にはなれないのさ」
「……結果だけじゃ駄目って事ね」
「首席で卒業ならまだ可能性はあるけど、入学は厳しいよ。それに、下手に目を付けられると何があるか分からないのが貴族だ。お茶会とかで見た事はない?」
「……あるわ」
「贔屓目に見ても、ステラなら学園でも上位に入れると思うよ。けど、権力に真っ向から歯向かったらどうなるのか分かるでしょ?」
ここまで話したが、それでもステラの目からは光が失われていない。
その負けん気は一体誰に似たのやら……。
「そんな目で見られてもねぇ……。せめて子爵になれれば、俺も少し頑張ってあげようとは思うけど、あの父上の爵位がそう簡単に上がると思う?」
俺のやる気は残念ながら無いが、せめて子爵ならば色々と結果を残して、学園へと圧力をかけられる何かを手に入れられるかもしれないが、流石に男爵では領地外での力は弱く、どう頑張ってもステラの入学には間に合わない。
厄災クラスの魔物や魔王襲来とかあればまた変わるが、力方面での成果はなるべく出したくない。
「……つまり、それさえクリアすればどうにかなるのね?」
「一年位したら旅に出るからそれまでに上がれば多分ね。後はステラの頑張り次第かな」
いくら周りが頑張ったとしても、最終的にステラが結果を出さなければ意味がない。
ステラならば可能性はあるが、並大抵の努力では足りない。
可哀そうだが、これが現実ってやつだ。
もしも本当に父上が子爵に上がったならば、俺も昔の伝手で何とかしてやっても良いが、無駄な考えだ。
「――分かったわ。けど、今の言葉を忘れないでね」
「勿論さ。これでもステラの兄だからね。叶えられる状況になったら、叶えてあげるよ。だから、この件はよろしくね」
「ふん」
そっぽを向いたステラは、屋敷の方に歩いていった。
正直少し心配だが、ここまで来られたのなら帰ることも問題ないだろう。
あれだけの啖呵を切ったのだし、ここは見守るとしよう。
さて気を取り直して、試作は成功したのでシトリス用に一つ髪飾りを作るとしよう。
一度問題なく作動するか確認しておきたいし、日常で使用した時の耐久も知りたい。
シトリスの髪は銀髪なので、色は金で良いか…………まあメッキや塗装は流石に外部に委託となるので、決めた所で俺は何もしないのだが。
小屋へと戻り、色々と準備をして適当に作り始めたが……うーん。
あれだな。腕輪やペンダントなたばともかく、髪飾りはかなり難しいな。
小さすぎれば目立たないし、かと言って大きすぎれば邪魔になる。
ティアラを作るには流石に宝石の数が足りないし、そもそもティアラは目立ちすぎるので今回は駄目だ……いや、シトリスになら構わないのだが、ステラにはプレゼントが出来ない。
仮にプレゼントをしたとしても、家の外ではほとんど使えない。
ティアラはアクセサリーの中では格が高く、男爵家の者がした場合何を言われるか分からない。
貴族の面倒な所だが、格に合った装いをしなければ、上にハブられてしまうのだ。
とりあえずシトリスのはグランシャリオをモチーフにした、星座っぽい髪飾りで良いか。
星座なんて俺の知る限りこの世界には無いけど。
「まあ、こんなもんか」
何時間位掛かったか分からないが、夜になる前に完成品が出来た。
二、三回割れたりしてしまい作り直したが、とりあえず次第点を越えた出来と見て良い。
後はどこかの鍛冶屋でメッキと塗装をすれば終わりだ。
知識としてメッキのやり方を知ってはいるが、メッキに使う器具がこの世界の物とは全く異なっているのと、その器具や薬剤についての詳しい知識までは無いため、こればかりは他に頼むしかない。
やる事をやったので、完全に日か沈む前に屋敷へ向かって全力ダッシュする…………前にしっかりと小屋の中を片付け、本も隠しておく。
「おっ、今日は帰ってくるのが遅かったな。どこか出かけてたのか?」
「森で寝てたらいつの間にかこんな時間になっていてね。父上はちゃんと仕事をしてたの?」
「それは……まあな……」
「しているなら良いですけど、あまり母上に迷惑を掛けないでね。俺は夕飯の前に身体を洗いに行ってきます」
珍しく屋敷の廊下で父上とすれ違ったが、反応が妙だったな……。
いつもなら自信満々に仕事をしていると答えるか、挙動不審な感じの返事をするのだが、今日は妙に歯切れが悪かった。
まあ何かあれば母上がどうにかしてくれるだろうし、身体を洗ったら夕飯の時間までお手玉でもしていよう。
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「兄さん夕飯の時間だよ」
「ジオか。珍しいね」
「たまたまお母さんにお願いされてね。何をしているの?」
「お手玉。中々上手いでしょ?」
周りにいくつかウォーターボールを浮かべ、それプラス三つのウォーターボールでお手玉をしていると、部屋にジオがやって来た。
いつもならメイドか母上が来るのだが、本当に珍しい。
「凄いけど……全部魔法なの?」
「勿論」
単純にお手玉出来る数も大事ではあるけれど、周りに形を維持させておくだけのウォーターボールを出しておくだけでも訓練になる。
出来ればジオにもこれを教えてやりたいが、火属性でお手玉をするのは危険なのと、この方法での魔力コントロール訓練は実質的に水属性限定となる。
質量があり、それでいて不安定でありながら、触れても問題ない。この三つを満たすのが水属性だけだからだ。
土属性も出来ない事はないが、水属性に比べれば効果が薄い。
これに気付いたのはステラに教えてからなので、ジオに教えて大惨事なんて事にならなくて良かった。
「よいしょっと。それじゃあ行こうか」
「うん。あっ、そう言えばステラの様子がおかしかったんだけど、兄さんは何か知ってる?」
ウォーターボールを全て消し、部屋を出るタイミングで変なことを聞いてきた。
俺との会話が原因だとは思わないが…………はて?
「そう言えば父上も少し様子が変だったね。もしかして喧嘩でもしたのかな?」
「うーん。そんな雰囲気じゃなかったけど、一体どうしたんだろ?」
既にステラは反抗期なのだが、早い反抗期かもねーなんて話ながら食堂に入ると、ステラに睨まれて小さくなっている父上と、そんな二人を見て呆れている母上が居た。
母上の前では絶対に猫を被っているステラが、感情的になっているのは中々珍しい光景だ。
「来たのね。それじゃあ頂きましょう」
「ああ、そうだな」
座って夕飯を食べ始めるが、妙に空気が重い。
俺が髪飾りを作っている間に何があったんだ?
「お父様」
「な、なんだ?」
ほぼ無言で食事も終わり、食後のティータイムに入ろうとしたタイミングでステラが父上を呼んだ。
当の父上は逃げようとしていたがステラに呼ばれたのと、母上に睨まれて席から立つことは叶わなかった。
「件の事ですが、私は父様ならば出来ると思っているのですが、どうしてでしょうか?」
「それはだな……」
「子供の前なんだから、ちゃんと話しなさい」
煮え切らない父上を母上が叱り、俺とジオは紅茶を飲みながら父上を眺める。
「平時に爵位を上げるのは、とても大変な事なんだ。男爵になってからまだ十年も経っていないし、戦争が起きたとしても送れるような兵力の無いこの領地だと、魅力としても低い。分かってくれるかい?」
……………………どうやら俺のせいで父上が苦労しているようだな。
ここはごめんなさいと謝る場面かも知れないが、いつもの父上が父上なので、なんなら俺に謝って欲しい。
少し実務を積めば、街一つくらいなら今すぐにでも運営できる自信がある。
「ですが、今王国にある男爵家の中で、一番いい結果を出しているのは父上ですよね?」
「そうね。王国全体で見ても、ここまで安定して結果を出しているのはとても珍しいわ。まあ、その半分は……ね?」
チラリと俺を見る母上だが、半分と言うか五割が母上で二割が俺。残り三割が父上と言った割合いだろう。
母上が愚痴っていたが、俺が生まれて直ぐの頃まではかなり頑張っていたらしい。
今は駄目な大人となっているけど。
個人的には父上に味方して、子爵になるのは無理だと言いたいが、ステラの反応が怖いので何も言うことは出来ない。
爵位を上げるには何十年と善政を続けたり、国に名が広がるくらいの功績を立てなければ無理だ。
確かに善政という面では素晴らしいが、それでも後もう十年は必要だろう。
功績については、俺が書類を見る限り無さそうだし。




