第23話:だもんじゃない
森の中に小屋を作り、鉄の精製や宝石のカットをしたり、精霊魔法の勉強をしたり、ダンジョンで金を稼ぐ日常。
髪飾りの製作は思いの外順調であり、後はプレゼント用にどんな形にするか決まれば、製作に取り掛かれる。
どんな物にするか悩んでいると、我が愛しの弟であるジオにも何かプレゼントをしようと思いついた。
俺が家を出ていく時に餞別としての物なので、時間はあるので後回しだが、何か形に残るものの方が良いだろう。
出来ればグランシャリオを渡したいが、シトリスには勇者と戦って貰う都合上取り上げるわけにはいかない。
森にある設備も流石に剣を造れる程の物ではなく、鉄の精製くらいならばともかく、剣を造れる程の腕はない。
昔学ぶ時に、鍛冶と魔導具製作で魔導具製作を選んだので、今世は鍛冶の勉強をするのもあるかも知れないな。
なんて現実逃避のために考えるのは止めて、少し現実と向き合うとしよう。
「んじゃ、今日は俺の剣について少し教えよう。これ以上ごねられるのも嫌だし」
「教えないヴィンが悪いんだもん」
「だもんじゃない」
ロックシューターで色々とあった日以降、シトリスから剣を教えてくれと会うたびに催促されるようになった。
比較対象がいないので何とも言えないが、それなりに身体が出来ているシトリスなら、さわり位ならば別に教えても問題無い。
問題無いんだが、俺は俺で色々とやりたい事があったため、ここ数週間後回しにしていたのだが、どんどんうるさくなってきたので、仕方なく教える事にしたのだ。
「俺の剣について、勇者やグランシャリオからどんなのか聞いているか?」
「とにかく速くて重い剣って言ってたよ。それから物凄く戦いにくいって」
「なるほど。何故そんな風に言われているか分かるか?」
「うーん……動きが速いから?」
「間違ってないけど、正確には剣が速いからだね。まあ少し説明するから覚えるように」
特に名前を付けていないので我流となるが、俺の剣は多対一を念頭に置いた剣術となっている。
まあそれだけならば他の剣術でもありふれているが、俺の場合は完全にグランシャリオを使う事を前提としている。
魔力量はかなりあったが、小さい頃の生活が生活だったため、俺自身の能力はそこまで高い物ではなかった。
剣は腕ではなく身体で斬ると世間では言われているが、俺の場合は正に全身を駆使し、更に小手先の技術を昇華させて、止まる事の無い剣としたのだ。
剣には型や舞と呼ばれるものがあるが、俺は全ての技を全ての技に繋げられるようにする事で、常に戦い続ける続けられるようにした。
無論色々と問題はあったが、グランシャリオをと俺の保有魔力のおかげで問題は全て解決できていた。
グランシャリオを程の剣がもう一本あれば、俺も剣を使って戦うのもやぶさかではないが、まあ無いなら無いでやりようはあるし、基本は魔法専門なので問題無い。
話を戻して、俺の剣は少々特殊ではあるが、全ての剣術に共通している点は同じであり、基礎である体つくりだけは怠ってはいけない。
俺も怠って居なかったのだが、流石にこの身体では昔のような強化ではなく、全身を強化しても負荷が大きすぎた。
「多対一を目的としているせいか、どうしても身体を酷使するから、身体を鍛える様に言っていたわけ。それと、部分的な強化って教わってる?」
「部分的って手だけとか足だけってこと?」
「もっとだね。筋肉とまでは言わないけど、指一本単位での強化だよ。詳しくは後で教えるけど、精密な身体強化が必要になるから、覚えていてね」
身体強化とは通常全身を強化することだが、昔の俺は部分的な強化だけをしていた。
必要な時に必要なだけ必要な場所だけを強化することにより、魔力消費を抑えて先頭時間を長くする。
これが何よりも重要だった。
最後の戦いも常に全身を強化しようものなら、先に俺がガス欠となり、四人ではなくて八人位は残していたかもしれない。
「そんなわけで、身体を鍛えるのは勿論だけど、魔力のコントロールも鍛えるように。詳しくはグランシャリオから聞いてくれ。どうせ知っているだろうし」
「……さっきから全部グランシャリオに頼ってない?」
「今話しているのは基礎の話だからね。俺は話すよりそっちに聞いた方が時間削減になるし、技以外はそっちに聞いても同じだよ」
「それはそうだけど、なんか違くない?」
「気にしてたら強くなれないよ。んで、今日教えるのは、基本となる二つの技だ。ちょいと剣を構えて」
「うん」
俺の剣術はザックリと分けると攻めに十種類。受けに十種類ある。
どちらも繋げられるようになっているが、難しい技もあれば簡単な技もある。
今回教えるのは攻めと受けから一つずつ。どちらも簡単な技を教える予定だ。
しかし剣を教えるには、シトリスのグランシャリオ以外にも剣がなければ出来ない。
適当にギルドの奴を借りても良かったが、グランシャリオを相手にする場合間違いなく駄目になってしまう。
なので、布を巻いただけの丸棒を鍛冶屋から買ってきた。
これなら簡単には斬られないし、刃こぼれを気にしなくて良い。
ついでに、この後の事を考えれば丁度良い武器となる。
「それじゃあ今から攻撃するよ。防いでも良いし、避けても良いけど、当たると痛いから頑張ってね」
「……普通案山子とかに使ってみせるんじゃないの?」
「俺は実戦派だからね」
軽く踏み込んで、防御態勢を取るシトリスへと剣を振り落とす。
それなりの力を込めているが、丸棒が剣に当たる瞬間に軌道を変え、胴を薙ぎ払う。
かなり手加減したが、シトリスには丸棒が消えて見えたはずだ。
「うぐぅ!」
「今のが簡単な技で、名前は影ノ太刀。びっくりした?」
「急に剣が消えて、反応する前に痛みが走ったわ……痣になっていない?」
「知らん。原理は単純で、当たる前に剣筋を変え、隙のある場所を斬る。この剣筋を変えるには指の強化が必要で、下手な剣だと変えた時に剣が折れる、正に諸刃の技だね。次は俺に剣を振ってきて。殺す気で良いから」
影ノ太刀。相手が防御をした時用の技であり、ガードされる瞬間に他の場所を斬る、単純ながら効果がある技となる。
問題は無理やり剣筋を変えるので腕への負担が大きく、本気でやると下手な剣では折れることがある。
そして次が……。
強者程ではないが、心地好い殺気がシトリスから放たれる。
殺す気で斬れと言われれば、普通躊躇いそうなものだが、こちらとしては好都合だ。
さて、受けの技を使うのは転生してから初めてとなるので、成功すると良いのだが……。
どうせシトリスの事だから、意趣返しのために影ノ太刀の真似事をしてきそうだが、あの様子ではそれも無いか……。
どうせグランシャリオが何かしらアドバイスしているだろうし、今出せる本気で斬ってくるだろう。
「はぁ!」
いつもよりも気合いの込められた剣が振り下ろされる。
髪に当たるギリギリで全身に巡らせていた魔力を皮一枚分外へと放出し、シトリスの後ろへと回り込む。
「――えっ……ざん……ぞう?」
「気を抜かないように」
「いた!」
呆然としているシトリスの頭を丸棒で軽く叩く。
上手くいって良かったが、少し足が痛い……技的に影ノ太刀みたいに手加減出来ないので仕方ないが、後ろに回り込まず一歩下がれば良かったな。
「うー。一体何をしたの? 斬ったと思ったら、消えたけど……」
「影の舞。魔力で変わり身を作って、後ろに移動したのさ。上手くいけば今みたいに隙を作れるから、後はそこをバッサリと斬れば良いってやつさ」
「……本当に基礎なの?」
「難しい技術は何もないからね。ガードされる瞬間に他を斬るのと、斬られる瞬間に魔力を放って避ける。言葉にすればこれだけだよ」
基礎の技であるので、相手次第では普通に対応される事もあれば、上手くカウンターをしてこようとする相手もいる。
魔物の場合でも、相手が巨体ならどちらの技も無意味だ。
単純故に効果を見込めるが、単純故に強者には無意味。
よって基礎の技と呼ぶには丁度良い。
「それと、俺の剣は基本的に対人向けだから、その事は忘れないようにね」
「魔物と戦う時はどうしてたの?」
「俺より遅い奴は首を落として終わりだね。その剣より固い魔物なんて数える程しかいないし」
「えぇ……えっ、本当なんだ」
頑丈な剣だから出来たことだが、普通の剣で同じことをやれば直ぐに折れてしまう。
大剣などを使えば変わるが、重い剣を使えば速さを殺すことになるので、俺の持ち味を活かせなくなる。
「さて、練習する前にこの棒を真っ二つにしてくれない?」
「良いけど、なんで?」
「少し初心に帰ろうと思ってね」
グランシャリオことナナホシを手に入れてからナナホシと魔銃を使っていたが、それより前は二刀流で戦っていた。
何かあったらグランシャリオを借りれば良いと言えば良いのだが、念のために昔の戦い方を思い出しておこうと思ったのだ。
一対一の対人なら、多分二刀流の方が今の俺にはあっているだろうし。
そんなわけで、エリスの練習を見ながら、自分の訓練を開始した。




