第24話:怨嗟が溢れた地獄のような場所
訓練と言ったが、俺の教えた技はどちらも相手がいなければ使えない技なので、シトリスには隙を見て攻撃をして良いと伝えた。
それと、絶対にグランシャリオを強化しないようにとも。
技の特性上俺は防御をしなければならないのだが、鉄の丸棒なんて少しグランシャリオを強化すれば簡単に斬れてしまう……というか斬らせたので斬れる。
受けることは絶対に出来る自信はあるが、受けてから避けるのは少々難しいので出来ればやりたくない。
シトリスにグランシャリオを使わせなければ良いだけの話ではあるが、訓練はなるべく実戦に近い形の方が効率が良い。
そんな訳で、昔の動きを思い出しながら両手の丸棒を振るい、合間合間に突撃してくるシトリスを適当にあしらう。
二刀流は大量のデメリットがあるが、メリットもそれなりにある。
手数が増え、片方の剣が駄目になったとしても一本だけ予備がある。
相手が剣のみなら防御の裏をかく事も出来るし、何なら一本予備があるのでぶん投げても良い。
使い方次第では一騎当千も夢ではないが、世の中に二刀流で戦っている傭兵や冒険者はほとんどいない。
それは単純な理由であり、基本的に剣は片手よりも両手の方が威力が上がる。
もしくは盾を片手に持った方がバランスも良く、両手に剣を持つのはメリットよりもデメリットが多すぎるので、使い手はかなりの少数派となる。
「はぁっ!」
後ろから攻撃してくるシトリスの剣に対して、右手の丸棒を受けるためにあげる。
拙いながらも軌道を変えた剣は俺の身体を斬り裂こうと横から迫るのでもう左手の丸棒で防ぎ、右手の丸棒でシトリスの頭を叩く。
「いた!」
「もっと自然に剣筋を変えられるようにしようか。それと、視線でどこを狙ってるかバレバレだから、気をつけるように」
「分かったわ」
頭を擦りながらシトリスは離れ、剣を振りながら動きの確認を行う。
まだ数回目なのに技としてはしっかりと使ええているので、練習次第では実戦でも通用するようになるだろう。
ただ、この技は相手の武器が魔剣や聖剣だった場合の想定で作り出したので、使う機会は当分訪れないだろう。
基礎で簡単な技だが、だからと言って使い勝手が良いとは限らない。
格下相手に遊びで使うのもありかもしれないが、個人的には防御の上から叩き斬る方が好きなのと、お互いの力量差がほとんど無い時はいくら速く技を放っても隙にしかならない。
最後の戦いでも初手で一人殺すために使って以降は使うことが無かった。
「……どうしたものか」
動きを身体に馴染ませていると、つい言葉が漏れ出る。
基本は魔法で戦う気なので問題ないが、いざ戦うとなれば武器が必要となる。
そして練習ならばともかく、実戦で使うならばなるべく良い武器が欲しい。
杖も旅に出る前には変える予定だが、杖の方も問題がある。
冒険者として普通程度の杖を買う予定だったのだが、クラリアの本を読んでいたらそうもいかなくなったのだ。
精霊魔法は一に相性二に相性。三四に魔力で五に相性。
そして、一般的に魔石を使って作られた杖は精霊魔法との相性がそこまで良くないとされている。
杖については後回しでも良いのだが、精霊魔法を使うにあたり相性の武器はほぼ必需品と言っても過言ではない。
あの賢者もそれっぽい武器を持っていたので、つまりそういうことだ。
ただでさえ色々と制約があるというのに、武器すらも特注品でなければいけないとは……まあ精霊魔法と相性が良い武器とは即ち武器としても有能なので、普通の魔法を使う際に問題無く使える。
問題は精霊と相性が良い素材は簡単には手に入らないのだ。
まあ無くても運が良ければ契約も出来るし、精霊魔法を使う事自体は問題無い。
異世界風に言えば、弾は手に入るのに銃が手に入らないみたいなものだ。
いや、使えるには使えるから少し違うか?
なんて無駄な事を考えながらシトリスの相手をしていると、飯の時間となる。
「良い時間だから、飯にするよ。午後は受けの方の練習に移ろうか」
「はーい。技はどんな感じだったかな?」
「形は出来てるから、後はシトリス次第だね。痛い所は無い?」
「頭が痛い」
なるほどグランシャリオに選ばれたからなのか、元々そうなのかは分からないが、結構頑丈な身体をしてるようだな。
頭は残念なようだけど。
これなら基礎を飛ばしても良かったかもしれないが、とりあえず様子見だな。
「大丈夫そうだね。食べたら一時間休憩ね。俺は自前のがあるから、シトリスは街に戻って食べて来て良いよ」
「一緒に行かないの?」
「街に戻るのが面倒だからやだ。ほら、時間の無駄だからさっさと行った」
訓練といったが、俺達が居るのは街の外の野原となる。
ギルドの訓練場でも良かったが、シトリスの使っている武器が武器なので、あまり人目に曝すのは良くない。
こんなド田舎とは言え、俺の武器だったという事でグランシャリオは図鑑に載ってしまっているので、知る人が見れば一目で分かってしまうのだ。
シトリスが街へと走っていくのを見送り、母上に作って貰った食べる。
食べ終わったら鞄を枕にして寝っ転がり、精霊眼を発動する。
そして魔力を垂れ流しながら精霊へと呼び掛ける。
クラリアの本は教科書としての完成度はかなり高く、まだ研究中の項目についてはまだ分かっていないと誤魔化さずに書かれているため、学ぶだけではなく色々と考えさせられる。
一ヶ月くらいで何とかなると思っていたが、俺自身で色々と試しながらとなるので、もっと時間が掛かりそうだ。
基礎である眼の発動と、精霊への呼びかけ。
強い精霊魔法を使うには精霊と契約しなければならないのは前提条件だが、だからと言って強い精霊魔法が使えないわけではないのを俺は知っている。
俺がまだまだ無知というのもあるが、実際にクラリアにただの精霊魔法を使ってもらい、賢者に見せて貰った精霊魔法を比べると違和感があった。
前は精霊眼なんてものは無かったので、感覚でしか分からなかったが、賢者はたまに普通ではない精霊魔法を使っていた。
断定は出来ないが、契約精霊無しでもそれなりの魔法が使えると睨んでいる。
まあこんな事で悩む位ならば精霊と契約した方が良いのかもしれないが、契約出来ない可能性の方が高いんだよな……。
俺がエルフやドワーフ等の亜人とかならばともかく、人間自体が種族の中では精霊との相性は悪いらしい。
数が少ないので仮説の粋を出ないものだが、仮設でもそこに至るまでの理由が書かれていたので、納得できるものだ。
だから最悪を想定しているのだが…………方法はサッパリである。
異世界の知識に精霊魔法関係の物がないかもと探ったが、契約を前提としたものしか見つからなかった。
腕だけではなく、身体中に精霊を引っ付けて考えても、いい方法は思い浮かばない。
俺が使えるのは水の精霊魔法だけだが、精霊の呼びかけ自体はどの属性に対しても行える。
ただ、いざ使うとなると、うんともすんとも反応しないのだ。
まるで鳩の餌付け見たいだが、反応しなくても何か使い道が無いかと考えたのだが、いい使い道は思いつかなかった。
一応精霊への呼びかけは魔力を簡単に消費する事が出来るので、鍛錬としてはありかもしれない。
なんて悩んでいると、シトリスが走ってくるのが見えたので、精霊眼を解除して精霊への餌付けも終わりにする。
時間は……まだ余裕があるな。
「結構早かったね。時間にはまだ余裕があるよ」
「こっちで休もうと思って。ヴィンは……」
「見ての通り、日向ぼっこしてるのさ。今日は天気が良いからね」
「ふーん」
近寄って来たシトリスは俺の横へと座り、空を見上げる。
田舎らしくたまに鳥の鳴き声が聞こえる位で、空は青く、とても平和だ。
働かなくても金が手に入るようになったら、争いの無い場所で過ごしたいものだ。
昔に比べればマシだが、いつどこで戦争が起こるか分からないからな。
「……平和ね」
「良い事じゃないか。塹壕や木の上で神経を擦り減らしながら過ごすより、心地好い風に吹かれて過ごす方が何倍も気分が良い」
「戦争ってどうだったの?」
「どうだったと聞かれてもねぇ。血生臭くて、怨嗟が溢れた地獄のような場所かな? 一応言っとくけど、関わる気は無いからね」
「訓練とか言って行かされるかと思ってた」
強くなるのならダンジョンだけではなく、戦争の空気を知っておくのは悪くない。
だが、戦場に出れば少なからず恨みを買う事になる。
人を殺す以上は仕方の無い事だが、そんな恨みを買う必要なんて今回は無い。
先日のダンジョンみたいに例外はあるが、皆殺しにして証拠も残らないようにしたので、大丈夫だろう。
「それなら勇者や剣聖と戦った方が訓練としては良いし、戦争は面倒な事が多いからね。それに、下手にギルドのランクを強制依頼とかもあるし、あまり良いものじゃないよ。それじゃあ休んだことだし、午後の訓練を始めようか」
「うん」
攻めは腕を酷使するが、受けは身体全体を酷使する。
はたしてシトリスはどれくらいまで持つだろうか?




