第22話:あって良かった精霊魔法の素質
精霊魔法。それは世界に存在している精霊の力を借りて行使する魔法である。
その魔法は通常の魔法より強大であり、更に短時間で発動する事が出来る。
しかし精霊魔法を使うには制約がいくつもある。
精霊と相性が良いこと。精霊を見ることが出来ること。精霊と契約していること。
精霊魔法は知名度はあるが、使えるのはとても少ないのは、最初の精霊との相性のせいだ。
本にはまだ統計を取っている途中らしく、詳しい数字は無いものの、何故少ないのかについて書かれている。
一番は精霊との相性を見る方法が確立されていないからだ。
ハイエルフは精霊との相性が良いのが当たり前みたいだが、だからと言って最初から見えて契約出来るわけではないのは、クラリアの発言から察することが出来る。
――もしかしたらクラリアは、他にも姿や名前を持っているな。
読めば読むほど分かってきたが、本の内容はかなり実用的なものであり、時間を掛けて立証したものなのだと良く分かる。
いくら寿命が長いからと言って、ギルドで働きながらここまでのものが書けるとは思えない。
他人の過去を詮索しない方が良いのはシトリスで良く分かっているのでクラリアには聞かないが、かなりの大物だろう。
クラリアのことはさておき、精霊魔法には所謂階級というものが存在していない。
使い手の意思一つで形を変えるのと、使いてが少ないため体現化がほぼ不可能みたいだ。
俺としては奥の手と言うよりは剣と魔法に続く第三の手として使う予定なので、自由に扱えるのはある意味有り難い。
まだ皮算用でしかないが、戦術を考えるのは中々楽しいものだ。
「もうそろそろ日が沈むから帰りなさい。何か聞いておく事はある?」
「精霊魔法の練習って、どこでした方が良いとかあるの?」
「あるわね。精霊は自然のものだから、水なら水がある場所。火なら火のある場所の方が、効率が良いわね。因みに砂漠なんかだと水の精霊魔法はほとんど使えなかったりするわ。詳しくは……」
「この辞書をちゃんと読めば分かるって事ね。それじゃあまたギルドで…………あっ、本を結ぶ紐とかあります?」
辞書クラスに厚い本が数冊となれば、流石にそのまま持って帰ることは出来ないので、クラリアが精霊魔法を生み出した蔦で本を結んでから家に帰る。
出来れば一ヶ月くらい精霊魔法の練習だけに費やしたいが、シトリスを放置することは出来ないし、髪飾りの作製もしなければならない。
昔みたいに強くなるために山籠もりするなんて事は当分できない。
まあそこまで強くなる気は無いので、山籠もりなんて二度としないけれども。
頑張って屋敷に帰って来たが、今日は玄関からではなく、窓から部屋へと入る。
なんでそんな事をするかだが、精霊魔法関係の本を誰にも見られないようにするためだ。
ついでに精霊魔法は当面の間誰にも話す気は無い。
本を読んだ事でどれだけ希少な物かよく分かったし、今の俺ではクラリアが言っていた様な水やり位しかできないが、精霊次第ではどうなるのかは賢者の件で良く知ってる。
我ながら良く戦えていたものだ。
そう言えば、俺が死んだ場所は新しく街が作られ、観光名所になっているらしい。
かなりの広範囲の土地を滅茶苦茶にしていたはずだが、そこは立ち入り禁止区画なするべきなのではと思う。
魔王を倒したからって魔王城を観光地にするのは如何なものか?
本が大きいせいで隠し場所に困ったが、一旦布に包んでこの前の鉱石の袋の中に入れておくことにした。
この中ならば早々見付かるはずがない。
後は夕食までのんびりとしたいところだが、隠蔽工作のために窓から外に出て、何食わぬ顔で玄関から屋敷に入る。
昔窓から出入りをしていたところを母上に見られた結果かなり怒られたので、しっかりと玄関から入って来たと周りに見せておかなければいけない。
「あら、帰って来たのね」
「ただいま母上。今日は少し魔法の練習をしてきただけですからね。毎日練習しているおかげで、少しずつ上達して来ましたと」
屋敷に入ると、まるで待っていたかの様なタイミングで母上と遭遇した。
誤魔化すついでに母上の前で、片手で三つのウォーターボールをお手玉する。
正直このお手玉は俺の中で練習ではなく暇潰し用の遊びとなっているが、効果はしっかりと感じられている。
「確かにスムーズに出来ているわね。そう言えば、その杖は今も使っているの?」
「魔力操作の練習に丁度良いですからね。武器としてはあまり良くないのは分かっているけど、あのダンジョンだとこれで事足りますし」
「それなら良いけど、武器を整えておくのも必要よ。今日は夕飯を食べるの?」
「勿論。汗を流したら部屋で寝ているので、お願いしますね」
逃げる様に自室へと向かい、ローブを脱いでから杖を適当な所に置いておく。
少し焦ったが、どうやらばれていなさそうだな。
夕食までは後一時間位か……いつもなら先程母上に話した通り寝るところだが、今日は本を読むとしよう。
あの量だと、通しで読んだとしても一週間は掛かり、内容を覚えるとなれば一ヶ月以上は必要だろう。
知識とは覚えただけでは意味がなく、理解して自分で扱えるようにしなければならない。
そう言えば、精霊眼とは言っていたが、魔眼の類では無くて魔法だったんだな。
名前的になんとなく魔眼なのかとクラリアの話を聞いていた時は思ったが、そんな事は無かった。
ただ、この魔法を自分の力だけで使える様にするのがどれだけ大変なのかは、使えるようになった今だから分かる、
補助が有ったからこそあれだけ簡単に出来たが、無ければ精霊を見る感覚なんて分かる事無く、うんうん唸っていたと思う。
さて、時間まで勉強するとしよう。
1
「人の子がねー……」
ヴィンレットが帰った後、クラリアは紅茶を飲みながら今日の事を振り返っていた。
精霊魔法とは扱いが難しく、才能が無ければ使う事が出来ない。
そしてその才能は先天的に持ち合わせていない限り手に入らない物であり、クラリア知る限り後天的に精霊魔法を使えるようになった者を知らない。
更に言えば、クラリアが知る中で精霊魔法を扱えた人間は、全員が良くも悪くも歴史に名を残す人物となっている。
ヴィンレットが扱えるのは水だけではあるが、エルフやドワーフなど自然の中で生きていない種族が精霊魔法を使える時点でかなり珍しい。
そして今クラリアが眉間に皴を寄せながら考えているのは、ヴィンレットの才能だ。
確かにクラリアが研究し、なるべく簡単に精霊魔法を知り、扱えるように研究したものを使ったが、だからと言って一日も経たずに基礎が出来るとは思っていなかった。
「師匠に連絡を取ってみようかしら? ……いや、関わりがあると知られると、私の平穏がどうなるか分からないわね。意味はあるか分からないけど、折を見て紹介状辺りが無難かしら?」
まだ精霊を集めるだけで、精霊魔法すら正式には扱っていないものの、ヴィンレットならば直ぐに使えるようになる。
そんな予感がクラリアにはあった。
もしもヴィンレットが人間ではなく、寿命が長い種族ならばこのままゆっくりとクラリアが教えても良いのだが、ギルドの仕事が休みの日しか見ることが出来ないので、どれだけの時間が必要になるか分からない。
ならば、暇をしているであろう自分の師匠に丸投げした方がお互いのためだろうと、少し気が早いが紹介状を書いて引き出しへとしまっておく。
「それと……あれはどうしたものかな……」
無ければ良いと願っていたのにあった精霊魔法を使える才能。
そしてその才能を問題無く使える才能。
なのに持っている武器は安物以下の、練習用の木製の杖だ。
シトリスからクラリアはヴィンレットの戦いがどんなのか聞いており、杖を使わない方が強力な魔法が使える事も知っている。
わざわざ弱い振りをする理由がクラリアにはさっぱりだが、自分達ハイエルフと同じく、何かしら訳ありなのだろうと、察することが出来た。
だが、折角ならちゃんとした物を使って欲しいと思ってしまうのは、なし崩し的といえ師匠になってしまったからだろう。
精霊魔法は通常使われる魔法とは違い、精霊との相性が重要だ。
そして、一般的に使われる魔法使いの武器は精霊との相性があまり良くない。
精霊は自然由来の存在であり、自然の物を好む傾向がある。
なのでダンジョン産の素材で作られた装備品は基本的に相性が悪いのだ。
ヴィンレットが持っている杖はどちらかと言えば相性が良い杖となるが、性能は森に落ちている木の枝と大差ない。
また武器とまでは言わないが、精霊と契約する際に相性の良い物を持っておいて損は無い。
「……まあ、後で考えましょうか。いつかは精霊魔法のみで戦ってみるのも面白いかもしれないわね」
自分が昔、師匠からさせられた卒業試験の事を思い出しながら、クラリアは契約している水の精霊を呼び出し、部屋の中を泳がせる。
精霊は嬉しそうに部屋を泳ぎ回り、波紋を残して消えるのだった。




