第18話:シトリスの奮闘
転生してから初めて昔の剣技を使ったけど、思ってたよりも動けなかったな。
まあ身長も魔力も足りていないので仕方ないが、それはそれとして身体中とても痛い。
つい昔のノリで使ってしまったせいか、身体強化をしたというのに筋肉が悲鳴をあげている。
こんな時こそ回復魔法が使えればと思うのだが、この場に使える人間はいない。
死体にもポーションの類は無く、ギルドカードと金品を持てるだけ持ってきただけだ。
殺しの場にポーションを持ってこないとか舐めてんのか?
昔に比べれば犯罪者の質が落ちるのは良いことだが、襲われた側としてはなるべく良い見返りが欲しい。
これでは完全に殺し損である。
しかし、光らせることが出来たの五つか……俺がナナホシ……じゃなくてグランシャリオを手に入れたのが十八の時で、その時が四つだったのを考えれば、昔よりも才能があるな。
まあ基本的に魔法のみで戦いたいと思っているので、剣を使うことはほとんど無いだろう。
やはり剣を振って戦うのは疲れる。
「ほら、もっと頑張りなー。そんなんじゃ剣術を教えられないぞー」
「なんで行きより大変なの!」
そりゃあ時間的にみんな帰ってる時間だし、人がいない分こっちに魔物が向かってくるのは道理だ。
夜にダンジョンに居るなんて、相当な物好きであり、こうなるのは分かっていた。
「夕方を過ぎれば基本はダンジョンから帰るのが普通だからね。因みに今何時か分かる?」
「十九時位?」
「二十一時だね。いつもなら寝ている時間だ」
「早くない!?」
魔力を鍛えるには、沢山使い沢山寝る事が大事だったりする。
なので、なるべく沢山寝る様にしているのだが、そのせいで朝は母上に起こされる事がほとんどになっている。
五歳までは早起きしていたことも多いが、ここ数年は寝られる時は寝ている。
因みにジオもステラも俺とは違い早起きだ。
だが、寝ているはずなのだが身長の伸びはあまり良くない。
父上は結構背が高いので、遺伝的に背は伸びるとは思うのだが、少し心配である。
現状ではシトリスより背が低いからな。
子供の頃は男よりも女の方が成長が早いと言うが、だからと言って低いのは気に入らない。
「子供の内はやることやって沢山寝た方が成長に繋がるからね。無理をするのは身体が出来上がってからの方が良い」
「なるほど……これって無理じゃないの?」
「これくらいの戦いは無理に入らないよ。だからさっさと倒しなよ。また次が来るからさ」
無理とは夜通し戦ったり、一週間水のみで生活したりと、命に関わる事をいう。
悪くても怪我程度の戦いなんて、訓練とそう変わらない。
「ねえ、さっきの技だけど、教えて貰えるの?」
「あれはぶっちゃけ奥義みたいなものだから、先に基礎からだね」
憂さ晴らしに使った我流・朧ノ太刀だが、かなり身体を酷使するため、無理に使おうとすると筋肉が断裂したり、骨が折れる可能性がある。
使った俺が言うのもおかしいが、しっかりと身体が出来てからではないと教える事が出来ない。
てか、教えようにも俺が使えないので無理である。
歩くのも億劫なのだが、流石にシトリスに背負わせるのは男としてのプライドが邪魔している。
「奥義……」
「そう。今シトリスが使おうとすれば、手足が千切れかねない技さ」
「うーん。私に使える技ってあったりするの?」
「あるにはあるけど、基本的に身体を酷使する物ばかりだから、しっかりと身体を鍛えないとだね。何なら今から走って帰る?」
「……止めておくわ」
良かった良かった。これで走って帰るなんて言われても、今の俺には拷問以外の何物でもない。
何なら鉱石が入っている袋を持っているのすら辛い。
勿体ないが、ポーションを少し飲んでおくか。
消費期限もあるし、使わなければ捨てる予定でもあるので、今飲んでも無駄にはならない。
ちょっともったいない気もするけど。
「ほら、後一層で外だぞー」
「……」
ついに返事もしなくなったか。
動きも悪くなってきたが、後少しで外なので大丈夫だろう。
ちみちみとポーションを、シトリスの戦いを肴にしながら飲んでいく。
安物なので味は微妙だが、おかげで身体の痛みがマシになってきた。
こんな時間でも一層には冒険者が少しだけ居るようだな。
すれ違う時に変な視線を送られるが、気にするだけ無駄だろう。
「やっ、やっと外だぁ……」
「お疲れ……って、あらら」
そして色々とあったものの、やっとダンジョンの外に出ることが出来た。
出来たのだが、シトリスはそのまま地面へとダイブした。
結構酷使したのは確かだが、そこまでだろうか?
放置して先にギルドへ報告に行っても良いが、人目もあるので諦めるとしよう。
「立てるかー?」
「す、少しだけ休ませて……」
ダンジョンの入り口の端で倒れているので、他の人の邪魔にはならないが、時間が時間なので早く帰りたい。
この後は間違いなく事情聴取があるし。
「ほら、これを飲めば少しはマシになるよ」
「…………これって普通のやつ?」
「安いやつに決まってるでしょ。帰るまでの体力さえ回復すれば良いからね」
「うぅ……不味い」
微妙に受け取るか葛藤したシトリスだが、よほど疲れていたのか、一気にポーションを飲んだ。
そしてよろよろと立ち上がりながら、空いた容器を渡してきた。
安いポーションは草の煮汁の様な味なので、腐った肉よりはマシだが相当不味い。
慣れれば一本二本程度なら普通に飲めるが、そんな無理をするなら金を払って低級ではなくて中級のを買った方が良い。
「それじゃあ行こうっか」
「うん」
街までの定期便の時間を確認すると、そこまで待たないで良いみたいだ。
シトリスに馬車で食べられる軽食を買いに行かせ、俺は依頼分の魔石を提出して証明書と交換して貰う。
ここで俺が殺した四人の話をしても良いのだが、おそらく二度手間になりそうなので、街の方で報告する。
今回稼いだ金額と、死体漁りで手に入れた金額は結構なものになるので、欲しいものは全て買えそうだ。
宝箱が見付からなかったのが唯一残念な点だが、見付かる方が稀なので仕方ない。
どちらかと言えば俺は運が無いので、シトリスの運に賭けていたのだが…………全く使えないやつだ。
「あっ、サンドイッチ買っといたよ。甘いので良かったんだよね?」
「うん。疲れた時は甘いものが一番だからね。これから更に疲れることになるし」
「……私に出来ることってある?」
「面倒だから宿を取って寝てて」
「えっ」
下手にシトリスが発言しても拗れる可能性があるので、面倒でも俺一人で説明した方がマシだ。
停まっている馬車へと乗り込むと、少ししてからシトリスも乗り込んで来た。
時間も時間のため、俺たち以外乗る人はおらず、馬車が出発する。
シトリスから受け取ったサンドイッチを食べると思っていたよりも甘いが、今の身体ならば胃もたれなんて気にしなくても大丈夫なので、全て平らげる。
若干眠かったが、甘いものを食べたおかげで眠気が醒めた。
醒めたが、街に着くまでは寝るとしよう。
馬車でやれる事は無いし、シトリスは疲れているので、俺がサンドイッチを食べ終わる頃には寝始めていた。
俺たち以外に人が居たなら寝るなんてことは出来ないが、幸い誰も居ないので、寝たとしても荷物を盗まれる事はない。
馬車の御者もギルド員なだけあり、基本的に誠実な人が多い。
中には盗みや賄賂といった悪さを働く奴も居るが、ギルドは冒険者よりも命が軽く、馬鹿な事をすれば大抵消される。
その代わり給料は良いらしいが、詳しい事は知らない。
俺の性格的にギルドで働けば間違いなくクビになる。
誰かをギルドで働かせてなんて事をする位なら、育てて冒険者や傭兵にした方が楽に稼げるだろう。
しかし、あのナナホシ……じゃなくてグランシャリオに意思か……。
俺の事をどれだけシトリスに話したのか分からないが、不安しかない。
まだグランシャリオを手に入れる前、ハニートラップを仕掛けられて以降女関係は殆ど断ってきたが、その代わり酒に溺れて色々と仕出かした事がある。
戦場での活躍や、剣の腕について知られるのは別に構わないが、男として過去の失敗で何かを言われるのは嫌だ。
剣に配慮を求めるのもどうかと思うが、出来れば俺の失敗談を黙っていてくれるとありがたい。




