第17話:圧倒的な力と蹂躙
AとかBとか言ったが、単なるカッコつけであり、逃げるのも引き剥がすのも諦めただけである。
なにせ……。
「ううん。どうせ行く場所も無いし、ヴィンと一緒にいるわ」
この反応だからな……一体グランシャリオは何を話したんだ?
落ち込んでいると、シトリスの顔がぱっと輝き、俺にとっては不穏な空気を出し始める。
「そうだ、取り引きしましょう!」
「取り引き?」
「うん。私が養ってあげるから、私を鍛えて」
……こいつ意味を理解して話しているのだろうか?
向こうから転がり込んで来てくれるのならば、有りと無しなら有りだ。
あの勇者の血を引いている以上何かしらの才能はあるだろうし、グランシャリオを使えるってなら将来的に過去の俺と同じ位強くなる可能性もゼロではない。
最初から使い物になる人間なんていない以上俺も最低限の面倒を見る気ではいるが……。
シトリスの見た目は悪くないというよりは上の上であり、むさ苦しい男よりは綺麗な女の方を傍に置きたいってのが男心だ。
「グランシャリオは何か言っているか?」
「……ヴィンなら信用出来るから良いって」
「その信頼がどこから出てくるのか本当に分からないが…………まあ良っか」
「やった!」
もうどうにでもなれって心情だが、殺す事も引き離す事も出来ない以上は傍に居てもらう以外の選択肢がない。
二代に渡ってあいつと関わらないといけないとは……あれだけ色々と言っていたのに、子育てに失敗しているのが笑える。
シトリスは将来ろくでもない男に引っ掛かりそうだな………………訂正。既に引っ掛かってるんだった。
「疲れたからさっさと集める物集めて帰ろう。さっさと進んでくれ」
「はいはい」
上機嫌になったシトリスは意気揚々と歩き出し、襲い掛かってくる魔物を倒す。
起源が良くなったからと言って強くなるなんて事は無く、やはり注意散漫で魔物の攻撃を受けそうになるので、行きと同じく魔法で援護をする。
何か忘れてしまっている様な気がするが、疲れたしさっさと「止まれ!」
後少しで四層の出口という所で、枝道から四人の男が姿を現す。
「貴方達は……」
「俺達の誘いを断っておいて、女二人でダンジョンとは……しかもこんな人気のない所まで来てくれてありがたい限りだ」
男達が下品な笑みを浮かべる中、シトリスは居後ろに居る俺へ振り返ったので、前を見る様に手を振る。
俺の性別を間違えられてしまっているが、薄暗いダンジョンの中なので仕方ない。
髪も男にしては長いし、身長もまだ低い。
おまけにローブ姿なので、この程度の間違いで腹を立てる事はない。
「何が目的なの」
「そんなの決まってんだろ? 馬鹿には身体で教え込まないと分からないか?」
「……それだけのためにこんな所まで来たの?」
「こんな田舎じゃ上物は中々手に入らないからな。安心しろ。最後は魔物の餌にしてやるからよ。それまではたっぷり楽しませてやるよ!」
馬鹿な行いだとは思うが、ダンジョンで襲って魔物に死体を処理させるのは昔からある手法だ。
リスクもそれなりにあるが確実性は高く、場所次第ではバレる可能性はかなり低い。
ギルドが処罰を下すのが難しい犯罪者を、ダンジョン内で処理をしているって噂もある位だしな。
「あー、俺は男なんで見逃して貰えない? 誘われて一緒に居るだけなんで」
「ちょっと!」
「知られた以上無理だな。その女と組んだ事を恨みな」
先程の会話が無かったかのように手の平を返してみたが、案の定駄目か。
俺が逆の立場ならば、目撃者は皆殺しだ。
小さな情報一つで戦局なんてのは簡単に動くからな。
ゼロと一ならゼロを選ぶのが普通だ。
なんだか疲れたし、シトリスを脅すついでに少し見せてやるか。
「シトリス。ちょいと剣を貸してくれ」
「えっ? うん……」
「あっ? お前、俺達と戦おうってのか?」
シトリスからグランシャリオを受け取り、代わりに杖を持たせる。
グリップの見た目は変わっているが、重さや重心はなにも変わらないな。
「あまりやりたくはないけど、ちょいと見せてあげるよ。俺の剣って奴をさ」
グランシャリオに魔力を流すと、五つの星が光を放つ。
今はこんなものだが、こいつらには五つでも過剰だろう。
「殺す気なんだから、殺されて文句はないよね? 先手は譲ってあげるよ」
「ガキが……舐めてんじゃねぇぞ! やれ!」
リーダーの男の声と共に、その仲間から火の魔法が放たれる。
まずは遠距離とは基本は抑えているみたいだが、サクッと殺してしまおう。
シトリスに任せる気だったがさっさと終わりにして帰りたい。
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ロストワーカー。シトリスはその存在を人伝でしか知らず、ヴィンレットと一緒に居たせいか、世間に言われている程強い人ではないと思っていた。
そもそも本人なのか疑ってすらいたのだが、殺気を向けられて以降は流石に本人だと認めていた。
更に言えばシトリスが勇者の娘だと分かること自体が普通ではあり得ないので、その点も認めざるおえなかった点とも言える。
最終的にこれからも一緒にパーティーを組むことにお互いが合意したものの、いきなり手の平を返された。
そんなヴィンレットだが、今はシトリスのグランシャリオを受け取り、父親である勇者ですら輝かせることが出来なかった星を輝かせていた。
「よく見とけよ。直ぐに終わるから」
向かってくる魔法を構えること無く見ながら、ヴィンレットが呟く。
「う……」
返事をする前にヴィンレットは剣を横に振るい、魔法を打ち消す。
そして瞬きをしていないはずなのにいつの間にかヴィンレットの姿は男達の奥にあり、その直ぐ後に男達の身体が全て四等分されて地面へと転がる。
目で追う事の出来なかったヴィンレット。そして目の前に転がる死体にシトリスは言葉を失うものの、直ぐに現実へと引き戻された。
シトリスがタダの少女であったのならば、目の前の惨状に嘔吐していただろう。
しかし、曲りなりにもシトリスは勇者の娘であり、逃げる事が出来たとはいえ、感情がぐちゃぐちゃになる様な行為を実家で受けて来ていた。
今更他人の死を見たからと言って、不快感や恐怖を感じるようなシトリスではなかった。
だからこそグランシャリオに選ばれてしまったともいう。
(あれが……あれがあの人の剣……)
ほとんど目で追うことは出来ず、僅かな剣筋を追うのでやっとであった。
そして剣に魅入られ、目の前の死体はほとんどシトリスの思考からなかった。
「我流・朧ノ太刀。腕も足も全くついてこないけど、まっ、こんなところかな」
「凄い……」
これが本物。これが父親である勇者達を圧倒した者の剣。
自分と同じく属性魔法が使えなかったはずの人間が辿り着いた境地。
この力が有れば…………。
シトリスは過去の仕打ちにより、本来かなり暗い性格だ。
だが生きていく上では偽るしかなかった。
愛嬌を振りまき、どんなことも笑顔で耐え、感情を押し殺す。
だが、グランシャリオを盗み出し、外で生活するようになり少しだけ自分と向き合う時間が取れ、折り合いを着けようとしていた。
家から逃げ出した理由。確かに一番の理由は家に居る事が耐えられなかったからだが、大きな理由がもう一つあった。
それは、強くなり父親である勇者を倒す事だ。
殺したい訳ではない。だが長年積もった小さな憎しみは恨みとなり、シトリスの中で渦巻いている。
決して殺したい訳ではないが、これまでの恨みをぶつけてやりたいと考えている。
「えーっと、これとこれ。それとこれを持ってと……」
固まっているシトリスを放置し、ヴィンレットとは死体から幾つかの物を抜き取る。
本当は殺す気が無かったのだが、あまりにも疲れていたヴィンレットは一番楽な殺しを選んだ。
そして殺してしまったからには、手続きをしなければならない。
「呆けてないで、さっさと帰るぞー。まったく、こんな事に巻き込まれるなんてね。これじゃあギルドでの約束は無しだね」
「……っは! ななんで! 私頑張ったでしょ!」
「これでチャラだよ。ほら、これは返すよ」
ヴィンレットからグランシャリオを受け取ったシトリスは、鞘へと戻しながらグランシャリオへと話しかける。
(どうだった?)
『やっぱり本物だな。キレは悪いが、太刀筋は全く一緒だったぜ。たく、なんで魔法なんか使ているか分からねぇが、やはり俺の使い方を教わるなら、こいつが一番だな。良いもんだったろ?』
(うん。強いのは分かってたけど、ここまで違うなんて思わなかった)
『あいつの剣は癖が強いからなぁ。俺に会うまでは結構な剣を駄目にしていたらしいが……だからこその魔法ってやつか? それにしては身体もしっかりと鍛えているが、あいつは剣を持っていた方が俺としては好きなんだがなぁ……』
(うん。あれを見ちゃうとね……)
ヴィンレットの使う魔法は年齢からすれば確かに凄いものだが、それ以上に剣の腕の方が素晴らしかった。
あれを見てしまっては、どうして魔法なんかを使うのかと思ってしまう。
「置いてくぞー」
「あっ、ちょっと待って!」
話し込んでいる内にヴィンレットは歩き出していたため、急いで後を追いかける。
「ねえ。何であれだけ凄いのに、剣じゃなくて魔法を使うの?」
「疲れるのと、強すぎる力ってあまり良い物じゃないからねー」
「……復讐とかしないの?」
「流れはどうあれ、死後に口を挟むつもりは無いさ。俺は俺だが、今はヴィンレットだしな」
『狂ってるなぁ。だからこそ面白いってもんだ』
(全く動揺してないし。後悔もしてないんだね……)
『言っただろ? こいつはそう言う奴だってな』
自分とは違い、負の感情全く持っていない態度に、シトリスは落ち込むが、グランシャリオが笑い飛ばす事で持ち直す。
『まあ頑張るこった。こいつは仲間と認めれば、早々見捨てないからな』
(さっき捨てられかけたけど!)
『……頑張れ』
「ほら、魔物だぞー」
「……えっ、私がやるの?」
「当たり前だろ。ほら、さっさと倒さないと帰るのが遅くなるぞ」
「……うん」
内に外にと話しながら、シトリスは血の一滴すら付いていないグランシャリオを、鞘が抜いて構える。
既にシトリスの頭の中からは、襲って来た男達の事は完全に消えていた。




