第16話:藪蛇と噓発見器の剣
食事を終え、二十分程休んでからセーフティーゾーンを出て戻り始めた。
いつもより多少魔物が強いので、しっかりとシトリスの剣術を見る事が出来るが、やはり微妙だな。
王国剣術を使っているのは良いのだが、動きが完全に一対一を想定しているものであり、一体一体を確実に倒しているが、動きが次に繋がらない。
分かりやすく言えば、隙だらけと言うやつだ。
動きが止まるのは勿論だが、それでいて周りに注意が足りていない。
若い少女に求めるのも酷だと思うが、もっと上手く立ち回れないだろか……。
腕は悪くないのだ。だが、動きがなぁ……。
こいつが勇者の娘でさえなければ駒としては最上なのだが、ナナホシを持ち出している以上、必ずシトリスの前に勇者は現れる。
その時にシトリスがお持ち帰りとなれば、その後会う事はおそらくない。
そうなれば仮にシトリスに剣術を教えたとしても、無駄になってしまう。
今のシトリスに、勇者に歯向かってでも手に入れる価値は無く、なんならさっさと代役を探した方が将来の投資になる。
うーむ。いっその事本人に聞いて見るのもありか?
面倒だろうからこれまで聞いてこなかったが、逆に聞けばシトリスから離れてくれるかもしれないし、駄目でもこちら側に引き込む事が出来るかもしれない。
勇者が敵になるのは嫌だが、上手く丸め込む事が出来れば縁としてはかなりの上物だ。
後ろ盾としては少々強すぎるが、使える伝手となればいつか役立つかもしれない。
賭けの部分もあるが、どちらに転んだとしてもどうせ矢面に立つのはシトリスだ。
おそらく待ち伏せしているであろう四層と三層の境目まで時間がある。
「なあ」
「なに?」
「シトリスって勇者の娘だよね?」
「なななななの事かなぁ!」
あからさまな同様だが、隠す気はあるのだろうか?
「驚くのは良いけど、そもそも隠す気は無かったでしょ?」
「えっ……えっ?」
ああ、この様子では本当に気付かれないと思っていたようだな。
せめて武器を他にしていれば、早々勇者の面影があると悟られる事はないだろう。
まあシトリスに面影が無かったとしても、その剣を持っていれば身内が泥棒の二択となり、強さが年齢相応なら身内しかない。
「な、ならあなただって、本当はロストワーカーなんでしょ!」
「――えっ」
いや…………何故そんな突拍子もない言葉が出て来た?
シトリスに対して俺は過去の事については一つも話していないし、関わりのある様な動作は一つとしていない。
偽るために魔法主体の戦いをしているのだし。
――――消す…………のは駄目だな。リスクが大きすぎる。
とりあえずすっとぼけてみるか。
「そんな過去の魔王が俺の訳ないじゃないか。どこからそんな妄言が?」
「このグランシャリオを教えてくれたよ。魂が一緒だって」
「えっ、それってナナホシじゃないの?」
「本当の名前があるけど、あなたは間違えて呼んたって教えてくれたよ。それにその呼び方が証拠じゃない?」
本当の名前があったのも驚きだが、ナナホシって意思があったのか?
糞。藪を突いたら俺が出てくるとは思わなかった……。
ここは一度落ち着こう。
「いや、知り合いから聞いただけだよ。それに、魂ってどういうこと? 俺にはさっぱりだよ」
「……嘘だね。グランシャリオが、ヴィンが嘘をつく時の言葉遣いだって言ってる。……転生? ってのをしたんでしょ?」
くっ! 自覚があるだけに、これ以上は無駄だな…………。
ナナホシの名前が本当はグランシャリオってのはどうでも良いが、俺が俺だと知られるのはあまりよくない。
シトリスの言葉を信じる奴なんていないと思うが、あの勇者ならば信じる可能性がある。
つか、転生って言葉が出てくるあたり、ナナホシに意思があるのは確定か。
シトリスはあまり頭が良さそうには見えないし、そう言った知識もこれまで話してきた感じではなかったはずだからな。
「よし、一旦落ち着こう。俺が思うに、俺達が一緒に居るのはリスクが高すぎると思う。だから、これを機にパーティーを解散しないか? その方がお互いのためだと思う」
「嫌よ! 最初は違ったけど、今はグランシャリオの言う通りだったと思うわ。それに、グランシャリオもヴィンと一緒に居た方が良いって言ってる!」
「なんでさ!」
おかしい。過去の俺を知っているのならば、俺がどれだけ人を殺し、憎しみを買って来たか知っているはず。
それに、自分で言うのも何だが俺はろくでなしの部類だった。
殺し殺されの戦場に身を置いて、敵ならば女子供でも普通に殺して来た。
ナナホシが何を考えているのかが本当に分からない。
「それに、私一人じゃ厳しいってこの一ヶ月で良く分かったわ……もしも私を遠ざけるなら、お父さんにヴィンの事を話すわよ」
「それは脅しか?」
ぬるま湯に浸かっている今ではなく、昔の様に殺気をシトリスへと飛ばす。
これでも殺気の扱いはかなり上手く、指向性すら持たせる事が出来る。
慌てていたシトリスの表情は一瞬にして蒼白になり、震える手で俺に剣を向ける。
今は違うが、傭兵とは舐められたら終わりだ。
「今の俺は昔ほど強くないが、お前を殺すのは造作もない。そして俺が敵に容赦がないのはそれから聞いているだろう?」
「……うん」
「とりあえず……あれだ、ここはお互いの目的を腹を割って話そう。組むにせよ別れるにせよ、禍根を残すのは良くない」
仮に首尾よくシトリスを殺せたとして、ナナホシから勇者に話がいかないとも限らない。
意思がある位なので、転移能力とかあってもおかしくないからな。
それに、ナナホシの頑丈さは俺が一番よく知っており、砕く音も折る事も出来ない以上、俺の取れる手は限られてくる。
既にセーフティーゾーンから結構離れているが、襲って来た魔物を丁度倒したところなので、動かなければ直ぐに魔物が来る事は無い。
「……分かったわ」
「まずはシトリスから話してくれ。そっちの情報の方が多そうだからな」
そんなわけでシトリスの事情を聞いたわけだが、思いの外勇者が屑だと言うことがわかった。
まあ子は親を選べないと言うし、正確には母親の方が悪いのだが、そんな奴を選んだ勇者が悪い。
どうせ政略結婚だとは思うが、だからといって家族を蔑ろにするのは俺の今の価値観的にあり得ない。
そしてナナホシ……じゃなくてグランシャリオについても大体分かったが、今となってはシトリスのものなので、俺が言えることは何もない。
だが無闇に個人情報を流された分の仕返しは後でしてやるとしよう。
「まさかあの勇者の家庭事情がそんな事になってるとはね。これは託す相手を間違えたみたいだ」
「……それで、ヴィンは本当にあのロストワーカーなの?」
「一応そうだね。魔王とか言われてた本人だよ。しかし、よくそれの事を信用したね。これでもろくでなしだと自負してたんだけどね」
「行く宛もなかったし、グランシャリオが煩かったから……持ってみる?」
微妙に涙目だが、環境的に言えばシトリスの環境は最悪の一言だ。
これが一般家庭ならば問題なかっただろうが、あいつの場合はなぁ……とりあえずシトリス自身の考えで俺に接触したわけではないので、ある意味俺の過去が襲ってきたようなものか。
「今は止めておくよ。つまるところ、俺ではそれの真価を引き出すことは出来ないみたいだし、剣なら使えればそれで良い外道だしね」
「でもしっかりと手入れとかはしてたんでしょ?」
「人が寝ないと動けないように、剣も手入れをしないと駄目になるからね。最後の戦いもそれだから保ったわけだし」
「……そうなんだ。それで、ヴィンの方はどういう事なの? グランシャリオも魂は一緒だけと、雰囲気が全く違うって言ってるし」
「あー」
俺の都合と言われても、気付いたら転生して、世の不条理に気付いたって位だからな。
シトリスみたいに暗いバックグラウンドは塵ほども無い。
「ざっくり言えば、いつの間にか転生して、強さを求めた結果があれだったから、やる気を無くした感じかな?」
「……嘘ね」
「それに頼るのは止めない?」
嘘と言う程嘘ではないが、何故こうもグランシャリオは俺に事が分かるのだろうか?
案外好かれていたのか?
「それで、本当は?」
「全部が嘘じゃないんだけど、強いて言えば今は将来のヒモ生活のために準備している感じかな。だから、俺と一緒に居ない方が良いよ。ろくでなしを目指している男だからね」
「ヒモ生活?」
「誰かに養われて生活したいって事」
俺に向けているというよりは、話すついでに構えている剣をシトリスは下げ、俺をジッと見詰めてくる。
動転したり怯えていたはずなのに、いつの間にか立場か逆転してしまっているな。
これなら何も言わずに一年経って逃げれば良かった。
いや、その場合でも勇者とかに俺の事をバラされる恐れがあるか。
八方塞がりとはこんな状況の事を言うんだな……。
あまりやりたくはないが、こうなればAプランとBプランを捨てて、Cプランでいくとしよう。




