第14話:猫被りなシトリス
盗賊どころか魔物とすら出くわすことなく、目的の街までやって来た。
森の中や小道を使うならばともかく、普通に街道を使う分にはこんなものだろう。
襲撃に遭う方が珍しいので、護衛も俺達みたいな低ランクでも請け負えるのはありがたい限りだ。
無事に護衛も終わったので依頼主からサインを貰い、街の入り口で別れる。
中々話の分かる人であり、結構楽しく過ごす事が出来た。
まさか魔法の練習のお手玉で、おひねりが貰えるとはな。
これ位ならば別に大変ではないし、これで小銭を稼ぐのはありかもしれないな。
水と火でドラゴンや鳳凰とか象れば、結構良い線いくだろう。
異世界の知識がある事は勿論、ドラゴンとは何度も戦っているので細部まで表現する事が出来る。
「こ。ここが目的地ね……」
「お疲れ。ギルドに着いたら少し休んで良いよ。その間に依頼やダンジョンの確認とかしておくから」
「ありがとう……」
小走り程度とは言え、結構な距離があったので流石に疲れたようだな。
やらせておいてなんだが、俺も酷い奴だ。
着くのに微妙な時間になるということで、お昼も抜いていたし。
着いた街はうちの領地にある街とは違い、しっかりと歴史を感じさせる。
悪く言うならば、少し汚い。
昔ならばともかく、転生してからはどうしても汚れに敏感になってしまって困る。
父上の執務を手伝ったのも、衛生面をどうにかしたかったからってのが大きい。
異世界の知識というのもメリットばかりではなく、微妙なデメリットが存在しているのだ。
まあ俺と言う存在に異世界の知識。そしてヴィンレットとしての感性や知識とかもあるので、二人分というよりは三人分の考え方的な物が俺の中にはある。
スラム暮らしに衛生なんて概念は無く、食えるならカビたパンや泥まみれの肉だって食べていた。
しかしそんな物よりも焼きたてのパンや肉の方が美味しいし、手掴みではなく食器を使った方が食べやすい。
綺麗な方が過ごしていて気分が良いし、臭いも無い方が良い。
それは身の回りだけではなく街にも言える事であり、一度慣れてしまえば維持したくなるのが人の性ってものだ。
俺が訓練終わりに毎回身体を洗っているのは、隠蔽のためってのもあるが、単純に綺麗な方が良いからだったりする。
そしてこの綺麗好きによるデメリットだが、戦いにおいて匂いとは結構厄介な物なのだ。
戦場で一人だけフローラルな香りを出していれば浮いてしまう様に、場所にあった匂いというものがある。
これは無臭にも言える事であり、浮いていればそれだけで位置がバレたり追跡されたりなんてしてしまうので、いざという時は多少の臭いは我慢しなければならない。
早々そこまで危険な状態に陥る事はないだろうが、そうなれば俺はストレスを抱える事になり、このストレスがデメリットとなる。
ヒモ生活を目指すのにストレスを抱えるなんてのは本末転倒以外の何物でもないからな。
へとへとなシトリスを伴ってギルドへと入り、運良く空いていたテーブルを確保しておくように頼んでおく。
まずは依頼書を提出して金を貰い、軽くダンジョンについて聞いてみる。
これといった問題や事件は起きていないのと、死人が出る様な魔物の出没もない事を知ることができたので、受付に礼を言ってから掲示板へと移動する。
ロックシューターは地下十層となっているが、五層目にはダンジョンボスが居るため、低ランクの冒険者は一層から四層で活動している。
五層よりも奥に行くには、Dランク冒険者三人以上は必要と言われている。
言われているだけで禁止とかされている訳ではないが、自己責任なので仮にミスをして死に掛けたとしても、ギルドが組織として助けてくれることはない。
因みに死人が出る魔物の出没の件は一層から四層までの話であり、五層目以降は分からない。
掲示板で確認する限り、出てくる魔物はコボルトとロックスライム。それからロックバットとゴブリン辺りみたいだな。
適当に素材の納入依頼を受けておき、ジュースを一杯頼んでからシトリスの所に戻ると、数人の男達に囲まれていた。
見栄の良い女性の冒険者あるあるってヤツだが、男は大抵女に飢えているものだ。
見栄で言えばシトリスは上位に入るので、出来ればパーティーに勧誘して……なんて考えているのだろう。
折角なので、少し様子見をしよう。
このまま他のパーティーに行ってくれるのならば、それはそれでありがたい。
シトリスの使い道はあるが、勇者の陰に怯え続けるのは嫌だし。
「良かったら俺達とパーティーを組まないか?見た所剣士みたいだし、前衛が不足しているんだ」
「結構です。他を当たって下さい」
「……舐めた口きいてんじゃねぇぞ?組まねぇってんなら、分かるよな?」
ふーむ。最近の若者は切れやすいというが、たったの一言であれとは。
怒声を出していないので分別はあるが、シトリスも俺の時とは違いキッパリと断っているな。
もしかして俺に対して猫を被ってたりするのだろうか?
「知りません。これ以上勧誘するならギルドの人を呼びますけど、良いですか?」
「……チッ!」
男達はそれ以上話す事無く、ギルドの外へと向かって歩いていく。
あの様子だと、俺達の後をつけて来そうだな……。
まあいざとなればシトリスに始末させれば良いだろう。
殺すかどうかは本人に任せ、ついでに巻き込まれた分の請求をしてやろう。
厄介ごとに巻き込まれる事になりそうだが、少し楽しくなってきたな。
「戻って来たよ。休憩はしっかりと取れた?」
「うん。ダンジョンの方は何か情報はあった?」
「ああ。とりあえずこれが受ける依頼で、俺達がいつも行っているダンジョンより出てくる魔物の種類が多いね。それと……」
受付で得た情報をシトリスへと共有しておく。
今回向かうのは四層であり、そこで鉱石類のドロップや宝箱を狙う。
宝箱を見付けられる確率はかなり低いが、何が出ても最悪金にはなるので、今回はいつもとは違い狙いに行く。
今のところ一度も見てないし。
深夜になる前に帰るつもりではいるが、場合によっては一泊か徹夜をすることも伝えておく。
因みにシトリスへは誤魔化したが、一泊か徹夜することになる場合の原因は、先程の冒険者が襲ってきた場合となる。
時間が取られ、状況次第では荷物が増えることになるので仕方ない。
その場合の食事だが、保存食の類を常に持ち歩いているので、空腹を紛らわす事位は出来る。
異世界の知識にある異次元ボックス的な物があれば荷物の問題とか楽になるのだが、そんな物は今の所見たことないので、持てる範囲で頑張ってやり繰りするしかない。
魔導具の製作を出来る知り合いが居ればもしかしたら作れるかもしれないが、出来る知り合いなんていないし、俺自身もどう作れば良いか分からないので本当に無い物ねだりだ。
脱線した事は頭の隅へと追いやり、シトリスへの説明を終えて、質問が無いかを聞く。
「あの、今回の目的って結局なんなの?」
「あれ?言ってなかったけ?」
「うん」
既に話していた気になっていたが……思い出してみると確かに話していなかったな。
道中も基本的に依頼主と話していたし。
「ちょっと妹に髪飾りでも作ってプレゼントをしようと思ってね。その鋼材や宝石集めだよ」
「妹って、いつも自慢している?」
「そうそう、その妹。ちょっと揶揄い過ぎたら拗ねちゃってね。お詫びとついでに小金を稼ぐために自分で髪飾りを作ってプレゼントしようってわけ」
「……その、私にも作って貰ったり……なんて?」
どうせ試作品を作ったりするので、シトリスにあげるのは構わないのだが、タダであげるというのはシャクだ。
「今日の働き次第で作ってあげるよ。まあ、まだ作ったことが無いから、上手くいくかは分からないけどね」
「うーん。少し不安だけど、分かったわ!」
技術的な物は魂が覚えているので大丈夫だとは思うが、この身体ではまだ作ったことが無いので本当に作れるかは定かではない…………大丈夫だろうけど。
そしてシトリスの働き次第とは言ったが、例の冒険者達が表れた場合、いくら頑張ったところで負債が勝つ事になるので、その時点でパーである。
まあどうせ作るので、上手く恩を着せてから渡すとしよう。
「それじゃあしっかりと休めただろうし、道すがらご飯を食べながら向かおうか」
「うん」




