第13話:隣の街へ
「今から隣の領地にある鉱山系のダンジョン。ロックシューターに向かうから、準備してきてね」
「えっ? えっ?」
「二十分以内に戻らなかったら一人で行くから、来るなら早くしてねー」
「わ、分かったわ!」
待ち合わせに来たシトリスへ準備を促すと、返事と共に走って去って行った。
文句を言わずに従ってくれるのは楽で助かる。
まあ仮に嫌と言われれば一人で行くだけなので、問題ないのだけど。
「クラリアさん。依頼の紹介ありがとうございます」
「良いのよ。本当に偶然だから。でも、今の様子だと伝えてなかったんでしょ? 大丈夫なの?」
「多分大丈夫でしょう。返事もしていたし」
ダンジョンのある街までの移動手段だが、流石に徒歩では時間が掛かり過ぎてしまうので、馬車を使用しなければならない。
だが家にある馬車は父上の物なので個人では使用できず、隣町ならまだしも隣の領までの馬車なんて早々ない。
そんなわけでクラリアに相談したところ、護衛依頼が出廷るとの事で、受けさせてもらえる事になった。
既に依頼主とは打ち合わせ済みであり、依頼書も交わしてある。
帰りについては問題が残っているが、まあ何とかなるだろう。
いざとなれば走れば良いし。
「良いなら良いけど、あの子も女の子なんだから、あまり虐めちゃ駄目よ?」
「節度は守っているよ。個人的には、ちゃんとしたパーティーを組んだ方が良いと思うけどね。俺と違ってやる気はあるみたいだし」
「うーん。それは私も思うけど、全部を全部任せている訳じゃないんでしょ?」
「どうだろうね。ほら、これでも貴族だし?」
「貴族……ねー」
そんな疑わしい目を向けないで欲しいものだ。
いや、俺も自分が貴族らしくないのは自覚しているし、男爵なんて下手な商人より金や権力が劣っている。
だからこそ貴族だーなんて騒ぐ奴も見てきたが、うちの父上はそうではないので大丈夫だ。
肉親の情はあるが、過った道を選ぶというのならば正さなければならない。
俺のようになってからは遅いし、一族郎党皆殺しなんてなっても困る。
「俺はまだ子供だから良いのさ。それに、家を次ぐ予定は無いしね」
「――それって話して良い内容なの?」
「高々男爵の後取りなんて知られても問題ないし、お家問題にもならないから大丈夫だよ。兄弟の仲も良好だし」
「なら良いけど、あまり貴族の問題を持ち込まないでよね。ここは居心地が良いから、あまり離れたくはない」
人が居ないことを良いことに俺とお喋りしているしているクラリアだが、嬉しいことを言ってくれたので、サボっていることは大目に見てやろう。
「父上の息子としては嬉しい言葉だね」
「乱暴者はあまりいないし、ご飯は美味しいし、おまけに森もしっかりと実っているわ。私みたいに枯れたエルフにはありがたい場所よ」
「因みに歳はいくつで?」
「五百からは数えるのを止めたわ」
そう答え、クラリアはお茶を上品に飲む。
……嘘ではなさそうだな。
俺が子供だからと適当ではなく、本当の事を答えたのだろ。
何も知らなければ流して終わる話だが、知っている人が聞けば驚愕の内容だ。
エルフとは大きく分けて、三種類存在している。
エルフ同士や他種族と交配しても、エルフとしての因子を失っていない、普通のエルフ。
上記とは別に、エエルフの因子と別の因子が表側に出てきたハーフエルフ。
そして純エルフと呼ばれている、ハイエルフの三種類だ。
ハーフエルフは因子次第で寿命が変わるが大体百歳前後とされ、エルフは三百歳位と言われている。
そしてハイエルフだが……言い伝えでは千歳とされている。
全てのエルフに言える事だが、若い姿を長く保てるので、見た目から年齢を探るのは難しい。
そして歳を取ったエルフ程魔力の操作が上手く、魔力からも年齢を読み取るのが難しい。
クラリアがどんな種族でも構わないが、もしもハイエルフで相応の年齢ならば、一つだけお願いしたい事がある。
「そう言えばクラリアさんは水の魔法って使えますか?」
「そりゃあエルフなんだから使えるわよ。毎朝花壇のお花にあげているわ」
エルフと言えば水よりも風魔法な気がするが、好都合なので問題ない。
後は本当にハイエルフであれば良いのだが、とりあえずカマを掛けてみるか。
「なるほどエルフと言えば風魔法だと思っていましたが、ハイエルフは水魔法も使えるんですね」
「それはそうよ何なら自然属性なら全部…………あっ」
完全に世間話のノリで話していたからなのか、本当に引っ掛かるは思わなかったな…………。
それだけ気が緩み、ここは住み心地の良い場所なのだろう。
幸い周りに人はいないため、俺達の会話を聞いている人間はいない。
まあクラリアがハイエルフと知られたところで、ただ単に客寄せパンダになるだけで、これと言った問題は無い。
この街にエルフの冒険者や定住者が沢山いれば大変だが、これでも田舎だからな。
エルフはハイエルフを自分達の上位種と慕っており、一緒にしておくと面倒が起きやすい。
なので、ハイエルフは自分達がハイエルフという事を隠す。
ハイエルフとエルフでは割りと大きな違いがあるが、一種の変身の魔法を使えるらしく、ぱっと見では分からない。
現にいくら見てもクラリアの見た目はタダのエルフであり、魔力も魔法を使っているようには見えない。
仮にカマを掛けて流されたとしたら、そこまでの話だった。
ただ、最低でも四属性を使えるとは、まるで賢者みたいな奴だな。
あいつは男だったし、クラリアとは性別からして全く別だ。
何よりあいつの知識は役に立ったが、物凄くひねくれた奴だった……。
敵でも味方でもうざいことこの上ない。
そう言えば俺があのひねくれやろうがハイエルフだと知ったのは、最後の戦いの時だったな。
変身魔法を解いてからの魔法は、数割り増しで強烈になり、精度も気持ち悪い位的確だった。
「……うっかりさんとか言われません?」
「出来れば黙っていてくれるとありがたいなー……なんて?」
「勿論誰にも言わないさ。居て貰えるだけで最悪の事態は避けられるし、デメリットはないからね」
ほっと一息つくクラリアだが、ここからが本番だ。
「因みにだけど、精霊魔法とか教えて貰えたり出来ない?」
「精霊魔法? あんなの面倒なだけで、あまりメリットは無いよ?」
クラリアの言うことがもっともなのは知っているが、もしも使えた場合大きな利点となり得ると俺は知っている。
過去の俺は微塵も適性はなく、なんなら精霊魔法を使われて散々弄ばれたが、精霊魔法の大きな利点は、術者が一から十まで魔法を使う必要が無い点だ。
ついでに魔力感知に引っ掛かり難いのもあり、使われる側となると物凄く厄介だ。
「それでも利点はあるからね。まあ、素養がないと駄目らしいけど、俺ってどう?」
「うーん。流石に見ただけじゃ私も分からないわ。けど、そもそ精霊魔法ってあまり教えて良いものじゃないのよ?」
「そこは口止め料ということでどうにか。使えないなら諦めるからさ」
精霊魔法自体はエルフでも使え、なんなら姿を変えていた賢者は世間話の流れで素養を見てくれたが、あれは異端なのだろう。
「うーん。多分駄目だろうけど、とりあえず調べるだけはやってあげるわ……あっ、シトリスちゃんが戻ってきたわよ」
「それじゃあまた後日。約束はちゃんと守るからね」
慌ててギルドへと入ってきたシトリスを伴い、依頼主の居る場所へと向かう。
ランクが高くないので、欲しい宝石の原石が手に入るか分からないが、駄目だったら適当に買ってしまうか。
作るための器具も買わないといけないので予算を圧迫するが、今回稼いだ金で最悪でもトントンとなる位だろう。
マイナスにさえならなければ問題ない。
「確認だけど、忘れ物はないな?」
「うん。服と貴重品はちゃんと持って来たから大丈夫だよ」
「なら良かったもしかしたら向こうで一泊するかもだけど、その時の支払いはお互いのポケットマネーって事で宜しく」
「……うん」
パーティーはパーティーでもパーティー資産とかは全く作っていないので、基本的に支払いは個々である。
俺の我儘に付き合わせる事にはなるが、それはそれこれはこれである。
着くまでのんびりといきたいが、一応護衛となるので、やる事をやらなければならない。
「護衛だけど、基本はシトリスが後ろで、俺が上から見るから、そう言う事で宜しく」
「それって、私だけ外で歩くって事?」
「適材適所さ。俺は後衛で、シトリス前衛。なら、場所も相応じゃないとね」
「前衛も出来る癖に……」
「ほら、待たせているからいくよー」
出来るからと言ってやる必要は無い。
さて、馬車の上でお手玉でもするとしますか。




