第12話:ステラと遊ぼう
家で適当に勉強し、ウォーターボールでお手玉をし、父上の執務を手伝い、シトリスと依頼をこなす事早一ヶ月。
ふと布団から起き上がった時に思った事がある。
俺……働きすぎではないだろうか?
いや、確かに金は必要であり、最低限シトリスを使える様にしなければならないし、俺も錆落としをしておいた方が良いだろうと考えた。
確かにしっかりと睡眠時間を取ってはいるが、一般的に言う遊びと言うものをこの一ヶ月していない。
……別に趣味とかがある訳ではないが、来る日も来る日も自分を鍛え続けるのは間違っているし、俺の目標とする行為からは程遠い行いだ。
不安がないかと聞かれれば嘘になるが、この一ヶ月で勇者関連の話を何も聞いていないし、シトリスが勇者の娘という噂も広がっていない。
そして今更だが、ギルドの登録時にフルネームにする必要は無かったと思う。
シトリスとは違い知られて困る名前ではないが、名前と言う情報はとても大きなものだ。
今世は悪い事をする気は無いが、何かしらの理由で父上や母上が害されるなんて事になってはたまらない。
まあ名乗らなければ良い事だし、ギルドもそう簡単には冒険者の名前を売らない…………俺は売られたけど。
名を上げる気は無いので、あくまでも可能性の一つとしての危惧だ。
さて、今日はダンジョンに行く日でもないので、久々に遊ぶとしよう。
そうと決まれば、ステラに会いに行くか。
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「やあステラ。今日も可愛いね」
「……何か用?」
着替えを終えてから飯を食い、ステラの部屋に向かうといつものジト目で迎えてくれた。
会いに来て思い出したが、この一ヶ月兄弟とほとんど会っていなかったな。
夕飯の時、一緒に食べる事はあったがほとんど話してもいなかった。
「妹に会うのに理由が……冗談だよ冗談。今日はやる気が出ないから、ステラと遊ぼうと思ったのさ」
「やる気って……駄兄が真面目に何かしている所なんて全く見てないけど?」
そりゃあ家に居る時は父上の執務室に居る事がほとんどだし、訓練は森で行っているので、噂すら広がる事は無い。
ただ、父上と戦って以降母上がかなり優しくなった様な気がする。
朝起こす時は布団を引き剥がすのではなく、魔力を無理矢理活性化させて起こすようになったし、父上の手伝いをする時間も少し減った。
それと、父上が庭で剣を振っている姿を見る機会が増えたけど、剣を振る前に仕事をして欲しい。
たまに母上がキレているので、切実にそう思う。
「そりゃあ基本的に部屋にも屋敷にも居ないからね。ステラが俺を見かけるはずが無いよ」
「……そう。それで、遊びって何をするつもりなの?」
「何も考えてない」
ちょっ! 痛い! 痛いから脛を蹴るのは止めて欲しい。
人目が無い事を良い事に、兄を蹴るとは……。
兄としての威厳なんて既に捨てているが、もう少し優しくして欲しい。
遊び……遊び……。
「あっ、良いのを思い付いた」
「何かしら?」
「これで球投げをしよう」
ウォーターボールをとりあえず三つ浮かべ、一つをステラに向かって軽く投げる。
母上から教えて貰ったお手玉と、異世界の知識からの発想を得た。
本来は外でやるものだが、少し工夫すればいけるはずだ。
「…………なんで二種類使う駄兄の方が魔法のコントロールが良いのよ……」
「最近は母上に教えて貰った方法を、暇な時にしているからね。後でステラにも教えて上げるさ」
「ふーん。なら良いわ。それで、これで何をするの?」
「さっき言った通りさ」
ルールは簡単で、少し離れて球を投げ合い、落とした方が負けとなる。
それと足を動かしてはいけないのと、手の届かない場所に投げても負けとなる。
ついでに弾くのは禁止であり、必ず一度手で握ってから投げること。
折角なので、負けたら勝った方が一つ命令出来る事にした。
一応俺の魔法となるので、俺がズル出来るのだが、妹相手に卑怯な事をするほど俺は落ちぶれていない。
因みに玉の数は三つでスタートとなる。
「面白そうね……。そうね、私が勝ったら、髪飾りでも買ってもらおうかしら。勿論高級な奴をね」
「なら、俺が勝ったら一か月間お兄様と呼んでもらおうかな」
髪飾りか……そう言えば昔、暇つぶしにアクセサリー作りをしていた事があったな。
宝石はそのまま売っても良いのだが、加工してから売った方が、儲けが良かった。
傭兵として軌道に乗ってからはあまりやっていなかったが、それなりに綺麗に作れていた自負がある。
聖女なんかにも空いた時間で作ったのをプレゼントしたが、結構好評だったし。
あいつの事だから、嫌味を込めてなんて事は無いはずだ。
ふむ、折角だし今度何か作ろう。土魔法は使えないが、火属性が使えれば精製も出来るし、宝石については自分で掘りに行けば良い。
ステラの青い髪に合う宝石か……無難に青か、それとも反対に赤か。
あるいは透明なのも悪くないな。
いっその事魔導具として髪飾りを作るのありだな。
貴族とはいえ、男爵では学園で大変だろうし、何かしら防壁を張れる奴を作って送れば、少しは安心出来る。
ただ、一回の使い切りで良いなら簡単に出来るが、魔力を循環させて複数回使えるようにするのは少々大変だ。
少し楽しくなってきたが、まずはステラと遊ぶとしよう。
「それ位構わないわ。それじゃあ、えい!」
中々に鋭い投擲だが、腰を入れられない分そこまでの速さではない。
だが、俺の手には残りの二つのウォーターボールが握られているので、右手の奴を山なりにステラへ投げ、ステラが投げたのを受け止める。
そして山なりに投げた奴が、ステラが取れる範囲へと入る直前に左手の奴を真っすぐ投げる。
少しだけ死角になる投げ方だが、曲りなりにもステラはあの母上の娘であり、魔法を得意としている。
魔力感知がしっかりと出来るのならば、死角の魔法も難無く気付く事が出来る。
ステラは山なりの奴を掴むとスピンをかけながら直ぐに投げ返し、僅かに後ろへと行ったもう一つのウォーターボールを掴む。
焦っている様子はなく、一連の流れは意識しての事だろう。
流石我が妹だ。
それからしばらくの間お互いに様々な方法でウォーターボールを投げ合う。
ステラは猛々しい笑みを浮かべながらも少しずつ上がるスピードに食らい付いてくるが、歳の差というスペック差を覆すのは難しい。
俺が手を抜いたり、凡ミスをすれば負ける可能性はあるが、そんな事をする気は無い。
ステラがたとえ子供でも、勝負とは勝たなければ意味がないのだからな。
少しずつ速度を上げ、投げる球にも変化を加えていく。
距離的にカーブや上下に激しく動かす事は出来ないが、球に球を掠らせて軌道を変えたりなんかは出来る。
五分もするとステラからは余裕が完全に消え、無意識なのだろうけど、身体強化をしている。
魔法の使用をルールに含めていないので問題ないと言えば問題ないが、そこまでして負けたくないか……流石俺の妹だ。
けれども、勝つのは俺だ。
右回転を掛けながらウォーターボールを投げ、そのウォーターボールに向かって左回転を掛けたウォーターボールを投げる。
二つのウォーターボールは弾かれる様にして左右に分かれる。
ステラの手が届く範囲は既に完全に把握しており、手を完全に伸ばしきらない程度に飛ぶように調整してある。
だが、ウォーターボールに掛けた回転はかなりのモノなので、取り方次第では手を弾くだろう。
そしてステラは…………。
「俺の勝ちだな。中々面白かっただろう?」
「…………そうね。思ってたよりも熱中出来たわ駄兄?」
「うん? 上手く聞こえなかったな。なんだって?」
「――お兄様」
悔しそうに目尻に涙を溜めながらも、しっかりと約束を守るのは、母上の教育が良いからだろうな。
しかし、思ってたよりもステラが食い付いてきたな。
しっかりと訓練をしているようでなによりだ。
「さて、二回戦と行く前に母上から教えて貰った訓練方法を教えよう。母上が教えてくれただけあって、効果はたしかだよ」
「前置きは良いから教えなさい……お兄様」
物凄く頭を撫でてやりたいが、これ以上は本気で泣きかねないので自重しておこう。
一ヶ月前に母上から教えて貰った方法をそのままステラへと教えるが、三つではなくて二つから始めるように説明した。
杖なしでの魔法がまだ完璧ではないのと、発動したウォーターボールを見ての判断だ。
訓練方法を怪訝そうに聞いていたステラだが、母上の名を出しているのでしっかりと聞いてくれた。
「確かに魔法のコントロールには良さそうね」
「コツは数を増やすことよりも、一つ一つの形をしっかりと保つ事だね。これが中々難しいんだ」
今の球投げも三つだからなんとかなったけど、五つ以上は俺の頭が持たない。
魔法の維持に球をどう投げるか、どう取るか。
勝つための方法にも思考を割かないとなので、やっている内に鼻血を出し、その後に倒れるだろう。
「さて、二回戦といこうか。ハンデはいる?」
「いらないわ。次こそ私が勝つ!」
間を置いたことでステラのやる気は戻り、二回戦を始める。
久々の妹との触れ合いは楽しいものであり、良い気晴らしになった。
今度はジオとも遊ぶとしよう。ジオには次期当主になって貰うため、迷惑を掛けるだろうから、出来る限り力になってやりたい。
それと、明日はダンジョンに行く日だが、シトリスと一緒に鉱山に行くとしよう。
馬車で半日以上掛かるが、そこまでランクの高くない鉱山系のダンジョンがあり、そこで鉱石を掘ろうと思う。
シトリスは雑用兼壁役として役に立ってもらおう。
母上にも数日家を空けると言っておかないとな。




