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ロストワーカー~騙された傭兵はヒモ生活を夢に見る~  作者: ココア


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第11話:グランシャリオ

 ダンジョンを適当に徘徊し、手当たり次第に魔物を倒す事大体三時間。


 依頼の品も集まり、魔石もそれなりの量手に入った。


 依頼を受けてそのままダンジョンへと来た俺が悪かったのだが、シトリスはドロップ品や魔石を入れるための鞄を持って来ていなかった。


 ダンジョンに入る場合鞄は必需品……というか持ってくるのが当たり前すぎたため、確認すら俺はしていなかった。


 そんなちょっとした事件はあったものの、怪我一つすることなく外まで戻って来た。


「やっと帰ってこられたね。一息つく前に、先に達成報告を済ませちゃおうか」

「うん。分かったわ。それにしても、日の光が目に染みるね……」

「ダンジョン内も明るいは明るいけど、日の光みたいな感じじゃないからね」


 日帰りならば少し違和感を感じる位で済むが、これが数日ダンジョン内で過ごす場合、色々な問題点が出てくる。


 時間や日付の感覚が狂ったり、ダンジョン次第では平衡感覚もあやふやになったりしてしまう。


 セーフポイントで休めれば良いが、それでも見張りを立てないといけないし、様々な要素が心と身体を蝕んで来る。


 それに比べれば戦場はかなり楽だ。


 兵士や騎士とは違い、傭兵はやる事をやればかなり自由が利く。


 唯一の欠点は与した勢力次第では肉壁として使われる事があるって点だ。


 冒険者も傭兵も自己責任だが、傭兵の最後ってのは大体冒険者よりも惨いことが多い。


 なんて過去を振り返っている間に出張所にて魔石と毛皮を渡し、証明書に変えてもらう。


 今日の収入は銀貨二十五枚か。


 宿屋の平均的な金額が銀貨五枚程度なので、悪くない稼ぎだ。


 今日稼げたのは特別依頼のおかげなのが大きいので、同じ金額を普通に稼ぐのは少し大変だろう。


「へー、これが証明書なのね」

「後は街に帰ってギルドに提出すれば、これに書かれている金額が貰えるけど、無くすと一日の稼ぎが無くなるから、これだけは無くさないようにしておけよ」

「えっ……」


 証明書をシトリスに渡し、軽く注意する。


 ソロなら完全に自己責任だが、パーティーだとこの紙切れ一枚を無くすとパーティーが崩壊するなんて事が起こる。


 俺が持っていても良いが、お金の大切さを教えるために、今日はシトリスに持っていてもらう。


 今日は軽く確認だけをしたが、シトリスは下手な新人冒険者よりも上等だ。


 ナナホシはロングソード程長くはないが、相応の重さがある。


 そんなナナホシを装備し、鎧も皮だが来ているというのに、そこまで疲れている様には見えない。


 気弱そうな雰囲気は変わらないが、これだけ動けるのならば文句はない。


 冒険者としてしっかりと育てれば、良い線いくだろうが、あの勇者の娘なのがな……。


 血筋故の才能はあるのだろうが、勇者に今睨まれるのは困る。


 もしも戦った場合、文字通り瞬殺されて終わる。


「ヴィンはこの後どうするの?」

「思ってたよりも早く終わったから、一休憩してから家に帰るよ。明後日にまた来るから、明日は休みね」

「……うん。あの、ちゃんと明後日は来るんだよね?」

「一年間はこの領から出られないから、ちゃんと来るよ。お金を稼がないといけないしね」


 詮索はしないと決めたが、あの勇者の娘にしては妙に消極的というか、控えめな感じだ。


 俺の中のあいつはダル絡みしてくる陽キャって感じの印象なので、シトリスを見て親があれだと分かる方が無理だろう。


 まあ面倒な奴ではあったが、リーダーシップがあり、情にも熱い男だった。


 だからこそ最後に託したのだが……一体何をやっているのやら。


 あいつが子供を放置しておくとは考えられないのだが、あいつの住んでいる場所が変わっていないのならば、馬車で大体二日から三日位か?


 うーん。なんか裏がありそうな気もするが、悪意があるならばともかく、そう言ったものは感じられない。


 転生してからは温かい生活をしているせいか勘も結構鈍っているし、この一年で勘も取り戻しておいた方が良いかもな。


 正直気は進まないが、こんな世界では何が起こるか分からない。


 商人になったとしても、盗賊や強盗にも備えなければならないし、用心棒を作る予定だが、だからと言ってブクブク太っては恰好の的でしかない。


 全盛期とまでとは言わないが、最低限転生前の状態に戻しておいた方が良いだろう。


 勇者が現れる可能性もゼロではないし。


「っと、やっと帰って来られたね。さっさと報告したら、打ち上げでもしようか」

「そうだね。私も少し疲れちゃった」


 戦いの後と言えば酒だが、冷たいジュースで妥協しておくとしよう。


 水の派生として氷の魔法も使えるが、まだ精度が悪くて良い感じの氷が作れない。


 四角い氷を作れるようになれば、追加料金を払わなくても良い様になるんだけどなー。







1






「今日はお疲れ。それじゃあまた明後日ねー」

「うん。またね」


 依頼の報告が終わり、打ち上げを終えてヴィンレットが帰って行く。


 その様子を見て、シトリスは小さくため息をつく。


 シトリスはヴィンレットが考えている通り、勇者の娘である。


 世間的に勇者の名は知られ、子供がいる事も知られているが、その子供についてまで知っているのはあまりいない。


 勇者の娘は双子であり、その方割れの姉がシトリスだ。


 だが、勇者には双子の娘ではなく、娘しかいないと言われている。


 勇者としての才能を、シトリスは何一つとして持ち合わせておらず、妹は勇者を超える存在だと呼ばれる程の才能を秘めていた。


 勇者はシトリスにも愛情を与えていたが、世間の目はシトリスの妹にしか向いておらず、シトリスはいないものとして扱われた。


 せめて家族からの愛情があれば変わったのかもしれないが、不幸な事に父親である勇者以外からは奴隷に近い扱いをされていた。


 その勇者も多忙な事から家に居る事は少なく、母親と妹の隙を突いてシトリスは逃げ出した。


 これだけならばただの家出だが、シトリスは勇者が最も大切にしている二振りの剣の内片方を持ち出す。


 片方は勇者の愛剣であるために家には無かったが、ナナホシは家の倉庫に置かれていたのだ。


 無論盗まれない様に様々なセキュリティーがあったのだが、シトリスは自慢げに勇者が話していたのを聞いていたため、全て解除出来てしまったのだ。


 家出はともかく、剣を盗み出した事がバレれば親子とはいえ大変だが、勇者が長期出張するのに合わせて家出をしたため、今の所バレてはいない。


 母親も妹もシトリスがいない事には気付いているものの、探す気はさらさら無く、シトリスの作戦は成功したと言える。


 そしてそんなシトリスが田舎のギルドを選んだ理由だが、一つは田舎ならば素性を知っている人が居ないからだ。


 二つ目は……。


「ねぇ、本当にあの人なの?」


 ヴィンレットと別れたシトリスは宿屋へと戻り、剣へと話しかける。


『間違いねぇ。この俺が主人を間違うはずがないからな。あいつがあのロストワーカーで間違いねぇ』


「でも、あの人って死んだんじゃないの? それに、あなたが言う通りなら魔法は使えないんじゃ?」


『転生なんてのは珍しい事じゃねぇよ。それに、あいつは俺を見て明確に反応をしていたからな。記憶も残っているみたいだ』


 二つ目の理由とは、ヴィンレットがナナホシと呼んでいた剣のせいだ。


 生前のヴィンレットはナナホシと話すことは出来なかったが、シトリスはナナホシと話す事が出来たため、家出をする時に契約を持ちかけられたのだ。


「ふーん。でも、あの人大丈夫なの? なんだか凄くぽわぽわしてたけど?」


『てめぇもあいつが強いのは分かってるだろ? 剣の腕は錆びついていねぇみたいだし、なんなら魔法が使える分強いかもしれねぇな。それに、良い奴だったろ?』


「……うん。とても」


 シトリスは表情を和らげ、今日の事を思い返す。


 ナナホシが煩いから仕方なくヴィンレットへと話しかけ、なんとかパーティーを組む事が出来た。


 パッと見はどう見ても凄そうには見えないものの、言動通りに何でも出来る男であり、何かと優しい男であった。


 年上である自分をまるで妹の様に扱っている点だけは物申したかったシトリスだが、残念ながらそんな勇気を持っていない。


 剣とは対等に話せるシトリスだが、これまでの生活で対人能力はとても低いのだ。


『しかし、勇者の奴も不甲斐ないったらありゃしねぇなぁ。人数揃えて戦わなけりゃ勝てなかったってのは仕方ねぇが、子育ての一つも出来ないとはなぁ』


「……お父さんが言っていた事って、やっぱり嘘なの?」


『嘘と言うよりは、やり過ぎちまっただけだな。いつの世も、過ぎた力ってのは疎まれるもんだ。それが制御できないって言うなら猶更だ。俺が言うのもおかしいが、悪いのは結局あいつだ』


「……うん」


 まだ子供であるシトリスにとって、ナナホシから聞いた話は衝撃的だった。


 そしてその事を父親に聞く訳もいかず、悶々としている。


 シトリスにとって、父親は尊敬する存在であり、そんな父親が罪の無い人を殺したとは考えたくない。


 ナナホシ不器用な励ましの声を聞いて、少し気落ちするものの、シトリスはすぐに持ち直す。


「ところで、本当に返さなくて良いの?」


『ああ。契約者はてめぇでありあいつじゃねぇからな。それに、あいつは俺の名前すら勘違いしてるからな。まあ、ピンチになったなら一時期的に帰らないこともないがな』


「素直じゃないんだから……これからも宜しくね、グランシャリオ」


『おう。マスター』


 ヴィンレットはナナホシ――グランシャリオの事をただの丈夫な剣としか認識していなかったが、それはグランシャリオと契約していなかった以上仕方のなかい事だった。


 そう、グランシャリオの正体は過去に星の剣と言われていた――――神剣だった。


 今はまだその真価を発揮することは出来ないが、もしもヴィンレットが今のタイミングでシトリスの思惑やグランシャリオについて知っていれば、情けなんてかけずに絶対にパーティーなんて組まなかっただろう。

 

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