第14話 私、やりたいんだ
「え?アイドル?」
クラスメイトの菊池チセちゃんから突拍子もない事を言われ、私、河本鈴蘭は思わず聞き返してしまいました。
「そう、アイドル。鈴蘭さん、可愛いしなんでも出来そうだし。何より二年ぼっちはさすがに嫌」
褒めていただけるのは嬉しいですけど、私、アイドルとか向いてないと思うんですよね。
というか。チセちゃんがアイドルをするということが驚きです。チセちゃん、帰宅部で特にやりたいことも無く、学校中の噂ばかりを追いかけ回しているイメージでしたから。
私のその考えが伝わったのか、チセちゃんは溜息をつきつつ言います。
「私、別に入りたいって言ったわけじゃないよ。いいネタになりそうだなって思ってポスターを見てたら、先輩に誘われちゃって。なんか色々あって何故か入ることになった。……ったく、私は本来、人と深い関係を築くのなんてごめんだし、なんの取り柄もないただの情報屋だっていうのに」
……普通の女子高生は情報屋なんてしないと思いますけどね?
なるほど、チセちゃんは自分から入った訳では無いと…でも、チセちゃんは良くも悪くも顔に出やすい子で、嫌なことははっきり言う子です。なら、少しはやってみたかったのかな?なんて言ったら絶対に否定されるから、言わないけれど。
「うーん、私、向いてないと思います。ダンスも歌も未経験ですし、話すのも上手くないですし」
私がそう言うと、チセちゃんは真面目な顔をして
「そんなことないと思う。鈴蘭さんなら絶対可愛いアイドルになるよ。お願い、ちょっとでいいから考えて貰えないかな?」
その言葉に、私はうん、と頷いていました。
チセちゃんの目が真剣だったから。真剣な人にいい加減な態度で応じるのは失礼ですよね。
「ありがとう」と言うチセちゃんにいえいえ、という意味を込めて笑顔で首を振っていると、SHRの予鈴が鳴り響きました。
チセちゃんは自分の席へ。私は自分の席へ向かい、鞄の中から教材を取り出します(教室に入ってからすぐにチセちゃんに話しかけられ、そのまま立ち話をしていましたから)。
ここまでは、いつも通りの私だったんです。
でも、それから先はいつもとは違って。先生の話にも授業にも集中できなくて、先生の質問には答えられないし小テストは満点を取れないしで、滅茶苦茶でした。
集中しなきゃ、とは何回も思いました。でも、その度に、脳内にチセちゃんの言葉が蘇るのです。
私は、アイドルをしたいのかな?私のことなのに、よく分からなくて。放課後、気が付いたらいつも礼拝をする礼拝堂の前に立っていました。
私に気付いた神父さまが、手招きして礼拝堂の中へ入れてくださいました。そして、近くの席に座り、私にも座るように促してくださいます。
「どうしましたか、鈴蘭さん」
その優しい言葉を聞き、私は思わず言ってしまいました。
「私、クラスの方にアイドルに誘われたんです…あのHIghschoolDreamLiveに出ないかって。でも、私、歌もダンスもやったことないから、出来ないと思います。それに、神様もお許しにならないと思います…」
神父さまは私の話を静かに聞いて下さり、私の話が終わると口を開きました。
「鈴蘭さんはやりたいのでしょう。それならばやってみたらいいと思います。別にアイドルは背徳的な行動ではないし、神様も鈴蘭さん自身がやりたいと望んだことを応援してくださいますよ」
そうなんですね。
神父さまの言葉で気付きました。私、やりたいんだ。断れなくて、とかではなく、やりたいんだ!
「ありがとうございました、神父さま」
私はお礼を言い、礼拝堂を後にしました。
ああ、早く明日になってほしい。早くチセちゃんに、伝えたい…!
次の日。私は登校したらすぐにチセちゃんの席に向かい、言いました。
「おはようございます、チセちゃん。私を、アイドル部の先輩方に紹介してください!」




