第12話 そんな訳ない
「花蓮ちゃん!!」
振り向いた実莉ちゃんが大きな声で私の名前を呼んだ。どうかしたのかな?
って、あ!ポスターの前に人がいる!!
「あなたもアイドルに興味あるんですか!?」
私が言うと、「だからないですって!」とその人は言う。シューズのラインが青だから…二年生さんかな。
ん?なんで私、初対面で、しかも今初めて話したのに、こんなに喧嘩腰に言われたんだろ?
その人と実莉ちゃんは睨み合ったまま動かないし……
うーん、どうしたものか…というか、どうも出来ない気もするけど……
私が一人頭を悩ませていたら(ちなみに未だ二人は睨み合ったまま)、ダダダダッと言う足音…走ってる音?と共に、「おーい!」と言っている、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
あ、もしかして…
「瑠奈!?」
「瑠奈ちゃん!?」
私と実莉ちゃんが驚いて振り返ると、そこには瑠奈ちゃんが立っていました。
ていうか、声から察するに、結構遠くだったような……しかも、ここまで走ってきただろうけど、息ひとつ切れていない。
うわあ、瑠奈ちゃん、体力お化けだ……
そんな(失礼?な)私の思考をつゆ知らず、瑠奈ちゃんはさっきの女の子に満面の笑みで近付いて、手を取って言った。
「わあ、あなたも、アイドルに興味あるの!?嬉しい、今全然部員集まらないから待ってたんだよー!」
あらら。
女の子、なんかもうぐったりとした感じになっている。よく分からないけど、ごめんなさい……ごめんなさい?
「三年の野沢瑠奈先輩ですよね。私、アイドルに興味がある訳では無いです。だから、その手を離して貰えませんか」
あれ、瑠奈ちゃんのこと知ってるのかな…?でも、瑠奈ちゃんの方は女の子のことを知らないっぽい。あと、瑠奈ちゃんにだけ丁寧な話し方なのは、なんとなく癪だなあ……
「んー、なら、なんで見てたの?」
瑠奈ちゃんの問いに、「何となく見ていただけです」と答える彼女。でも、その冷たい視線にも負けず、瑠奈ちゃんは言った。
「へー、そうなんだね。あのさ、もし良かったら、私たちと一緒にアイドルしない?」
ん?
瑠奈ちゃんの何の脈絡もない発言に戸惑う私たち。なんでそうなったの?
女の子も戸惑った様子で、「どうしてそうなったんですか…?」と言っている。それはそうだよ。
その女の子の問いに、瑠奈ちゃんは満面の笑みで言った。
「だって、あなた、めちゃくちゃ可愛いから!だから、一緒にやってくれたら嬉しいなって思ったんだ!」
純度百パーセント、最強のスマイルで放たれたその言葉に度肝を抜かれたのか、女の子は些か勢いを失って言いました。
「私が、可愛い…なわけ」
「あるよ!私、初めて見たとき、めちゃくちゃ可愛いなって思ったんだよ!」
食い気味に返す瑠奈ちゃん。その目はどこまでも真っ直ぐで、キラキラしていました。
「だからさ、一緒に、アイドルしよう!」
そう言って右手を差し出す瑠奈ちゃん。女の子は躊躇いながら手を差し出した。
「えへへ、ありがとう。よろしくね!メンバーは私と、そこにいる三年の実莉と、そこの一年生の花蓮ちゃんと、あともう一人、颯姫っていう子がいるの。ほら、早速、颯姫が待ってるところに行こ!」
そう言い、差し出された手を握って、瑠奈ちゃんは駆け出した。って、ちょっと待って……!!
瑠奈ちゃん(とその女の子)に置いていかれた私と実莉ちゃんは、急いで二人を追いかけました。
「なんだったんだろうね?」
「わからないね?」
なんて、笑い合いながら。
……ちなみに、一人残されて拗ねた颯姫ちゃんを宥めるのは、また別の話……




