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陽炎隊  作者: zecczec
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第47話 三は2増えたら五になるだろ

 スイルビ村は村民全部合わせても30人に満たない小さな村である。

 国内でも北側にあるせいか少し冷え冷えとしている。 しかし村民は心暖かく親切でつつましやかに生活をしていた。

 今、弓は教会に来ていた。 この村にある唯一の小さな教会だ。

 教会の司祭が祭壇の前に机を置き、その上に置かれていた羊皮紙の巻物に色々な呪文を書いては確認していた。

 そこに村民が時々来ては司祭に祭に参加する者の名前を告げる。 司祭は特別な万年筆で羊皮紙にさらさらと名前を書く。 羊皮紙のすぐ横には白い紙で人形が作られており、羊皮紙に書かれた名前がじわりと浮き出していた。


「ねー、弓ちゃん。 早く言って帰ろうよー。 お腹すいた」


 そう言って弓のスカートの裾を引っ張ったのは義軍である。


「あ、……うん、そうね」


 弓は微笑んでいるが元気がない。

 弓から少し離れた所で少年達がそんな弓の姿を見ながら話をしていた。


「弓、落ち込んでるな」


 そう言ったのは義軍にそっくりな兄、世尊だった。


「また何かあったかな……」


 そう続けたのは金髪の片目の少年、清流。


「何かって何だ?」


 怒ったように清流につっかかるのは一部だけ長い黒髪を一つ結びにした少年、羽織。


「世尊、清流、何も言うな? 言えば羽織がキれるからな」


 と、清流と世尊に告げるのは翼を持つ少年、巳白だった。

 弓は顔こそ微笑んでいたが、時々ふぅ、とため息をついていた。


「ほりゃ。 弓。 いつまでそこに居る。 もう他の者たちは手続きをすませたぞ。 早く来て参加者の名前をいわんか」


 司祭が弓に告げた。 もう弓たち以外に届けを出していない村民はいなかった。

 弓はゆっくりと歩いて司祭の前に来る。


「参加者の名前は、巳白、そして――」


 一人一人弓が名前を告げる。 そして司祭がそれを書き留める。 


「最後に、義軍。 ……以上の、八人です」


 弓は告げ終わった。 そこにリトの名は無かった。

 弓は、やはり、切なかった。

 とても、寂しかった。


「それではこれで終わりかの?」


 司祭はそう言って羊皮紙の最後の方にすらすらと文字を書く。


「以上八名、合計者数三三名。と。」


 そして司祭が羊皮紙をくるくると巻き始めた時だった。

 教会の扉が荒々しく音を立てて開いた。


「ちょーっと待ってよ司祭のおっちゃん」


 そこにアリドの声がした。

 司祭や村人、そして弓たちがアリドに注目した。

 アリドはずかずかと司祭の前まで来ると親指で後ろを指して言った。


「こいつ入れてやって」


 皆が一斉にアリドの親指が指した方を見る。

 そこには走ってきたのだろう。 肩でハアハア息をしながら扉に寄りかかっている少女がいた。

 弓が思わず叫ぶ。 


「リト!」

「おら、リト、早く来い」


 アリドが乱暴に呼ぶ。 リトはおそるおそる教会の中に入り司祭の前まで行った。


「え、えっと、初めまして。 こんばんは。 リトゥア=アロワです」


 リトは挨拶をした。 司祭も「こんばんは」と挨拶をしたが羊皮紙を丸めた手はそのままだった。


「あの、土曜日の村祭りに参加させて頂きたいのですけど……」


 リトは言った。 これで参加できたと思った。 

 ところが司祭は可哀想にという顔をして顔を横に振った。 


「済まぬがお嬢さん、これはごく内輪での村での祭り。 一見の者を入れることはできないのじゃよ。 この村の者に誘われたなら入ることもできるのじゃがて」


 リトは司祭の言葉が終わるか終わらないかの時に答えた。


「私、誘われました」


 司祭が不思議そうに目を見開く。


「誰にじゃ?」


 リトは呼吸を落ち着けてはっきり言った。


「弓、弓さんに……。 私、彼女の友達です」


 そこにいた者全員が驚いて息をのんだ。

 弓もリトの言葉が信じられないようで硬直したままリトを見ていた。

 リトは言葉にならない思いを必死に言葉に変えて言った。


「私、弓に誘われて、誘われていたんですけど、どうしようか考えてたら今日になって。 いろいろあって、返事できなくて。 えっと、でも、でもやっぱり……」


 リトはやっと一つの言葉にたどり着いた。


「その……私、友達でいたいんです。 弓と」

「リト!」


 そこで初めて弓が声を出した。 弓は両手で口を押さえ、そしてそのの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。 リトは弓の方を向いた。


「弓、ゴメンね。 遅くなっちゃった」


 弓は首を横に振る。 嬉しくて嬉しくて弓は涙が止まらないようだった。

 司祭はそんな二人をやさしい眼差しで見つめていたが、あろうことかため息をついて重い口調で言った。


「しかし……今回は無理じゃな。」

『なんでだよ?』


 司祭に噛みついたのはアリドや羽織達だった。 台に手をつき司祭に迫る。 司祭は困ったように羊皮紙をひろげながら言った。


「弓からの申請は以上8名で既に区切られておる。 今回は誰でも参加できる祭りではないからこの村の者が代表となり、それに付随して来賓を書かねばいけないのじゃよ。 弓は最後の最後に申請したのでもう村人はいないし、娘さんの名前を代表者としては書けないのじゃよ。 それでは魔法がかからん。 そして書くスペースは余ってはいるがの、合計者数も三三名と明記してしもうた。 一人増えて合計八名を合計九名には誤魔化せばなんとか書き直すことも出来るじゃろうが、合計三三の文字を合計三四の文字には変えられぬ。 認められぬ者が入れないように術がかけられているから訂正はきかんのじゃ。 どうしてもというのなら最初の村民から申請をしなおしてもらわばならん。 勿論人形もな。すると儀式をする時間に間に合わなくなって祭自体ができなくなるのじゃよ」


 うっ、と羽織達が口ごもった。


「幸い、今回の祭はダメでもまた二ヶ月後には普通の祭もある。 半年後なら村祭りにも参加できる。 それしかないぞな。 何とかしてやりたいのは儂もやまやまなのじゃが……」


 誰も何も言えなかった。


「おい司祭のおっちゃん。 さっき、八を九にはごまかせるって言ってたよな? つーことは訂正は出来なくても、簡単な加筆はできんだろ?」


ふと何かを思いついたようにアリドが尋ねた。


「うむ? 確かにできるが。 まだ時間が経っていないのでな。 文字を少しごまかして書く位ならできるぞ?」


 アリドがにぃっと笑った。


「オレの名前入れてくれ」

「アリドの?」


 一斉に皆がアリドに視線を移す。


「オレは長いこと村祭りは参加してねぇんだよな。 だから今回もメンバーには入ってないはずだ」


 司祭は名簿に目を走らせて確認する。


「確かにアリドの名は載っていない」

「んじゃ、まだ除籍してねーはずだから、一応オレはこの村の者だろ? 参加オッケーじゃん? そしてオレの連れとしてリトの名前を入れてくれよ。 実際知り合いだしな」

「しかし合計者数が…」

「三は2増えたら五になるだろ?」

「そうか!」


 司祭が微笑む。


「さてそれでは」


 司祭がゆっくりと筆を滑らす。


「おいおいジイさん、リトの名前間違えるなよ? リ・トゥ・ア・=ア・ロ・ワだぞ?」

「年寄り扱いするでない。」


 司祭がホッホと笑いながら筆を置いた。

 羊皮紙にはきちんとすべてが治まっていた。 司祭がしゅるしゅるとそれを巻いて様子を見る。


「平気なようじゃ」


 わぁ、と周囲で安堵のため息が出た。

 リトもほっとして肩の力が抜けて、へたん、とその場に座り込んだ。


「リト」


 弓が駆け寄る。


「あははぁ。 ホッとしたら、足、がくがくになっちゃった」

「馬鹿ね。 また次回も……あったのに」


 それでも嬉しそうに弓が言った。

 リトも、答えた。


「今回は絶対、来たかったの。 弓の……私の友達のおすすめだから。 私達、友達だよね? 弓?」

「リト!」


 弓はリトに抱きついた。


「友達でいてくれる? ありがとう。 リト」


 きつく抱きしめながら弓が言った。


「ううん。 ありがとう。 弓」


 リトは弓の体に手を回して抱きつき返した。


 

 ありがと。 弓。 愛想を尽かさないでいてくれて。

 友達になってくれて、ありがとう。

 一回信じてみること。 伝説やうわべに騙されないで、信じてみること。 リトは弓を信じてよかったと思った。  

 




 

「……でもリト、明日も学校あるんだから、もう館に帰らないといけないんじゃない?」


 少し時間が立って、弓がふと思い出したように言った。


「あっ、ホントだ。 どうしよう、門限に間に合わない」


 リトも気づいて慌てた。


「オレが送ってやるよ」


 そう言ったのはアリドである。


「オレが抱きかかえて走ればすぐだろ」


 リトはそれを聞いて、なにい?と思った。 この村に来るまでリトは走らせられたからだ。

 その手があるならそうしてよ……とリトは密かに思ったが。


「あー、ダメダメ。 夜に女の子をアリドに渡してみ? 館に返すどころかご両親に顔向けできない事になるから。 ぜーったい止めた方がいいぜ」


 世尊が言った。 皆がどっと笑う。


「世尊、お前な……」


 アリドがにらむ。


「いや、俺もそう思うな」


 羽織が言った。


「僕も不安だ」


 栗色の髪の占い師、来意も言った。


「兄さん。 送ってあげなよ」 


 と清流が言った。


「俺は安全なのか?」


 笑いながら巳白が答えた。


「……アリドよりは安心かも……」


 弓まで言った。


「おいおい弓? そりゃねーぜ?」


 アリドが笑う。 みんなも笑う。 リトも、弓も笑っていた。

 結局巳白がリトを抱きかかえ、弓が巳白の背におぶさり、二人を乗せたまま飛んで送るという荒技に出て(弓はよくやるのよ、と言っていたが)リトは無事白の館に門限前に帰れた。

 門の前で二人は別れた。


「おやすみ。 リト」

「おやすみ。 弓。 また明日ね」


 弓も頷いた。

 リトは急いで階段を駆けのぼった。

 心も体も疲れを忘れたように軽かった。






続きは<8人の少年+二人の少女+秘密の教育係>になります。

初投稿だったので勝手が分からず申し訳ありません。


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