Song 3: When the Wind Turns Wrong
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曲を聞きながら楽しんでもらえると、うれしいです。
# Song 3: When the Wind Turns Wrong
谷あいのリューデ村では、夕暮れになると必ずパンを焼く匂いがした。
炭焼き小屋の煙は谷の奥へ流れ、鐘楼の風見鶏は街道の方角へ尾を向ける。四人が宿を求めて村へ入ったときも、子どもたちは井戸端を走り、穀倉の戸を閉める音が石壁に響いていた。
エリアン・ヴォスだけが、門の内側で足を止めた。
「どうしました?」
セラが振り返る。
エリアンは答えず、頬に当たる風を確かめた。冷たい風が、谷の奥から吹いている。煙もパンの匂いも、こちらへ押し戻されていた。
から、からん。
見えないダイスが、乾いた皿の上を落ち着かずに回っている。
「風が、違う」
「雨でも来る?」
ミレナが空を見上げた。雲は薄い。ガランは荷を下ろし、肩を回した。
村長はエリアンの話を聞いても、困った顔をした。
「谷風は気まぐれだ。夜に向きが変わることくらいある」
「でも、音が止まりません」
「音?」
言ってしまってから、エリアンは唇を噛んだ。説明すると、自分の言葉はいつも小さくなる。音は何が来るか教えない。獣か、崩落か、それとも本当にただの風か。
穀倉の脇で、繋がれた山羊が綱を引いていた。谷奥を見ず、村の門へ逃げたがっている。
ミレナが土をつまみ、匂いを嗅いだ。
「灰が混じってる。炭焼きの煙だけじゃない」
そのとき、遠くで枝がまとめて折れる音がした。
エリアンの膝が震えた。叫べば、間違えたときに笑われる。黙れば、当たったときには遅い。
酒場の滑車の下にいた少女の背中が浮かんだ。
「鐘を鳴らしてください」
村長が目を見開く。
「風だけで?」
「何が来るかは、わかりません。でも、穀倉から離れてください。谷と反対側の石垣へ。子どもから先に」
声は震えた。けれど、今度は引っ込めなかった。
ガランが鐘楼へ走った。セラは井戸端の子どもを集め、ミレナは門脇の荷車を押して道を空ける。最初は戸口から見ているだけだった村人も、鐘が三度鳴ると動き始めた。
避難が半ばまで進んだころ、穀倉番の少年が戸口で立ち尽くしていた。
「中に帳面がある。冬までの分が全部――」
戻ろうとする肩を、エリアンは両手で掴んだ。力では止められない。靴が土の上を滑る。
「帳面は書き直せる。でも君が戻らないと、書き直す人がいなくなる」
自分にも言い聞かせるように言うと、少年は唇を噛み、石垣へ走った。エリアンはその背中を見届けてから、ようやく門の方を向く。
避難が半ばまで進んだころ、谷奥の林から灰色の獣が飛び出した。
猪に似ていたが、背には焦げた枝のような棘が並んでいる。山火事に追われ、怯えて道を外れたらしい。一頭、二頭、遅れてさらに三頭。獣たちは風上へ逃げようとして、村の穀倉へ突っ込んだ。
扉が砕け、小麦袋が弾ける。
けれど、そこにはもう誰もいなかった。
四人だけで獣を倒したわけではない。ガランは村人と柵を組み、ミレナは空いた道へ餌袋を投げ、セラは転んだ老人を支えた。獣たちはやがて門を抜け、街道の向こうへ駆け去った。
穀倉の壁は一部が崩れたが、村人たちは無事だった。散らばった麦を拾う作業には、四人も加わった。エリアンは袋を持ち上げようとして腰を痛め、結局、子どもたちと一緒に穂を箒で集めた。できることは相変わらず小さい。それでも子どもたちは、彼の箒のあとを競うようについてきた。
夜、石垣のそばで焚き火が焚かれた。
村長は焦げ臭い風の中で、エリアンへ温かいスープを差し出した。
「信じるのが遅れた」
「僕も、言うのが遅れました」
「次は、もう少し早く頼む」
風見鶏が軋み、ようやくいつもの方角へ戻った。
エリアンは椀を両手で持ち、静かになった腰の飾りへ触れた。
風が戻るまで、歌はまだ終わらない。
だが怖がりな少年の声は、その夜、村の鐘よりほんの少し先に鳴った。




