Song 2: Map Upside Down
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曲を聞きながら楽しんでもらえると、うれしいです。
# Song 2: Map Upside Down
古道へ入って半刻もしないうちに、エリアン・ヴォスは地図を逆さに持っていることに気づいた。
気づいたのはミレナだった。
「ねえ、エリアン。北が下になってる」
先頭を歩く斥候が振り返り、口の端を上げる。エリアンは慌てて地図を回そうとした。紙の端が手袋に引っかかり、今度は丸めた地図を落とした。
「すみません」
「謝るほどじゃない。道は逃げないよ」
「俺たちが迷えば、逃げるのは日暮れだがな」
ガランの声に悪意はなかった。それでもエリアンの耳は熱くなる。
街道脇の森には、昔の巡礼路が残っていた。依頼は、崩れた礼拝堂までの道がまだ使えるか確かめること。古い地図には細い道と水路が描かれているが、目の前の分かれ道には苔むした道標しかない。
ミレナがしゃがみ、地面を調べた。
「右だね。最近、誰か通ってる」
右の道は歩きやすそうだった。枝が折れ、草も踏まれている。
エリアンは地図を拾い、正しい向きに戻そうとした。
からん。
石の上で、ダイスがひとつ跳ねた。
彼は動きを止めた。
「また?」とセラが訊く。
「たぶん。でも……どこからか、わからない」
ころり。
音は右の道ではなく、手の中から聞こえた気がした。
エリアンは地図を逆さのまま広げる。恥ずかしさをごまかすように紙を見つめ、それから、細い線に気づいた。
「水路」
「何?」
「この道、礼拝堂へ上がる道じゃない。水を下へ流す溝です。逆さにしたら、坂の向きが……僕にも見えました」
ミレナが地図を覗き込み、次に道の縁の草を払った。土の下から、細長い切石が現れた。
「ほんとだ。道じゃない。埋まった排水溝だ」
踏み跡は、奥へ誘うように続いている。
ガランが小石を拾い、右手の先へ投げた。
硬い音が一度。続いて地面が沈み、枯葉に隠されていた石蓋が内側へ落ちた。浅くはない穴の底で、錆びた鉄杭が鈍く光った。
「誰かが罠を残してる」
穴の縁には、靴跡に見せかけて枝の束を引きずった跡があった。ミレナは指先で土をなぞり、道標の裏側まで調べる。苔の下には、新しい刃物で削った浅い傷が三本。安全そうな右手へ旅人を誘導するため、古い巡礼印を消した跡だった。
セラは礼拝堂の方角へ向き直り、小さく祈りの言葉を唱えた。
「罠を作った人が、まだ近くにいるかもしれません」
エリアンは森の暗がりを見た。ダイスはもう鳴らない。次の危険まで全部教えてはくれないらしい。その不親切さに、かえって少しだけ息を取り戻した。
ガランの声から、軽さが消えた。
ダイス音は危険の形を教えなかった。逆さの地図も、安全な道を指さしてはくれない。四人は左手の藪を調べ、ミレナが古い巡礼印を見つけ、セラが石に刻まれた祈りの文字を読み、ようやく迂回路を選んだ。
古い巡礼印は、左手の木の根元にも残っていた。半分は土に埋まり、杖を持つ旅人のために休憩場所まで示している。地図の線だけでは歩けない道を、昔の誰かの小さな配慮がつないでいた。セラは土を払い、消えかけた印へ静かに一礼した。森の葉が頭上で揺れた。
藪を抜けるあいだ、エリアンは枝に外套を取られ、二度ほど立ち止まった。ガランのように枝を押しのけられず、ミレナのように足跡も読めない。
それでも、礼拝堂の崩れた鐘楼が見えたとき、ミレナは彼から地図を取り上げなかった。
帰り道、同じ分かれ道でガランが言った。
「エリアン、地図を見せろ」
「はい。今度はちゃんと――」
「いや」
ガランは罠のある水路跡を見て、片方の眉を上げた。
「逆さのままで持っていろ」
エリアンは笑われたのかと思った。だが、ミレナもセラも先へ歩きながら笑っていたので、少し遅れて自分も笑った。
その日の歌では、勇者は剣を抜かない。
ただ、逆さの地図が一行ぶん、世界を正しく見せた。




