Song 1: The Boy Who Could Hear the Dice
https://suno.com/s/xbuzKxPsPbFAzTJs
曲を聞きながら楽しんでもらえると、うれしいです。
# Song 1: The Boy Who Could Hear the Dice
のちに五つの歌になった冒険の始まりは、竜の洞窟でも王の広間でもない。
樽の匂いが染みた〈青い駒鳥亭〉の、冒険者登録窓口だった。
「エリアン・ヴォス。荷運びの経験は?」
受付係に問われ、エリアンは背負った小さなリュートの紐を握り直した。くたびれた外套の裾が椅子の脚に引っかかり、立とうとして、危うく自分で自分を転ばせる。
「少し、なら」
「剣は?」
「少し……より、下です」
隣で依頼札を見ていた大男が吹き出した。盾を背負った戦士ガランだった。
「正直なのは美徳だな。で、その腰の飾りは?」
「お守りです」
エリアンは小さなダイス飾りを掌で隠した。角の丸くなった、何の魔力もない骨の飾りだ。
そのとき。
からん。
木の卓を、小さな何かが跳ねた。
店の奥では、客たちが昼から杯を鳴らしている。サイコロ遊びをしている者もいた。だが、今の音はそこからではない。
ころ、ころ、ころ。
見えないダイスが、天井の梁の上を転がっている。
エリアンは顔を上げた。二階へ酒樽を運ぶ荷揚げ滑車が、ゆっくり軋んでいた。吊られた樽の下で、給仕の少女が空の皿を拾っている。
「危ない」
声が喉に詰まった。何が危ないのか説明できない。滑車は古いが、縄は切れていない。笑われる。いつもそうだった。音を聞いたあとで黙り込み、何も起きなければ変な奴になり、何か起きれば遅すぎた。
からん。
二つ目の音がした。
「そこから離れて!」
叫びながら、エリアンは少女へ走った。だが椅子に膝をぶつけ、派手につまずいた。伸ばした指は少女の袖にわずかに届いただけだった。
次の瞬間、ガランの太い腕が少女を抱えて引いた。
縄は切れなかった。
滑車を梁に留めていた錆びた金具が抜けたのだ。樽が床へ落ち、板を割り、泡立つ麦酒を撒き散らした。さっきまで少女がしゃがんでいた場所だった。
亭内が静まり返った。
割れた板の隙間から、麦酒が細い川になって受付台まで流れた。さっき笑っていた客たちも椅子を引き、樽の下敷きになった皿を見て黙っている。少女はガランの腕から降りると、震える手で前掛けを握った。
「母さんに、また皿を割ったって怒られる」
「皿で済んだなら、今日は上等だ」
ガランが答えると、店主は青ざめた顔のまま何度も頷いた。ミレナは滑車のそばへ膝をつき、床を転がった金具と梁の穴を見比べた。誰かが魔法を使ったわけではない。ただ古いものを古いまま使い続けた、その小さな油断だった。
「……縄じゃなかった」
エリアンは床に手をついたまま呟いた。膝が痛い。自分では助けきれなかった。その事実に、胸の奥が冷えた。
「だが、落ちるのはわかった」
ガランは少女を立たせると、梁を見上げた。斥候らしい軽装の女――ミレナが、抜けた金具を拾う。
「錆が中まで回ってる。外からじゃ見えにくいね」
治癒術師のセラは、エリアンの擦りむいた掌に布を当てた。
「よく声を出しました」
「でも、僕は転んで」
「転んだな」
ガランは笑った。ただし、さっきとは違う笑い方だった。
「だから俺が引いた。冒険者は一人で全部やるもんじゃない」
店主は壊れた床の前に木箱を置き、少女へ奥で休むよう言った。客たちは倒れた椅子を起こし始める。大事件ではない。明日には床板も張り替えられ、麦酒の匂いだけが少し長く残るだろう。だからこそエリアンは、間に合ったことをようやく実感した。
受付係は濡れた依頼札を拭きながら、四人向けの小さな仕事を一枚差し出した。街道脇の古道を調べる、駆け出し向けの依頼だった。
ガランは札を受け取り、エリアンへ顎をしゃくった。
「次も、聞こえたら言え」
エリアンは膝をさすりながら立ち上がった。
腰のダイス飾りは、もう鳴っていない。
それでもその日、彼は初めて、自分の一歩遅れを待ってくれる仲間と店を出た。




